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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
水鏡慧編

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至宝の子供達

「うーん」


 月夜は今日もベッドに寝転がってノートパソコンを操作して唸っている。

 それを、スカーレットが覗き込んだ。


「なにしてるの?」


「貴女がなについてに悩んでるか詮索してるの」


 悪びれずにスカーレットは言う。


「死神の犯罪履歴について調べたいんだけれど出てこないのよ。ニュースでも取り扱ってないみたいだし。お手上げね」


「……ねえ、ならこうすればいいんじゃないの?」


 そう言って、スカーレットはノートパソコンを自分の方に向けると、操作を始めた。

 キータイプの音が周囲に響き渡る。

 そして、しばらくして、一際高くエンターキーが鳴った。


「これは……」


 月夜は目を丸くする。


「ね、これでいいでしょ? 詠月という組織を独占的にしないためにも、警察側にも情報は行ってるはずだもの」


「天才よ、貴女」


 そう言って、月夜はスカーレットの頭を撫でた。


「どうしたんだ?」


 真昼は興味を持って、ノートパソコンを覗いた。

 そこには名前と死亡時間の羅列、遺体の写真がある。


「死神の犠牲者一覧。詠月が隠したかったものがここにある……」


 月夜は目を細めて、画面をスクロールさせていく。


「見覚えのある名前がいくつもあるとは思わない?」


「そうか? ないけど」


「苗字は排除して名前で判断しなさい。わかるはずよ」


 真昼は、気分が悪くなるのを感じた。

 それは、真昼が心の奥底に封じ込めた記憶。

 天道衆で、至宝の子供達と呼ばれていた頃の記憶。


「この名前も……この名前も……嘘だろう?」


 愕然とした表情で、真昼は呟く。

 月夜は、冷たい表情で画面を見ていた。


「このデータを知られたくないわけよ。犠牲者には共通点がある。全員、元天道衆の至宝の子供達だわ」


「至宝の子供達ってなんですか?」


 優助が、興味深げに訊く。


「かつて存在した、天道衆という組織で、ボスの能力のブーストに使われていた召喚術の才のある子供達よ。才があったのは事実だから、全員詠月の構成員の養子に迎え入れられた。中には、私達みたいに八神家に拾われた者もいる」


「被害者には共通点があったというわけですか……」


「問題は、誰が、どうして、こんなことをしているかよ。目的は不審な存在の排除? 駄目ね。どうしても死神が詠月側であるというビジョンが見えてきた」


「死神は、詠月側?」


「とにかく犯罪がやり辛いように周知するべきだな。桜井と八神と水鏡と先守にはツテがある」


 真昼は淡々と思ったことを述べた。しかし、月夜には気に入らない提案だったらしい。


「駄目よ」


 月夜は、凍えるような声で言った。


「奴が犯罪を止めたら、私達が奴を倒す機会はなくなる」


「化け物ですよ? 千鳥を受けてもピンピンしてた」


「仮面を砕けば倒せるかもしれないという期待はある。それに……私と真昼には考えがある」


 何度も、この件については話し合ってきたことだ。だが、それは考えと言うにはあまりにも希望的観測が過ぎるものだった。

 しかし、今はそれに縋るしかない。


「そうだな……奴を倒せる機会があるというならば、逃す手はないというものだ」


「生き残りの至宝の子供達には桜井さんを通じて警告してもらいましょう。奴の狙いを、私と真昼に集中させるのよ」


 優助は唖然とした表情でいた。

 それはそうだろう。優助には、恨みを持つ者の気持ちがわからない。

 自分達とは決定的に違う血統書付きの犬のような印象がある。


 月夜と真昼の気持ちは、今、限りなく近い状態にあった。



+++



 夜になった。

 いつものような主狩りはスカーレット達に任せ、月夜は外で一人待つ。

 大剣を杖のようにつき、その人を待ち続ける。


 今日は来なかった。明日は来るだろうか。

 まるで恋する少女のようだと思う。


 そう、月夜はある意味で恋していた。その気持ちは、死神の頭に剣を叩きつけた時に絶頂に至るだろう。

 そうして、三日程が過ぎ去った。


「死神ってそんなに強いの?」


 スカーレットが、胡散臭げに言う。


「私クラスのスキルユーザーか第三形態がいれば対処に困る敵なんていないと思うけれど」


「学校の壁と天井をぶち破る衝撃波を受けても降り注ぐ剣が山ほど刺さっても平然としてた化け物だよ」


 優助が、気疲れしたように補足する。


「なにそれ、生物じゃないじゃない」


 スカーレットが呆れたように言う。

 その一言が、月夜はやけに引っかかった。

 そして、更に四日が経った。

 月は空で輝いている。

 今日も大剣を杖のようについて、月夜はグラウンドで待つ。


 想い人は、今日はやって来た。

 グラウンドの中央に黒い穴が開く。

 そこから仮面と闇が吐き出され、人の形をなした。その手が鎌を生み出し回転させる。


「罠かとも思ったが、一人か。死の準備は万端だったようだな」


「決着をつける覚悟は十分よ。この戦いで私は私の出せる全力を尽くす。それで届かないなら、それまでだったということ」


 月夜は、大剣を引いて構える。

 死神も、鎌を構えた。


「いい覚悟だ。今宵は良い月。お前を送る道標となってくれるだろう」


「お生憎様。月夜と名付けられた時から、月は常に私と共にある」


「戯言を……」


 風が吹いた。

 二人は前進して、ぶつかりあった。

 大剣と鎌が幾重にもぶつかり合う。

 互いに隙はない。万全の状態だ。


 月夜が、地面の土を蹴り上げた。

 死神の鎌が回転してそれを弾く。


「花びらよ、舞い散れ!」 


 月夜が大剣を振り上げる。色とりどりの光がそれに吸収されていく。


「桜花斬!」


 大剣が振り下ろされる。そこから放たれた花びらの形をした光が爆発を起こした。

 死神は後方に引く。


 月夜は、前方に詰めた。

 大剣を振り下ろす。死神は鎌の柄でそれを防ぐ。二人の力は拮抗状態にあり、両者の手が震える。


「お前を倒すことだけを考えて生きてきた! 今日こそ、命、貰い受ける!」


「腐っても覇気は失っていないようだ」


 死神は嘲笑うように言う。

 その胸から、剣が生えていた。

 真昼が、死神の背後に移動し、心の臓を貫いたのだ。


 しかし、死神の手から力は抜けない。


「真昼! 第二策!」


「あいよ!」


 真昼はもう片方の手に持った剣を引いた。

 その時、死神が鎌を振り回して回転し、両者は飛び下がって回避するしかなかった。


「千載一遇の機を失ったわね……」


 月夜は悔いるように言う。やはり、狙うべきは仮面だった。


「そうは言うな。二対一で狙いが決まればまた話は違ってくる。ナマモノではないことは今の一撃で確認した」


 真昼は両手に剣を持って、飄々とした口調で言った。


「なるほど、私の秘密に気付きつつあるらしい……」


 死神は呟くように言うと、空いた片手で仮面に手を触れた。

 仮面が、二枚重ねのものだったかのように、二つに分かれた。

 仮面の一枚が地面に落ちる。そこから、死神がもう一体現れた。


「……凌ぐわよ、真昼!」


「おう!」


 激戦は続く。

次回『八神週子』

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