陽動部隊、前進
夜の暗闇があることに、月夜は感謝する。
帰らずの森を包む闇への恐怖が、紛れるから。
今日は、月がない夜。暗闇が周囲を支配していた。
「主の気配はわかるな」
零が、近接部隊を集めて言う。
「はい」
月夜が返事する。
「へい」
真昼が返事する。
「私達は、元々主を狩る部隊だったので」
明日香が、苦笑混じりに応える。
「片っ端から切り倒していくぞ。後を残すと思うな。前の敵を一匹逃したら後ろから覆いかぶさってくると思え」
「はい」
三人は、異口同音に返事した。
「いくよー、明日香ー」
上空には、巨大な龍と燕とウィッチビジョンが飛んでいる。巨龍の背から、スカーレットが大声で話しかけてきた。
「あんたと共闘するのは癪だけれどね、スカーレット。ああ、気持ち悪い」
明日香は、身震いするように言う。
「そう言わないで。私案外良い奴だよ!」
「……嘘つき」
セレナがそう言ったのが、零の持つトランシーバー越しに伝わってきた。
明日香は、星が落ちてきたかのような火球を作り上げる。
「こいつは大したスキルユーザーだ」
零が感心したように言う。
龍の上空に、似たような火球が二つ、出来上がる。
小豆とスカーレットだ。
三つの火球は、彗の炎の縄に引かれて近づいていき、融合した。
気温が上昇し、周囲を昼間のような明るさが包んだ。
そして、火球は放たれた。
帰らずの森を飲み込むように、一直線に。
木々が蒸発していく。そして、月夜達の進行ルートを作り上げていた。
「行くぞ! 目指すは、巨大主!」
零が言う。
「はい!」
月夜達は返事をして、零の後についていった。
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「……突入指示は、まだか」
帰らずの森南方面。優助は、身動ぎ一つせずに言った。
「気負いすぎだよ、優助君」
君枝が、優しい声で言う。
「俺達の肩に全部かかってるんですよ。気合は入れれば入れるほどいい」
「そうだね……」
「どっちなんですか君枝さん」
「はい?」
君枝は、呆気にとられた。
「気合を入れたほうがいいのか入れないほうがいいのか」
優助は毅然とした調子でそんなことを聞いてきた。
君枝は戸惑うしかない。
「そんなこと言われても、私、困る……私案外普通の大学生だったから一般論しか言えないし……」
「気負って当たらないの」
有栖が、優助の頭をはたいた。
「人間死ぬ時は死ぬんだ。焦ることはない。私達の突撃は正直はたから見れば自殺物だけど。皆、君を信じてる」
「……すいませんでした」
優助はそう言って、しゃがんで項垂れる。
緊張しているのだろう。それも、やむないことだ。皆の命がかかっている。
その時、帰らずの森北側から、太陽のような光が放たれた。
光は帰らずの森中央まで走り、その場で消えた。
「行くか、彗……」
優助が切なげに呟く。
「今のはでかかったなあ」
有栖がとぼけた調子で言う。
「巨大主とやらが蒸発してなきゃいいけど」
「彗は炎帝候補です。そんなヘマはしませんよ」
いざその時を迎え、少し冷静になったようで、優助は立ち上がって言った。
有栖が、トランシーバーに視線を落とす。
突入の時は、刻一刻と近づこうとしていた。
次回『巨大主、荒ぶる』




