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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
スキルユーザーは優しい夢を見る

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宴会

 壇上で、燕が咳ばらいをする。

 旅館の一室を借りての宴会が開かれようとしていた。


「ここにいる十五人が今回帰らずの森に突入するメンツです」


 ざわめきが引いていく。


「とんだ貧乏くじですよ、燕さん。同僚からは僻まれてるのに実際は危険なことさせられるなんて」


 とは、坂巻楓だ。


「危険なことをしていれば僻まれなくなるわね、良かったじゃない」


 燕は皮肉っぽく微笑む。


「同僚の皆はこの空見てないからなあ……」


「ま、作戦内容としては、世界の書き換え、および巨大主の排除。ここで順番なのですが、巨大主の排除を先にしてはいけません。他の地で復活します。先走っちゃ駄目ですよー?」


 一同、頷いている。


「近接部隊。木崎零、八神真昼、八神月夜、先守明日香」


 各々、返事の声がする。


「貴方達は木崎零をリーダーとして術師部隊空輸部隊を守り、第四形態のその刃で巨大主を無力化しなさい」


「了解」


 零がぶっきらぼうに答えた。


「術師部隊、草薙小豆、水鏡彗、セレナ、スカーレット」


「はい」


 小豆が応える。


「貴女達は小豆をリーダーとして攻撃と防御を任せます」


「はい」


 小豆は、真剣な表情で頷いた。


「空輸部隊、これは近接戦で不利な術師達を護衛する役割でもあります。桜井燕、坂巻楓、桜井岳斗。この三人で術師を空輸します。いいですね」


「……桜井家のあんたには恨みもあるが、仕方あるまい」


 岳斗が重々しく頷いた。


「結界部隊」


「俺だな」


「そうですね、東条藤五郎さんにお任せするわ」


「任せとけ」


「そして、残り三人は別働隊です。先守優助、篠塚有栖、暁君枝」


「はい」


「はあい」


「はい」


「他のメンバーは正直なところ、陽動です。貴方達が本命。全ては貴方達にかかっている。陽動部隊が北から敵をひきつけている間に、優助君の光と君枝のスキルで帰らずの森を南から突破。中核に接触して、世界を書き換えてください」


