【1】プロローグ編 第2話 ダンジョンを狩る者。
俺が両の手中に顕現させたこれら黒い刃の短剣は、『迷宮スキル』の【宝庫】の中に蔵していたものだ。
この二振りの短剣は俺のスキルにより【創造】した俺専用の武具。
「『闇纏う闇』」
着ていた服も黒いライダースーツに換装させた。これも俺が【創造】した俺専用の武具だ。
「『闇喰らう闇』」
次はガイコツを模した模様が俺の頭上半部を覆う……ニット帽だ。まあ確かに、これは戦闘には向かないように見える。だがこれも俺が【創造】したれっきとした俺専用の武具。
これらはゲームで例えるなら…いわゆるシリーズ武具というやつだ。ゲームのお約束と同じく揃えて装備する事でその真価は発揮されるようになっている。
そして、とてつもなく危険な装備でもある。
だから普段使いはしていない。こうした危険なシリーズ武具を俺は『ダンジョン兵器』と呼んでいる。
さあ、スキルも発動する。
『迷宮スキル』を。
【支配】。
【増殖】。
【維持】。
【戦録】。
そしてこれら迷宮スキルが従える『顕能』。
それらをこの状況に合わせ選択する。
選択したそれらからありったけの『拡張能力』が開放される。こうして選択する事で、俺の総合力は状況に合わせてさらにとカスタムされ、強化されていく。
さあ、
開放されるぞ?
一挙に。
多くの能力達が。
開放された悦びに狂うそれら『力』達が俺を浸そうとし、侵しに来たそれらを俺が喰らう──そんな感覚が全身を這い回る。
『暗がりの中限定で物理性能上昇』
『暗がりの中限定で闇属性超強化』
『暗がりの中限定で感知、隠密能力増加』
『暗がりの中限定で不意打ちクリティカル判定』
『暗がりの中限定で────
『素早さを犠牲に───
『闇属性能力を───
『支配領域を───
『物理性能───
『────
『──
『─
『
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こうして合計にして20を越える効果、能力が俺の一時的な血肉となっていく。そしてその一部を相棒に、託す。
「頼んだぞ。…相棒。」
【ハイ!マスター!】
そしてさらに
俺は『俺の深部』へ呼び掛ける。
「『ヤン』。今日も頼む」
『任せるっぺホラ…ウチの最高傑作の頼みなら…ホラ…頑張るッペホラ…』
「『カル』。今日も冴えてるか?」
『あん?誰に言ってるッチか!?愚問だッチ!』
今の二人も『俺の中に住む眷族』だ。今ので俺の『マスター権限』の一つが発動された。俺はさらにと力を増幅させていく。
だが、まだだ。
虎の子のスキルが残っている。
さあ…発動する。
このスキルの発動条件は『ダンジョン兵器を身に着ける事』…つまり、これもまた危険な能力となる。そしてこのスキルが持つ『顕能』は二つあるが(…ニつ目はまだ早い。)
だからまず、一つ目。
「『怪紋』」
俺の装備全てに浮かぶは、人骨を攻撃的にデフォルメしたおどろおどろしい紋様。ニット帽に至っては骸骨模様の眼窩部分から飛び出た『角』のような…立体的で、青白い炎が立ち上る。これにて、ぶっ壊れ装備がさらなるぶっ壊れを発揮する。まあ…これでもまだ、『一部』なのだが。
ビュイ……ッ!
耳朶を嬲る風の音。それを置き去りに俺の姿は一本の黒き線となった。トンネル内を文字通りの縦横無尽、立体的に駆け巡り一筆書きにて軌跡を描く。
溢れ返った有象無象を一網打尽、斬って、刻んで、断って回る。悪魔系のタフネスをいとも容易く命ごと刈り取っていく。
俺を目で追えず混乱する悪魔属の集団…その内の一体…よし、同士討ちを始めた。味方同士の殺意が増幅されていくのを収められず、さらに混乱している集団の中、数々の強化により皆殺しの権化となった俺が再突入。
敵さんも溜まったもんじゃない。『闇属性の悪魔属をすら、一撃で屠る闇攻撃』それが同胞の命を纏めて刈り取っていくのだ。「何故同士討ちするさなかに、友とするはずの闇にまで屠られる不条理」を思う間もなく、さらにさらにと混乱を深めていく。
打ち漏らした連中も結局は俺がばら撒く様々なバットステータスに蝕まれ…次の一撃…その余波であっさりと死ぬ。
一斉にバタバタと沈みゆく敵の群れ。そこから生命力やら魔力やら殺意やら無念やらを吸収しておくのも忘れない。俺は更にと盤石を築いていく。そして顕現されるは…
阿鼻叫喚。
地獄絵図。
但し書きには『敵専用』。
そんな修羅場に相応しい『陣地作り』も同時進行中。さらにさらにと、このワンサイドゲームを強いるために。
俺はこうして圧倒を繰り返しながら、継続しながら、それでいて勝負を急がず、さらなる敵の増援を待ち、それをまた迎え撃つ。なんなら悪魔系の魔物、その全てを根こそぎ誘い出す…そんな仮の中間目標にあえて狂って暴れに暴れる。
そう見えて俺はまだ冷静だ。倒れた魔物…その素材を【吸収】したい気持ちだって、今はあえて抑えている。こうして死体を放置するのも『誘い出す』ためだ。ダンジョンボスを。
こんな壮絶も凄惨も、件のボスにかかっては胸躍る遊園地……そう見えているに違いない。つまり舞台は着々と整いつつある。そこで俺は待つのみだ。
ボス部屋という『ダンジョンエネルギーの加護』に守られた敵陣地では駄目だ。この、『俺専用の支配領域』にボスを誘い出し、ここでとどめを刺すのだ。
ほら目論見通りに誘われた雑魚どもが続々と先着してくる。死ぬ未来しかないのに。それが、ボスへのメッセージになると知らずに。
──いつまで我慢してるつもりだ。早く来い。
このメッセージ…届いているはずだ。まあそんなに時間はかからないだろう。目処なら立っている。
あのダンジョン壁に『一体化』して貼り巡らされた壁画やアンチワード群。あれらを見れば一目瞭然だ。
何故ならあれは…ダンジョンエネルギーを使わなければ出来ない芸当。つまりアレはボスの仕業。そしてこのボスは間違いなく……『徘徊型』だ。
いくつものダンジョンを従える野良ダンジョンの中にはボスが独自に進化してしまい、その強さを自覚し、自我を得てダンジョンの外にまで遠征するナンテことが、極稀にある。…ここのボスのように。
目に浮かぶようだ。強さに自惚れエリア内を徘徊し芸術収集に励むボスの姿が。
そしてここは最深層。ボス部屋近く。メッセージは確実に届いている。なかなか釣れてくれないが… 暗い情念を何よりの好物とし、あんな趣味を持つナルシストであるならきっと…
───ほら。
「煽り耐性……ゼロってな。」
濃い白の霧。
どうしょうもなく不吉を感じさせるそれが迫りくる。多分だがあれはボスが身に纏う瘴気。その膨大かつ、無駄に溢れ返った力を引きずり カカカカカツ…カカカカカツ……
響き届くは…馬蹄音。
(いや、馬蹄音にしては拍子がいくつか多いようだが。)
接近して来る。
未だ見ぬ存在。
それでも分かる。
今から遭遇するそれは
暴威の化身。残虐の権化。
ほら薄っすらと。瘴気のベールからお出ましだ。
「遅かったな…」