其ノ三
《魔物》
未だ解明されておらず、詳しい原因は不明であるが、色素の暴走・突然変異を受け、生態が変質した動物がそのまま一つの種族として、生態系を形成したもの。
幻想種も同様に、色素が発生に大きく関わるが、魔物とは根本的に異なる生命体。
☆
麗奈がこの世の終わりのような顔をしながら、職員室へ向かったのを見送ると、琥太郎の元に、二人の女子生徒が近づいてきた。
「おはよー! コタロー!」
「おはよう、皐月。相変わらず元気だな」
「うん! 朝ごはん沢山食べたからね!」
そう言う彼女の名前は、七瀬 皐月。常に明るく元気
で、可愛らしい笑顔と跳ねっ毛が特徴の、1-1の元気印。
高校生とは思えないほどの幼zy……小柄な体型で、とてもおs……若く見える。
「ふふ、元気なのはいい事じゃないですか」
「だよね!」
「はは、それもそうだな。それと、おはよう澪」
「おはようございます、琥太郎」
そう言って笑顔を浮かべる彼女の名前は鞠智 澪。モデルのような体型に艶やかな黒髪、誰に対しても丁寧な言葉遣いから育ちの良さが伺える。
「麗奈はまた連れていかれましたね……」
「あぁ、麗奈には学習能力が無いのだろうか?」
「でも大丈夫だよ!」
「麗奈だもんな」
「麗奈ですから」
最早、彼らにとっては日常の一部となっている光景だ。
「何の話してんのー?」
「麗奈の話」
「なるほどなぁ」
「麗奈は何故何時も眠そうなんだ?」
雅也の疑問も当然の事だった。
幾ら日常の一部となっていても、やはり気になるだろう。
「さぁ? 謎なんだよなぁ」
「麗奈はミステリアスな子やしなぁ」
「以外と勉強でもなさっているのでは?」
「でも麗奈だよー?」
「「あ〜」」
最早、「麗奈だから」の一言ですべてが済むのではないだろうか……。
と、そこで琥太郎は周囲の視線に気付いた。
クラス内の男女からの、羨ましげな視線がこちらに集まっている事に。
──ま、そりゃそうだよね。
宗も雅也も皐月も澪も、それから麗奈も学年屈指の美男美女。それぞれがファンクラブを、持つほどである。
──そこに一人、目立たないやつが居たら、そりゃあね……ま、仕方ないか。
と、一人納得して、この熱視線に耐える事を決意する琥太郎。
これもまた、琥太郎の日常の一ページとなりつつあった。
☆
授業が始まる。一時限目は色彩工学の基礎理論かだった。
「えー、まず初めに、前回の復習から。現在我々の生活を支えている技術は二つあります。一つは科学技術。もう一つは色彩工学です。この色彩工学は皆さんよく見にしますね。立体ホログラムや、遠距離通信等によく使われています。
そして、この色彩工学は"色素"と呼ばれる特殊な物質によって支えられている訳ですがその性質を一つ、誰か分かる人………はい、鞠智さん」
「動物の脳波によって、様々な物質・事象に変化する事です」
「はい、その通りです。色素の持つこの性質無しでは、今ある技術は完成し得なかったと言って過言ではなく、また色彩魔術や異界との交流についても───」
授業は恙無く進んでいく。
☆
午前の授業が終了し、琥太郎達は学食へ食事に来ていた。
琥太郎は日替わり定食。
宗はかつ定食。
雅也は笊蕎麦
麗奈はデス・カレー10辛
澪はグラタンとサラダ。
皐月は超特盛ウルトラ海鮮丼(制限時間10分以内で完食すると無料)。
「なぁ、麗奈って毎回それ食ってるよな?」
「ん」
「辛くないのですか?」
澪も不思議そうな声で尋ねる。
「大丈夫」
超特盛ウルトラ海鮮丼と並び、学園屈指のネタ料理であるデス・カレーは1辛でさえ気絶する者もいる程の辛さで、食べる際に契約書を書かされる程である。
そのデス・カレーの10辛。
最早想像する事さえ憚られる辛さである。
「美味しい」
あまつさえ、それを「美味しい」と嬉嬉として食す麗奈の舌は一体どうなっているのだろうか?
「麗奈はすごいね! 皐月は辛いの食べられないよ〜」
そう言っている皐月だが、その手には直径50センチ、深さ40センチの特大の丼に、高さ70センチ程積み上げられている具と白米。到底、10分で食べ切る事など物理的に不可能と思われた海鮮丼が、頼んでから三分程度しか経過していないにも関わらず、既に半分以下にまで食されていた。
──ん? ちょっと待て。皐月の隣にも何も入ってないが、同じような丼があるんだが、まさか……。
「皐月? お前の胃はどうなってんの?」
「え? 普通だよ?」
「ごめん、普通じゃないわ」
琥太郎がそう言うのも無理はなく、実際皐月の腹は、先程から一向に膨らむ気配を見せない。
「いやぁ、にしてもその身体の何処にあの海鮮丼が入っt────ヒッ……」
「ん? 宗何か言ったー?(ニッコリ)」
皐月はにこやかに尋ねる。
しかし、その目は笑っていない。
どうやら宗は皐月の地雷を踏み抜いた様だ。
「ヒッ……あ、いえ……その……何でもないです、ハイ……」
「そーお? なら良かった(ニッコリ☆)」
「あ、アハ、ハハハ……」
普段怒らない人ほど、怒ると怖いというのは、どうやら本当の事らしかった。
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