「全ては、私が力を授かったことから始まった……」


 有栖が、いつもの着物姿でゆっくりと口を開く。


「どうか、私に責任を取る機会をください」


 そう言って、有栖は頭を下げた。

 拍手が巻き起こった。


 その後は、宴会だった。

 酒に手を伸ばした真昼の耳を月夜が引っ張っている。

 君枝と小豆が苦笑してそれを眺めている。

 彗は考え込んで箸に手を伸ばさない。

 明日香は、別行動になっちゃったね、と優助に苦笑した。


 優助は、なんとなく外に出ていた。

 賑やかな会話が聞こえてきた。


「零さん、相変わらず吸ってるんですね」


「あー、医者になってからはやめてたんだがな。最近燕さんに連れ回されてから再発した」


「あっはっは。はた迷惑な人だ」


「しかし医者に転職したのに引きずり戻されるとはな。封印されてたのに無理やり引っ張り出された俺といい、はた迷惑なことよな」


「まったくですよ……」


 喫煙所からの声のようだ。

 聞き覚えのある声が混じっていた。

 坂巻楓の声は間違えようがない。後は、木崎零と、東条藤五郎。


 顔を出してみることにした。


「どうも」


 楓と零が同時に、灰皿に煙草の火を押し付けて消す。


「あ、気を使わせてしまいましたね」


「いいよ。気にすんな。話があるならおいでよ」


 楓はそう言って、自分の横の席を二度叩いた。

 素直に、そこに座る。

 大人に囲まれて、落ち着かない気持ちがあった。


「零さんには、以前助けてもらったことがあるそうで……」


「ああ」


 零は優助の顔を見て納得したような表情になった。


「あの時の光のスキルユーザーの少年か」


「はい。その節はどうも」


「なになに? 二人は知り合い?」


「結婚式で多少接触はあったが、挨拶もしてないよ。俺が剣を適当に放り投げたらこいつのスキルの圏内にいた敵に突き刺さっただけだ」


 あまりにも大雑把過ぎる照れ隠しだった。


「あー、二人共燕さんの被害者か……」


 楓が同情したように言う。


「どうした、少年。落ち着かないのか」


「ええ、まあ」


「落ち着かないから煙草でも吸おうってか」


「滅相もない、未成年です」


「そうか。愁傷な心がけだ」


「はい」


 なんだろう。会話が続かない。

 共通の話題ってなにかあるだろうか、と優助は思う。

 沈黙が漂った。


「思うにな、少年」


 零が、腕を組んで言う。


「はい」


「人生には沈む期間と浮かぶ期間がある」


「はい」


「沈む期間は一生は続かない。浮かぶ期間も一生は続かない。しかし、沈む期間に余計なダメージを負っては浮上する時により力を必要とするようになる」


「どうすれば沈む期間でダメージを受けずに済むのでしょう」


「その方法だがな……」


「はい」


「方法は、ないんだ」


「どうしても、ダメージは負うものですか」


「そうだ。現実はいつも容赦なく俺達を叩きつける。何度も何度も打ち据えて、立ち上がれまいとする」


 優助は黙り込む。

 彼の言葉は、優助に言っているのではない。自分に言い聞かせているのだ。


「それに耐えて浮上した時、世界は輝きを持って少年、君を祝福するだろう」


「そうよ!」


 マイペースに煙草の煙を吹かせている藤五郎が零の肩を抱いた。


「そうやって経済大国日本も敗戦から復興したんだ!」


「まあ少子高齢化という沈む期間がまた目の前にやってきているわけですが」


 楓が苦笑して混ぜっ返す。


「いや、日本は何度叩かれても浮上する。俺はこの国を信じている」


 藤五郎は断言する。

 零は苦笑して言葉を続ける。


「まあ、そういうわけだ、少年。いかに残酷な事態にぶつかっても、立ち上がる気持ちさえあればいつかは報われるというものだ」


「はい」


「年寄りになると説教臭くなっていかんな……」


「いえ、ためになるお話でした」


「うん、いい話だった、零さん」


 今度は、優助が喋る番だった。


「全部、守りたいと思ってたんですよ」


「うん」


 零は相槌を打つ。


「けど、現実はいつも残酷だった。掌から、いつも取りこぼしが出る」


「そうだろうな」


「だから、大事なものは取りこぼすまいとした。嫁と息子は避難していますが、相棒や友人達はこの作戦に参加してしまいます」


「残ったものを大事にしていくしかないんだよ、少年」


「そういうものですか……」


「俺も、嫁を喪っている」


 沈黙が漂った。


「いい人でしたね、澪さん……」


 楓が、過去を懐かしむように言う。


「けど、娘は元気だ。マセたガキでな。お前のような結婚式をあげたいんだとよ」


「勝たないといけませんね。娘さんのためにも」


「そういうことだ、少年。そろそろ、煙草を吸わせてくれないか」


「はい、ありがとうございました」


 優助はそう言って立ち上がり、礼をする。


「若いのに礼儀がなっている。流石は先守の跡継ぎだ」


「いえ、少しもやもやが晴れました。勝利を娘さんに」


「勝利の栄光を零君の娘さんに!」


 藤五郎が便乗して発言する。


「ああ。我が娘に栄光あれだ」


 そう言って、零は苦笑して煙草に火をつけた。

 元の部屋に戻る。


「どこ行ってたん? 優助」


 明日香が目聡く近寄ってきた。


「ああ、ちょっと零さん達と話してた」


「あー、桜井さんとこのお医者さん」


「少し、落ち着いて戦闘に望めそうだ」


 失っても、沈んだ期間があっても、最後には娘と幸せに暮らしている。零という存在は、失うことに怯える優助を勇気づけた。


「大事だよ。要も要じゃん、優助って」


「そうだな……」


 世界には、色々な人がいる。失った人、得た人、負けた人、勝った人。


「今回は、勝たなくちゃな……皆、俺達の背中に賭けてくれている」


「そうだよ。一人も欠けちゃいけない」


「私はハッピーエンド以外認めない派だしね」


 月夜が微笑んで言う。


「はい」


 この仲間達なら信用できるだろう。優助は、そう思って微笑んだ。

 そして、沈んでいる彗の頭を撫でた。


「俺の言うこと、信用してないのか?」


「……してるよ」


 そう言って、彗はようやく箸を動かし始めたのだった。


「死んじゃ嫌だよ、優助」


 呟くように慧が言ったので、優助は苦笑してその頭を撫でた。


「私は本気なんだから!」


 優助の手を払いのけて、慧は苛立たしげに言う。


「わかった、わかった、約束するよ」


 それは、口約束にしか過ぎない。

 しかし、慧と、なにより自分を勇気づけるために、今は希望のある言葉を発したかった。


「彗ちゃん? こっちの料理も美味しいよ」


 小豆が、そう言って箸を動かして自分の料理を彗の皿に乗せていく。


「あ、どうも……」


 彗は戸惑ったように言う。


「未来の炎帝候補なんだってねー。凄いなあと思うよ」


「そうでもないです……」


 人見知りモード発動。

 小豆は気にした様子もなく、彗に親しげに接している。

 炎使い同士、思うところがあるのかもしれなかった。

次回『陽動部隊、前進』

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