其ノ壱
著作の「俺、自分の能力判らないんですけど、どうしたらいいですか?」のリメイク修正版です。
もはや、原型を止めておりませぬ。
ご了承下ちぃ。
・・・───"異界"。
それは、地球とは異なる人類史。
別の惑星にて栄えた文明なのか、それとも
"平行世界"に存在しているのか……。
その一切が謎に包まれた未知なる世界。それが"異界"。
☆
───ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ!ピピピッ! ピピ──
タンっ、と不快な機械音を鳴り響かせる目覚まし時計のアラームを止める。
時刻は、午前5時ジャスト。
まだ日の出前の薄暗い部屋には、積まれたままのダンボールの山と寝具、いくつか取り出した生活品以外は何も無い寂しい空間が広がっている。
殺風景なその部屋に置かれたベッドから起き上がり、大きく伸びをする。
──昨日は越してきたばかりで爆睡しちゃったけど、時間通りに起きるあたり、生活習慣って凄いね。
「んんん〜〜っと!…………さて、走るか」
☆
「フッ……フッ……フッ……フッ……」
自身から発せられる呼吸音と、鳥の囀りを聞きながら、まだ薄暗い朝の街を彼は疾走する。この辺りは近代的なビル群と自然とが計算し尽くされた調和を生み出している。
……と、彼の見たパンフレットには書いてあった。
──やっぱ自然って大事だよね!
季節は5月。
朝の街はまだ、冬の色を少々残している。
ランニングが終われば、彼の日課となっている朝のトレーニングを行う。
腕立て伏せや、腹筋、背筋を鍛える基礎的なものから、実戦を意識した組手を行う。もちろん彼に相手は居ない。木などを人に見立てているのだ。
……別に彼はボッチでは無い。 機会に恵まれなかっただけであって、断じてボッチな訳ではない。
☆
彼は支度を終えて、家を出た。
彼が今住んでいるのは太平洋上空に浮かぶ、空中学制都市『アルカディア』。
アルカディアは計10層のリング状の超巨大な浮遊盤からなる球体階層構造で、外輪五層と内輪五層に分かれている。
そして、今彼が歩いているのが、内輪の"学園区画"と呼ばれている区画内の学生寮から学園へと続く通学路だ。
学園は、開拓団員の育成を下に設立されたもので、地球にはあと四つ、同じような空中学制都市が存在する。
彼は里親である師匠の下を離れ、この学園へ開拓団員になるために来た。
そんなことには、微塵の興味もくれず、彼はとある出来事に驚きを隠せないでいた。
「──美味い! 何コレめっちゃうめぇ!?」
そう、彼は今、先程コンビニで買った『旨辛塩カルビおにぎり』なるものがとても美味であることに感動を覚えていた。
今日は冷蔵庫の中身を切らしていた為、コンビニで朝食を済ませている。
そもそも彼は、小学校に途中から通わず、修行に明け暮れていたため、コンビニなど行ったことが無かった。
ひと月前、初めてコンビニへ入った時の感動たるや、彼はその事を一生忘れることは無いだろう。
「コンビニって、凄いな……」
彼のがコンビニに感動していたその時、彼の右手に持っていたレジ袋が中身ごと消えた。
「あれ? どこいった?」
辺りを見回す。
すると、コンビニ袋を加えた三毛猫が、こちらを背にして走っていく姿が目に入る。
「あっ!? 待てッ!! 泥棒猫!!」
声が届いたのか、猫は立ち止まるとこちらを向いた。
そして、ニィィィと、挑発するように口を歪ませると、塀に飛び乗り、そのまま塀伝いに走り去っていった。
「…………………」
彼は挑発された。
あの猫に? 否、あのこそ泥に。
彼は存外キレやすいのかもしれない。
「……絶対、とっ捕まえてやる《殺る》……!」
最後に物騒な言葉が聞こえた気がしなくもないが、気のせいだろう。
彼は足に力を込め、一気に駆け出す。
周りの景色が流れ、あっという間に猫に追いつく。
「お縄にかかりやがれ!」
「ニャッ!?」
まさか追いつかれるとは思っていなかったのか、面食らった顔をする猫。
「ニャニャッ!!」
しかし、彼の伸ばした腕を危うげなく躱すと、猫は彼の頭を踏み台にして地面に着地。
そのまま、先程より速度を上げて逃走していった。
「おちょくりやがって〜〜!!」
彼は負けず嫌いなのだ。
猫相手だろうが、勝負の世界にそんなものは関係ない。
☆
そこから猫VS彼の逃走劇が始まった。
ある時は追い込み、またある時は地の利を生され、差を広げられたり、正しく一進一退の攻防だったであろう。
終わりの見えないこの勝負に終止符を打つべく、彼は集中力を高める。
「………ッ!」
猫は気付いたのであろう。
先程までとは、明らかに数段、彼の速度が上昇している事に。
ふははは、お前の運もここまでよのぉ!
……とでも言いたげな顔で、彼は猫に手を伸ばす。
が、その時。
道角から人が出てきた。
今彼は、全力疾走の真っ最中。
加えて、集中力を猫に向けていた為に、彼は気付くのが遅れた。
気付くのが遅れれば、当然反応も遅れる。
結果的に、彼は道角から出てきた人物と、盛大に衝突した。
「うおっ!?」
「うわぁっ!?」
派手にぶつかり、互いに尻餅をつく。
「イテテ……」
「いっ痛ぅぅ……」
すぐに謝ろうと相手の方に彼が向いた瞬間。
「ごめん。周り──「すんまへん!!」
相手が、物凄い勢いで頭を下げてきた。
「ワイが周りをよく見とらんかった。ホンマにすんまへん!──って、琥太郎やないか」
「こっちこそごめん、宗。それとおはよう」
「おう! おはようさん」
しかし、琥太郎は気付く。
「ん? どないしたん?」
「…………ない」
「え?」
「………居ない」
「何が?」
「泥棒猫!!」
「泥棒猫?」
「そう! 人の物を盗んでいったあの三毛猫!!」
何処に行った? まさか、ぶつかった時に潰れたんじゃ………?
琥太郎の中で最悪の結末が予想される。
「───!!」
琥太郎は急いで辺りを見渡すが、それらしきものはなかった。が、代わりに口角を三日月のように上げてこちらを見下ろす猫が一匹。
いはずもがな、あの泥棒三毛猫である。
「ニャァ〜〜」
そう鳴くと、猫は塀の向こうへ消えていった。
その顔には、「してやったり」とハッキリ書かれていた。
「………あの泥棒猫め……」
「アイツはしゃーないなぁ〜」
「ん? 知ってるのか?」
──喋り方がすごい気になるぅ……!
どうやら、琥太郎はの喋り方が気になるようだ。
「それで、あの猫を知ってるのか?」
「あぁ、あの猫はこの街のボス猫で、恐ろしく賢いんや。人間の考えてることを完全に理解してるで、あれは……」
「いつか、とっ捕まてやるぜ……!」
「こうして、琥太郎の壮絶な旅が始まった。まだ彼は知らない、この先に待ち受ける、数々の困難を………」
「なんで、ナレーション入れたの?」
「何となく」
「何となくかよ」
彼らは楽しそうに話しているが、そんな事をしている場合では無い。
「やばっ……そろそろ行かないと遅れるな……」
「ほな急ごうか」
そう言って彼はスタスタ歩き始める。
彼の名前は國原 宗
琥太郎のクラスメイトであり、友達第1号である。
──それにしても、喋り方が気になる……。
宗と出会ってはや一ヶ月。
やはり、琥太郎はどうしても宗の話し方が気になるようだ。