智也と春香
「やあ、来てくれるとは思わなかった」
「……私は、まだ、貴方がわからない」
春香は、笑顔の智也に躊躇うように言う。
二人で決めた暗号の場所。その地に、春香は来ていた。山奥の公園だ。
「けど、優助が助かった時、周囲が落雷が落ちたように焦げていたって言ってた。貴方は、何故スキルを失わずにいられたの?」
「天然物のスキルユーザーなんだよ、僕は。聖者という奴だね。僕の見立てでは、暁君枝も、優助もそうだ」
「そうね。その二人は、力を失わなかったわ。君枝ちゃんが他の人から吸い取ったスキルは消えていたけれど」
「まったく。僕の予測は今日も百発百中だ。嫌になるよ」
そう言って、智也は愉快そうに笑った。
「今なら、わかる。貴方の目的は、今回の激しい戦闘を終わらせるためだった。なら、何故もっと前の時代にその雷帝の力を振るおうとしなかったの……?」
「そうだね。木崎零の現役時代だ。天道衆の暗躍も、僕には見えていた。けど、どうあっても世界は書き換えられた。天道衆の首魁の使う特殊能力、因果応報には僕の攻撃では届かなかった」
「だから、木崎零に託した……?」
「そうだ。次に、暁君枝の時代。その時は、どうやっても天道衆の首魁の思念が残った。それを消すには、優助のスキルの完成を待つしかなかった。勇者を探していたら歳を取ってからできる自分の息子がそうだった。皮肉な話だよ」
「貴方は、そうやって、一人で背負い込んで……」
春香は、頭を抱えて溜息を吐く。
「相談すれば良かったじゃない」
「相談することで未来は組み変わる。最善の未来が見えているのにそれを変える必要が何故ある?」
「貴方は家庭を持っている自覚があるのかしら」
「所詮、義父の家に間借りしてる家長でもない男だよ」
そう言って、智也は皮肉っぽく微笑む。燕のように。
「まったく、子供みたいね、貴方」
春香は、目に涙を浮かべて呆れ混じりに言った。
「ああ、子供なんだよ、僕は。これからも、そうだ」
「で、行くの?」
「ああ、行くよ。君には多少未練があるがね。だから、こうした場を設けた」
智也は、春香の顔を覗き込む。
「僕と、来ないか?」
春香は、数秒考えた。
「やあよ。可愛い息子も娘も孫もいるんだもの」
「そうかい、残念だ。それじゃあ僕は、遠くから君達の平和を見守るとしよう」
そう言うと、智也の体が浮いた。
そのまま、遠ざかっていく。
最後の瞬間、春香は無意識に手を伸ばしていた。
けれども、それはなにも掴めなかった。
掴めなかったから良いのだと、そう思う。
その日、智也は春香の前から姿を消した。
それが永遠の決別になることを、春香は感じていた。
次回『宴会に始まり宴会に終わる』




