隣の部屋の騒音で眠れない俺。隣は一体何者なんだよ!?
俺はヤマダ。普通の会社員だ。最近深夜の騒音に悩んでいる。隣の部屋が夜中うるさいのだ。 確か去年までは女性が住んでいた(たまたま玄関で出くわした)が当時は特に深夜の騒音などは無かった。引越しして住人が入れ替わったのだろうか。今住んでいるのは何者なのかな……。
今夜も、音楽とか一定の音量ではなく、男の声が小さく聞こえたり大きく聞こえたりしている。連日聞こえるので睡眠不足で辛い。
一体何をやってるんだ!? 俺は、壁に耳をあてて聞いてみた。
微かな声で聞き取れないな。『……』
お、ちょっと大きな声になった。『……なり』
急に、腹の底からの大声だ!『……をあがめよ~! 控えおろう~!』
「うわぁー!」俺はぎょっとして壁から離れた。もしや壁に耳をあてたのが分かったのだろうか!? 怖えぇ…。ドキドキする。もう止めよう。とにかくベッドで横になろう。耳栓をして、なるべく沢山睡眠時間を取るんだ……。
次の日の夜が来た。 ううっ。今日も聞こえる。お経のようにも聞こえるなぁ。いや、女性歌手のアイドルっぽい歌を、無理やり野太い男の声で歌っているようにも聞こえる。
『…あなたの~…』『……なんて思わないーー!!』
小さく聞こえたり、大きく聞こえたりするのはなぜなんだ……。
とにかく、う、うるさい……眠れない……。苦情を言っても大家さん頼りにならないかったし。
う、う、う、う、もう耐えられないいぃぃ! やめろー!!
気がつくと俺は発作的に壁を叩いていた。
ドン!ドン!ドン!
うわああああああぁ! うるさいってんだよーーーー!!
ボコォッ!!! うわ、壁が壊れてしまった! 俺は隣の部屋を凝視した。
広い……。何、ここ!? そこは部屋というよりは、広い教会のような、集会室のようなところだった。部屋がこんなに広いわけないだろ!? どうなってんだ?
そこには女性アイドル歌手のような格好をした、身長2mぐらいの男が歌を歌っていて、周りにローブを来た男達が沢山いた。以前見かけた女もいた。巫女のような格好をしていた。彼女は男性達の歌の指導をしているようだ。
「すいませんでした。壁が薄かったのかしら。そんなに音が響くとは思ってなかったのです」
俺はかつて隣に住んでいた巫女さんの話を聞くことが出来た。
「あたしは異世界から来て、この部屋に住みつき、歌手をしていたのです」
隣の部屋はいつの間にか異世界と繋がっていて、異世界から転移してきた彼女が歌手として活躍しつつ、異世界にもアイドル歌手や握手会の手法を取り入れ宗教活動していたとのことだった。
そして俺は以前の仕事を辞め、今異世界に来ている。今日もお布施握手券を沢山売らないといけないのだ。
「お布施1枚ご購入で10秒握手出来ま~す」
異世界の巫女さん達で作ったアイドルグループのマネージャーになったのだ。あわただしい日々だけど夜は眠れるし、それなりに幸せかなぁ……。
(おわり)
この短編小説はフィクションです。握手券付きのシングルCD 1枚購入ごとに、アイドル歌手と10秒握手できるシステムを特に推奨するものではありません。