君枝と遠夜、智也と秋奈
「スキルユーザー対策室も解散か。短かったな」
作戦のあらましを聞いて、遠夜は肩を竦めた。
「で、案の定俺は戦力外か。役に立った試しがないな」
自虐するように言う。
スキルユーザー対策室の一室だった。
「そう言わないで。私も、今回は役に立てるか怪しいばかりよ。あの空……大型主。天変地異の前触れって気がする」
君枝は、不安を表に出さないようにしつつ言う。
「お前は相変わらず前線に投入されるわけか」
「小豆ちゃんもね」
「焔もか。嵐は?」
「風がどこまで通用するか疑問視されてお留守番。以前のやんちゃから不安視されてるんじゃないかなって感じもするけれどね。スキルは貸してもらった」
「そうか……」
「作戦名は、世界を変える時」
遠夜は、黙り込む。
「スキルユーザーとして目覚めて、ろくなことはなかったけれど、一つだけ良かったと思うことがある」
少女のような大きな瞳を細めて、遠夜は言う。
「お前と出会えたことだ」
君枝は、頬が熱くなるのを感じる。
「……それも、スキルユーザーという存在が消えるのなら顔も見れなくなるのかね」
「会えるよ!」
君枝は、言った。
「もう一度、会おう。約束だ」
遠夜はそれを聞いて微笑んだ。
「ああ、約束だ」
君枝はぎこちなく手を差し出す。
それを掴んで、遠夜は額をつけた。
「好きだぜ、君枝」
「うん」
「帰って来たらデートしような」
「うん」
「まあ、俺、プーになるわけだけど」
「就職の斡旋はしてもらえるそうだよ。実績もあるらしい」
「なら、心配はないな。頑張ろうっと」
「うん、私も頑張るよ」
遠夜が顔を上げる。
二人は、微笑みあった。
+++
その日、智也が先守家に帰って来たのは、夕方頃だった。
短期間の予知によって、家に入ったら起こることは既に見えていた。
家に入るなり、沢山の武器が智也に突きつけられる。
二階から、秋奈が降りてきていた。
冷たい目で、智也を見下ろしている。
「チェックメイトね、智也。お父様の居場所を教えてくれるかしら」
「おいおい、これから大一番が始まるっていうのに内輪揉めかい。度し難いな」
「度し難いのは貴方の所業よ。人道的見地から見て貴方の行動は詠月にとって受け入れ難い。それが、私という新当主代行を含む六家の総意」
「……そうか、他五家の後ろ盾を得たか」
智也は苦笑する。
そして、電撃を放った。
四方八方への無差別攻撃。
それが終わっても、秋奈は平然として立っていた。
秋奈の前には、春香がいた。春香の召喚術は防御の召喚術。電撃も通らなかったというわけだ。
智也は、微笑んでいる。
「旦那より家を取るか、春香」
「冬音も、優助も、お父様も、貴方を信じていた。なのに、裏切った……私は、わからない。貴方が、わからない」
「わかるようになる。だからこっちにおいで、春香」
「春香姉、誑かされちゃ駄目。あれは悪魔の類よ」
秋奈が鋭く叫ぶ。
春香はいやいやをするように首を横に振って、その場に崩れ落ちた。
駄目か。
智也は、苦笑した。
「言っておくべきことがある」
「命乞いなら聞かないけれど」
秋奈は、冷たく言う。
「指示はもう出してある。必要なメンバーは揃うだろう。彼らへの恩赦を約束して欲しい」
「先守の権限でできる限りのことはするわ」
「会議の場でも述べたことだが、大型の主が現れる。それは先に倒してはいけない。世界を書き換えてからだ。でないと、他の場所で復活する」
「世界を書き換える……? 篠塚有栖?」
「桜井の手の中にある。今回は緊急事態ということで手札を晒してくれたようだ」
「なるほどね。見えてきたわ、話が。スキルユーザーが問題というわけね」
「会議でも既に伝えたはずだがね。君には伝わっていないのかい」
「……桜井燕から詳しく訊くのも癪だからなあ」
「なるほど、なるほど。コミュニケーション不足は心配だ」
「最後に、聞きたいことがある」
秋奈が、口を開いた。
「なんなりと」
「私達は、あれに勝てるの……?」
秋奈の顔に、不安が滲んでいる。
智也は苦笑して、視線を逸した。
「第四形態が混じると、とたんに未来が見え辛くなる。結果は見えない。ただ……篠塚有栖の兄を成仏させるなら、今回しか機会はないということだ」
「つまり……?」
智也は、その時、ナイフを投げた。
ナイフには紙が突き刺さっている。
そこには、哲三の居場所と、ある場所、時間が暗号で示されている。
ナイフは春香の防壁にぶつかって、地面に落ちた。
智也はその隙に、外へ飛び出していた。
次回『宴会』




