優しい夢を見るために(完)
「相棒だって言ってくれたよね」
死神を倒した祝いだということで、月夜と真昼は買い出しに出かけている。
喧嘩しながら商品を選び合っている真っ最中だろう。
そんな中、彗は優助と同じベッドに座り、身を乗り出して訊いていた。
「……まあ、遠距離の操作が苦手なスキルを遠距離で格子状に組んだんだから、上達はしたよなって」
「言ったよね?」
正直、勝利の瞬間が差し迫った興奮で言ってしまっただけだった。
けれども、今、周囲を見渡してみれば、自分の相棒と言える存在はこの少女しかいなかった。
少し背伸びをしているが、少し無理をしているが、健気なこの少女しかいなかった。
「どうしてそんなに相棒になりたいんだ?」
「それはね、優助は失った人だから。失ったなら、なにかを得ないと、天秤が合わないから」
「同情か」
苦笑混じりに、優助は言う。
「親近感かな。召喚獣の才能がないとわかった時に全て失った私との。それに、最初の戦いで助けてくれたし、叱ってくれたし。先輩風吹かされてるのも癪だしね」
「先輩風吹かしてるか?」
「相棒と認めてくれないのがその証拠だよ」
「そうか……」
しばらく、沈黙が漂う。
彗は、真剣な目で優助を見ている。
「俺は、失うのが怖かったのかもしれない。ずっとずっと昔から。だから守ろうと足掻いてきたのかもしれない」
「うん」
彗は、頷く。
「なら、お前はもう失うのが怖いものリストの中に入ってるよ」
「素直じゃないなあ」
彗は身を引いて、後ろに体重を預ける。
「素直に相棒だって言いなよ」
「お前の直向きさには負けるよ、相棒」
そう言って、二人は笑いあった。
+++
「先守の! どうなっておる!」
当主会議は荒れていた。
自分が原因じゃないのが珍しいな、と桜井燕は思う。
「どうももなにも。封印を解いただけです。二人の第四形態の術者の」
「独断専行ではないか! 何故我々に相談しなかった!」
先守智也は、テーブルを強く叩いた。
「貴方がたの会議にどれだけ時間を割けると言うのか! 危機は目前まで迫っているのですよ!」
「なに……?」
「それはどういうことだ……?」
燕は、皮肉っぽく微笑んで口を開いた。
「先守の当主代理さんは、近い未来の予知と剣が能力でしたね」
「ええ」
「ならば、その予知が実は遠い未来まで通用しているとしたら……? その不可解な行動にも、納得がいく」
「貴女こそ予知者のようだ」
「情報を組み合わせていけば自然と答えは出るものです」
「お主達はなんの話をしている……? 具体的に明かしてくれぬか」
八神の当主が、疲れたように言う。
「あれですよ」
そう言って、智也はカーテンを開いた。
大地が揺れ始めた。
そして、帰らずの森の中心部に、巨大な影の渦が生まれ始めた。
「あれを止めなければ、我々人類に安眠できる未来はない」
そう、智也は断言した。
「ただちに第四形態の術者の招集を! そして、篠塚有栖の確保を! 世界を変えなければ、我々が滅ぼされるのです!」
燕は微笑んだ。とてもとても皮肉っぽく。
+++
目が覚めた時、夏だな、というのが最初に思ったことだった。
長袖の服が暑い。封印された時は春だったから、それもやむないことだろう。
しかし、夏のピークといった感じではない。残暑といった感じだろうか。
未来は怒っているだろうか。優助はどうしているだろうか。
どれほどの時間が失われてしまったのだろうか。
そもそも、今は自分が封印されたあの時から何年後なのだろうか。
躊躇いながら、少女は立ち上がった。
帰らずの森で、黒い影が渦を巻いている。
あれを処理するのが自分の仕事だろう。優助達の日常を守るのが自分の仕事なのだから。
そう考えて、先守明日香は一歩を踏みしめた。
大勢の有象無象が周囲でなにか不安を煽り立てているが、怖くはない。
守る者が優助ならば、それを守る者が明日香。ならば、怖がってなんかいられない。
空は、笑えるほどに澄んでいた。
次回から最終章に入ります。色々なキャラに見せ場を割り振りたいと思います。




