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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
暁君枝編

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帰らずの森

「両方逃がすとは失態ね、翔子」


 燕が電話口で淡々とした口調で言う。翔子はスマートフォンを握り、言い返す言葉がない。


「まあ、住人に被害がなかったのは上等としてあげましょうか」


「銃の援護がありました。ヤクザのツテで入手したものでしょう。それを考えると、相手は例の事件の犯人に間違いはない……そして、その目的は暁君枝だった」


「霊脈と直結できるというあの少女ね」


「ええ」


「……嫌な予感がするわね」


 燕は、淡々とした口調で言う。


「何かが暗躍しているような、そんな気配を感じる。久々にね。霊脈と直結できる少女、スキルユーザー、襲われたヤクザの事務所、それらの糸を束ねていけば何かが見える気がする」


「見えますか?」


「今は、まだ。また、連絡するわ。周囲の探索は私の部下に任せるから、警護に備えて」


 そう言って、燕は電話を切った。

 翔子は、溜息を吐く。

 久々に、灰色の決着。

 心は、重かった。

 君枝は今、何処にいるのだろう。それだけが心配だった。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 車は走り続ける。その向かう先が何処かも君枝にはわからない。

 ただ、どの勢力も今は犯人の足跡を辿れずにいるということは理解できた。

 敵の力は強大だった。それに、一体どう対応すれば良いのだろうか。


「何処へ向かっているの?」


「帰らずの森だ。そこに、ヒントがあるかもしれないし、力を借りられるかもしれない」


「帰らずの森?」


「ああ」


 情報屋はハンドルを握りながら、淡々と返す。


「ガイアエネルギーが噴出している場所の一つだ。ここがなければ、お前達はスキルを使えないし、召喚術師も術を使えない」


「それにしては、薄気味が悪い名前ね」


「帰らずの森には主がいるからな……」


 沈黙が車内を覆う。

 終着点が見えない焦燥感。それが、皆を沈ませていた。


 しばらくして、大きな森が見えてきた。

 その手前のコンビニで、情報屋は車を停める。

 そして、三人して車を降りて、情報屋の先導に従って歩き始めた。


「真っ直ぐ行くのは駄目だ。詠月の見張りがいるからな。迂回していこう」


 そう言って、情報屋は細い道へと進んで行く。

 君枝も、遠夜も、その後に続いた。

 そのうち、森に入った。


「声は落としてくれ。見張りに勘付かれる」


「大丈夫なの……?」


「昔、護衛してた側だからな。見張りのいない場所は熟知している。ここからまた迂回するぞ」


 長い森の中を町側に戻ったり、逆に遠ざかったり。

 そのうち、月明かりが、蠢く影を浮かび上がらせた。


「何? あれは……」


「帰らずの森の主だ。"キー"も召喚術師も消化しちまう。倒してくれ」


 君枝は右手に影の翼を浮かび上がらせ、照準を合わせる。しかし、主は襲い掛かってくることはなかった。

 移動して、立ち尽くす。

 まるで、追ってくるのを待っているかのように。


「何か、おかしいよ? まるで、私達を誘導しているみたい」


「……乗ってみるか」


 情報屋が言い、歩き始める。

 君枝も、遠夜も、その後を追い始めた。

 主は歩いて行く。

 そのうち、主の数は二匹、三匹と増え始めた。


「罠じゃなければいいが……」


 情報屋が、呟くように言う。

 そして、三人は木々の間を抜けていた。

 木はおろか草一本生えていない広い地帯。それが、森の中央にある。


「俺も、来るのは初めてだ」


 情報屋はそう言い、歩き出す。主達は立ち止まり、追ってこなかった。


「かつて、詠月とある組織との最終決戦が行われた場所。世界の書き換えを巡って争いが起こった場所」


「世界の、書き換え……人間も、動物も、召喚術師のような力を使えるような世界にしようってしてたって奴?」


「そうだ。詠月が相手取った組織のボスは、現実を書き換える術師だった。自分の身に受けた銃弾を敵が身に受けたように書き換える、そんなことが出来る存在だった。しかし、世界のシステムを書き換えることは出来なかった。故に、この森の力を頼った」


 三人して、広場の中央へと歩いて行く。

 地面が、薄っすらと光っていた。


「どうすればいいの……?」


「触れてみろ。ガイアエネルギーと繋がっているのはお前達だ。何か、変わるかもしれんな」


 君枝は促されて、手を伸ばす。

 そして、ついに光へと触れようとした時のことだった。


「待ちなさい!」


 凛とした声が響き渡る。


「貴方達、何をしているの?」


「見つかったか」


 情報屋が舌打ちして、構えを取る。遠夜も無言で、手に影の剣を構える。

 その時のことだった。

 帰らずの森の主が、大きく膨れ上がって敵を覆い始めた。


「きゃっ……」


 敵はたまらず、回避する。


「君枝!」


「うん!」


 光に、触れた。

 その瞬間、ある光景が脳裏に蘇ってきた。

 それが過去の光景だとわかったのは、この辺りがまだ森に囲まれていたからだ。

 子供が、男に斬りかかっている。眩い光の剣を振りかざして。しかし、男の側に攻撃を回避する余裕はあるだろう。

 そこに、女性が現れて飛びかかった。詠月の施設にいた桜井燕だ。その爪が、男を貫いて足止めする。

 そして、光の剣が男の頭に届こうとした瞬間、男は黒い闇となって溶けた。

 闇は侵食していく。森の木々を飲み込んで、増殖していく。

 そして、地中にある霊脈をも侵していく。

 子供は桜井燕に掴まれて宙を飛んでいる。燕の背中には、着物姿の少女がいた。

 闇は考える。あの着物の少女は、世界を書き換える存在だと。

 あの力が、欲しいと。


「後を継ぐのはお前だ」


 そんな男の声が、君枝の脳裏に響いた。


「何? 今のは……」


 君枝は戸惑いながら、手を地面に押し付ける。もっと、もっととねだるように。

 そして、その視界は遥か彼方へと移動していた。霊脈を辿って、ある女の視点と重なった。


「廃墟……飲み会が行われている……人が複数いる……県西の方角、高い煙突が見える」


「よし、一旦逃げるぞ」


 そう言って、情報屋は君枝と遠夜を担いで移動を始めた。


「待ちなさい!」


 静止の声が響くが、待つ訳がない。

 情報屋は、圧倒的な速度で森の中を駆け抜け、外へと出た。

 そして、車に二人を放り込んで運転席に座ると、全速力で発進させた。


「県西に、高い煙突か……」


 情報屋が、呟くように言う。


「その場所なら、知っているかもしれない」


 遠夜が、呟くように言う。


「俺の、祖父母宅の近くだ」


 暗鬱な口調だった。


次回『郷愁』

拳児再登場です。

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