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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
水鏡慧編

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花火

「スキルユーザーのスキルを封じる呪具の開発に成功したぞ」


 八神家当主の発言に、他の当主達は感心したような表情になる。


「あまりに強大なスキルユーザーに対しては能力を低下させるだけの効果しか持たないが、ある程度までのスキルユーザーの力は完全にシャットアウトできる」


「これは朗報だ」


 水鏡の当主が言う。


「しかし、どれほどまでのスキルユーザーに効果を持つか具体例を示してほしいものじゃな」


 哲三の発言だった。


「焔のスキルの封印は無理だった。つけていても、家を焼く程度のことはできた。しかし、家を焼いて捕縛されたスキルユーザーは能力を完全に失った」


「朗報じゃな。氷帝クラスの能力なら、かなり微弱なものになるまで封印できるじゃろう」


 哲三は表情を緩める。


「前年度のスキルユーザーによる事件は千二十九件。明るみに出ていないものを含めればもっとあるでしょう」


 水鏡の当主が、安堵の息を吐く。


「これで一息つけるか、と言ったところでしょうね」


「しかし、いつまで隠蔽できるものでしょうか」


 燕が言う。


「スキルユーザーは今この瞬間にも覚醒している。我々がしているのは、いたちごっこではないのでしょうか」


「実際、スキルユーザーの犯罪件数は召喚術師の犯罪件数の比ではない」


 哲三も、頷く。


「一先ずは喜びましょう。平和への第一歩に」


 そう言って、水鏡の当主が水の入ったコップを掲げる。

 各々、それに習って水を飲んだ。



+++



 彗がスカーレットに勝ったご褒美を欲しいと言い出したのは、二人の勝負の翌日のことだ。

 確かに、あれ以来スカーレットは素直になった。

 なにか、考えなければならないだろう。


 なにか欲しいものがあるかと訊くと、服がほしいという。

 そして、二人はショッピングモールにやって来たのだった。


 彗は、気に入った服を見つけると値札を見て試着をしてさっさと買っていってしまう。

 金を使うことに無頓着な様子が見受けられた。

 そして、三十分もすると、優助の両手は彗の買った荷物を包んだ袋で一杯になった、


 フードコートで、彗はソフトクリームを食べる。


「綺麗だーとか、可愛いーとか、言わないもんかね」


 彗は不服げに言う。


「俺の歳で君に興味を持ったらロリコンだよ」


 優助は肩を竦めて返す。


「それでも、女の子が試着したら褒めるものだと思う」


「似合うとは言った」


「大体の服に似合うとしか言ってないじゃない」


「顔が良い奴はなに着ても似合うんだよ」


「へー」


 彗は珍しく、拗ねた様子だった。


「じゃあ豹柄に挑戦してみようかしら」


「あまり派手なのは好ましくないと思うな」


「じゃあ私は顔が悪い方なんだ」


「美形だよ」


 優助は苦笑して、彗の頭を撫でる。


「それも、将来有望だ」


 明日香と似た系統の美人だなと思う。中性的で、ショートカットがよく似合う。


「明日香もそうだった」


 手を思い切りつねられて、優助は痛みに顔を歪める。


「今は私が目の前にいるのよ。前の相棒のことは忘れなさい」


 ソフトクリームを舐めて、彗は淡々とした口調で言う。


「忘れることなんてできないよ。あいつは俺の一部だ」


「私は前の人ごと優助を受け止めるなんて無理よ。そんな度量も面倒見の良さもないわ」


 沈黙が漂う。

 彗の言っていることは正論だ。

 大人の正論。

 いつまでも引きずっている優助が間違っているのだろう。


「赤ちゃんの写真、見るか?」


「いらない」


 彗は苛立たしげに言うと、ソフトクリームを一気に食べて、歩きはじめてしまった。

 何故苛立ったのか。優助はわからずに後を追う。


「前の人は相棒と認めたのに私は相棒と認めない」


 彗は、淡々とした口調で言う。


「なんで?」


「ビジネスライクに行こう、彗。俺はもう、失うのはごめんなんだ」


「なら、大丈夫よ」


 彗は、飄々とした調子で言ってのけた。


「私は、いなくならないから」


 前にも聞いた台詞だ。

 何度も言われると、それは刷り込みのように優助の中で存在感を放った。

 縋っていいのか? そんな思いが、胸に湧く。


(……馬鹿げてる)


 彗は何歳も年下の女の子だ。それに縋るなんてありえない。

 そう、ありえないのだ。



+++



 花火大会が行われるとのことで、六人で揃って学校の屋上で菓子やジュースを持ち寄った。


「あんな力があったなら、なんで私が学校を燃やそうとした時に使わなかったの?」


 スカーレットは彗に興味津々のようだ。


「私は第三形態じゃない。一瞬で駆けつける力はないわ。それに、私は自分の体から離してスキルを使うのが苦手なの」


「なるほどね」


「私とスカーレットで見繕ってきたけど、優助の気に入るお菓子はあるかな?」


「ああ、大丈夫だ」


 優助は無感情に答える。

 明日香を失った元凶とも言えるセレナを、許す気にはまだなれていない。

 ただ、守るには自分一人の力では足りないと思い知らされた。だから、優助は手駒を求めた。


「詠月の手配書だけどな」


「うん」


 セレナが、少し表情を硬化させる。


「燕さんが改ざんしてくれるって。良かったな。もうカラコンは必要ないぞ」


「ありがとう」


 そう言って、セレナが抱きついてくる。優助はその背を撫でたが、心が弾むようなことはなかった。

 彗が服の裾を引いてきた。


「なんだ?」


「鼻の下伸ばしてみっともない」


「伸ばしてないよ」


 優助はセレナを放すと、苦笑して彗に向き直った。


「今日も写メ撮るのか?」


「うん、ばっちり」


 そう言って、彗はスマートフォンを構えてみせた。

 遠くから音が響いてきた。

 火の花が空に咲いた。


「たーまやー」


 月夜が言う。


「かーぎやー」


 真昼が返す。


「その続きってなんなんだろう」


 月夜が真顔で言う。


「知らん」


 真昼も真顔で返した。


 いつの間にか、優助は彗と並ぶ形になっていた。

 彗は無言で写メを撮り続けている。


 明日香がここにいれば、と優助は思う。

 きっと、うるさいぐらいにはしゃいだだろう。

 けれども、明日香はいない。

 違う時間を生きる人間となってしまった。


 相棒を失ったのだ。

 それを再確認して、優助は目尻に涙が溜まるのを感じた。

 手に、温もりが触れた。


 彗だ。彗が、優助の手を握っている。


「私はいなくならないよ。しぶといからね」


 そう言って、彗は片手で写メを撮る。

 そのマイペースな様子は、明日香を思い起こさせた。


 優助は、眼を擦る。

 そして、微笑んで彗の手を握り返した。


「俺は単純だから信じるぜ」


「信じて構わない。私は貴方が望む限り貴方の傍にいる」


「将来は本州に帰るんだけどな」


「私も本州に行くもの。水鏡の次期当主だから」


 それは聞いていなかったな、と優助は思う。


「なんで言わなかった?」


「聞かれなかったから。それに、決まったのもつい最近のことだわ。炎のスキルで他の候補をごぼう抜き」


「僻まれてそうだな」


「事実、そういった目から逃れるためにここにいる」


 花火は上がっていく。

 新しい友人を迎えても良いのだろうか。

 そんなことを、優助は思った。

 二人の手は、繋がれたままだった。





次回『喪失』

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