炸裂
「インストールは早いのに、アンインストールが遅いったら」
有栖はぼやくように言う。
有栖の行っている作業。それは、スイッチを手動でオフにしていっているようなものだった。
世界中のスキルユーザーと霊脈とのスキル用の繋がりを断っていく。
その後に、世界の在り方そのものも書き換えていく。
頭をフル回転して行っているが、もう少し時間がかかるだろう。
優助が、苦痛の声を上げている。兄の悪意を一身に受けているのだ。やむないことだろうと思う。
しかし、この作業にも終りが見えてきた。
「こちら別働隊。あと十分もたせて!」
有栖はそう、猛々しくトランシーバーに声をかけた。
「優助、あと十分だ。もつね?」
「俺は……守る。皆を、守るんだ……! 皆で、明日を掴みたいんだ!」
息も絶え絶えに優助は言う。
「上等。良い根性してるよ、あんた」
有栖は微笑んで、最終作業に取り掛かった。
+++
「あと十分か……」
燕が、迷うように呟く。
「長い十分になりそうですね」
零が、微笑んだ。
「まったくね」
燕も、気が抜けたように微笑んだ。
小豆も散った。セレナも散った。皆、自分にできることをしている。
なら、自分にできることはなんだろうと月夜は考える。
桜華斬は切り札だ、と言われた。切り札を切るタイミングは見えない。
むしろ、敵に取り込まれてこちらを不利にした感すらある。
自分のこの地における存在意義はなんだ。そう、月夜は考える。
「月夜!」
真昼の声で、黒い刃が自分に向かって襲い掛かってくるのを月夜は察知した。
無詠唱の覇・桜華斬で返す。
足止めは、できた。
「次いでいでよ! 月の光を纏いし花よ!」
縦に斬ることで十字、桜華斬が完成する。
相手の一撃を相殺できた。
「ボサボサしてるな。あと十分だ! 残ったメンバーで生き残るんだ!」
零が叫ぶ。
集中力が切れかけていたな、と月夜は思う。
今できること。それは目の前の敵を倒すことだけだ。
そして、桜華斬を味方の盾にすることだけだ。
月夜は疲労の滲んだ体を必死に動かした。
そう言えば、第四形態の限界稼働時間も試していない。
死神を倒した後一晩第四形態になっていたから大丈夫だとは思うのだが。
その時、月夜の打ち合った剣が、月夜の大剣をバターのように斬った。
零のコピー体だ。
いけない、と月夜は思う。
限界状態が続き、集中力が、切れている。
すぐに、剣を再生させ、無詠唱の桜華斬。
そう考えた時、真昼が自分を押した。
「言ったろ。守るって」
真昼の腹部に深々と刃が突き刺さった。
零のコピー体は、同時に真昼の鬼神の鉄槌で撃破される。
「真昼!」
月夜は、悲鳴を上げていた。
真昼の腹部に触れる。次から次へと血が漏れてきている。
朧気になっていた思考が正常に回転し始める。
「足を止めるな! 止めた奴から死ぬぞ!」
零が叫ぶ。
その時、藤五郎が燕の背から落ちた。
つまり、それの意味するところは……
巨大主が支えとなる壁をなくし、零達に向かって落下してきている。
絶体絶命のその時、トランシーバーが音を立てた。
「書き換え、終わり! きゃっ」
真昼の手を握って、月夜は立ち上がる。
そして、唱えた。
「舞い散れ、花びらよ! その光を持って不浄なる者を浄化せよ! そう、裁くのは我! 我こそが光の主である!」
大剣を振りかぶる。色とりどりの光が大剣に吸収されていく。
それは、虹色に輝いて周囲を照らした。
普段の限界以上の力が湧いてくる。
普段の限界以上の力を篭めれる。
この一撃は、決定打だ。
「やっちまえ! 月夜!」
真昼が叫ぶ。
「真・桜華斬!」
光が放たれた。
それは、巨大主を丸ごと飲み込んでそのまま空の暗闇までをも貫いた。
その時、帰らずの森上空にあった闇が晴れた。
「薄っすら、青い……」
月夜は、思わず呟いた。
空は薄く青い。朝と夜の狭間の時間、それが今。
周囲の主達も、徐々に消えていく。
天変地異は終わったのだ。そんな実感があった。
月夜は慌てて、真昼を見る。
「まったく、カッコつけて、馬鹿なんだから」
「お前は切り札だろ。切り札らしく守られてろよ」
そう言って、真昼は弱々しく笑う。
「まだまだ足りないぞー、おらー!」
そう言って、スカーレットは吠える。
「なくなっちゃったか……」
そう言って、彗は泣き笑いの表情で苦笑する。
「面目ない……」
そう、燕に手を握られて浮いている藤五郎が呟くように言った。
「優助達は……?」
明日香が、躊躇うように言う。
零は押し黙っていた。
そうだ。スキルが使えなくなったなら、優助達は主達に襲われることになる。
戦える召喚術師は、優助のみだ。
「余裕があれば、別働隊への救援部隊を送る予定だった」
燕は、淡々と言う。
「余裕、ないんだもんね。有栖の異世界生成で逃げ出したと思いましょう」
そう、溜息混じりに続ける。
+++
明日香は、走った。必死に走った。
優助が死ぬ。
その未来だけは、あっては駄目なものだ。
(冬音も秋悟も待ってるんだよ、優助! 私も彗も待ってるよ、優助! 死んじゃ駄目だ!)
木の根元に蹴り躓いて、思い切り顔面から地面に叩きつけられる。
その上から、主が覆いかぶさってきた。
「いやっ……」
主の頭を、槍が貫いた。
槍の召喚術師と言えば、明日香の知り合いに一人しかいない。
有栖と君枝を抱えた優助が、立っていた。
「優助!」
明日香は、優助に抱きつく。
そして、極度の緊張から開放されて、泣いた。
「今回はへとへとに疲れた……」
優助は、ぼやくように言う。
「皆そうだよ」
明日香は涙を流し、苦笑混じりに言う。
「そうだな」
「よく無事だったね。召喚術に切り替えてなんとかしたの?」
「いや、正味、数分間意識を失ってたんだ……」
「えっ」
ならば、なぜ優助は今生き延びているのだ。
「なんかな。落雷でも落ちたかのように周囲が焦げてた。そのおかげなのかもな」
「落雷……」
「まさか、だよなあ」
そう言って、優助は苦笑する。
「帰ろう、皆で」
優助はそう言って、歩き始めた。
「うん、皆で!」
そう言って、明日香は腕を高々と上げた。
空は青白くなってきている。薄っすらとした入道雲が空に浮かんでいるのが見える。朝が来ようとしていた。
戦いの夜は終わった。
次回『智也と春香』




