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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
スキルユーザーは優しい夢を見る

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95/99

そしてまた一人

 セレナは息を吸って、吐いた。

 地上に落下した衝撃で右肩に鋭い痛みがある。

 徐々に回復しているが違和感はしばらく取れないだろう。

 それを、無理やり頭から叩き出す。


 そして、目を閉じた。

 周囲にある多数の主の頭にアクセスする。限界を越えて、アクセスする。特に、コピー体の頭にアクセスする。


「敵が、同士討ちしてる……?」


 零の、戸惑いの声が上がる。


「奥の手その一。緊急事態に備えての配置だったのね」


 燕が、関心したように言う。

 光が、視界を覆った。

 今は全く違った町に発展している故郷。霊脈の中核が近いからか、その地が、見えた気がした。


「セレナ、やめな!」


 スカーレットの怒鳴り声がする。


「どうして? 私、今、凄く役に立ってるよ。良いこと、してるよ……」


「セレナ! くそ、手遅れか」


 意識が遠くなっていく。スカーレットの悲鳴のような声が遠くに聞こえる。

 それでも、セレナは操り続けた。


 十分間、二十分間はもっただろうか。

 セレナという存在は、そこで完全に消えた。

 セレナは得た力によって体を維持していた。その力を使い切る方法などないと思われていた。

 けれども、この主の山において、その方法は存在したのだ。

 セレナは、消えた。別れも言えずに、消えた。

 最後の一瞬、脳裏に思い浮かんだのは、中島みゆきの時代という曲。


(ああ……やっぱり好きだな……この曲……)


 それが、セレナの最後の心の呟きだった。



+++



「これが……」


 優助は、光り輝くそれを見て思わず呟いた。

 別働隊は、中核に辿り着いていた。

 白い光の膜の外は真っ黒だ。主が張り付いているのだろう。


「行くわよ、君枝」


「はい、有栖さん」


 君枝が、中核に手を置く。その上に、有栖が手を重ねた。

 その時、有栖は顔を歪めて、転げ回った。


「兄め……この時を、狙っていたっていうの?」


 優助は真っ青になった。このままでは、別働隊の動きが無駄になる。


「お兄さんの意識を消すわけには……?」


「駄目よ! 私の力が制御できなくなる!」


 有栖は、息も絶え絶えに言う。


「時間がない! やるしかないんですよ!」


「少し、落ち着くまでの時間を頂戴……」


 そう言って、有栖は呼吸を整え始めた。

 その時、トランシーバーが音を立てた。


「近接部隊! 状況を説明して!」


 燕の声だ。


「驚いた……連中、こっちのメンバーのコピー体を作りやがった! 今のは覇・桜華斬だ!」


 零の声に、優助は背筋が寒くなるのを感じる。

 あの強力な桜華斬。あれが味方に向けて放たれたと言うのだろうか。


「急いで仕留めて!」


「真っ先に仕留めた! しかし、見ての通り次が出てきやがる!」


「術師部隊! 生き残りはいるか?」


「こちらスカーレット。生憎不死の体でね。生きてるよ。彗もセレナも生きてる。小豆は駄目だ」


「そう……足止めは能う?」


「任せてー。余裕のよっちゃんよ」


「小豆ちゃん……」


 君枝は、小さく呟いた。

 その瞳から、一筋涙がこぼれ落ちた。


「有栖さん。俺がフィルターになります」


 優助は、そう提案していた。

 有栖は、呆気にとられたような表情で優助を見る。

 窮地にあって、優助の考えは冴えていた。


「お兄さんの邪念が出そうだったら、俺がその時点で防ぐ。二人が置いてきたもの、三人で拾いましょう」


「……本気? 一生悪霊に取り憑かれるかもしれないんだよ?」


「やるしかありません。一人で駄目なら二人で、二人で駄目なら三人で、です」


 有栖は、頭を片手で抑えて、片手を掲げた。

 優助は、君枝の手の上に手を重ねる。

 有栖は、その上に手を重ねた。


 優助は、吐き気がしてその場で吐いた。

 禍々しいなにかが自分の中に無理やり入り込もうとしている。


「……無理だね、その調子じゃ」


 有栖が、淡々とした口調で言う。


「やります……やれます……! 本当は全部取りこぼしたくないんだ。だから、今、俺が、やるしかないんだ!」


 そう、優助が吠えた。


「優助君。作業に集中して。主散らしは私がやるよ」


 君枝がそう呟いた瞬間、暴風が吹いた。それは三人を取り囲み、這い寄る主達は細切れにされていった。

 光が消え、優助が、安堵したような表情になる。その表情が、再び強張った。

 有栖は再び、世界への介入を開始する。

 優助というフィルターを通じて、世界は、徐々に書き換えられつつあった。



+++



 戦闘が消えた二十分の間、遠くで光が輝いているのが見えた。

 あれが中枢から放たれている光。世界を書き換える光。


「……まだか」


 零は、一人呟く。

 トランシーバーの通話もオフにしている。

 呟きで、焦らせるわけにはいかない。


 セレナが、白い光を放ち、そして消えて行った。


「セレナ!」


 スカーレットの、悲鳴のような声がする。

 再び主達が人間めがけて動き始めた。


 藤五郎は燕の背に、岳斗はウィッチビジョンの背に乗っている。


「助けるならそんな"キー"を失った奴じゃなくて小豆を助けてくれれば良かったのに」


 燕がぼやくように言う。


「近くにいたから、咄嗟ですよ」


 楓は申し訳なさげに言って、銃を構えた。

 その目が、ふと横を見て、あることに気がついた。


「藤五郎のオッサン、顔色悪くない……?」


 燕が我に返ったような表情になる。


「藤五郎、限界なの?」


 燕の声に、珍しく慌てた色が滲んでいる。


「日本男児に限界などない……」


「そういう戦前の根性論を聞いてるんじゃなくてね? 意識トビそうなの? ねえ?」


「日本男児に限界などないのだ……」


 藤五郎はそう言っているが、息も絶え絶えといった感じだ。


「零さん」


 月夜が、慌てたように言う。


「各自、目の前のことに対処しろ! 背中は味方が守ってくれる!」


「……はい!」


 月夜は、腹をくくったように言った。


「後、俺のコピー体は相手にするな。斬れ味が違うから、刀身持ってかれるぞ」


「あー……最後に自分で作った鍋を食いたかった」


 真昼がぼやくように言い、自身のコピー体を倒す。

 駄目だ。このままでは、若者達まで巻き込んでしまう。

 撤退しか手はない。

 するとどうなる。

 巨大主が町を闊歩し、潜在的に召喚術の才能を持った人間を大量に吸い込んでしまう。

 どちらにしろ、若い命が失われる。


 どうすればいい。

 自分と月夜のコピー体を優先的に斬り倒しながら、零は考える。


 これは、こちらが徐々に削れていく消耗戦だった。


次回『炸裂』

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