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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
水鏡慧編

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魔女

 苦しかった。水の底に沈められて、苦しかった。だから、早く死ぬように祈った。

 セレナは薬売りだった。それが、魔女の疑いをかけられて、魔女裁判にかけられた。

 そして、魔女であるかどうかの審議をされている最中だった。


 水から出てきて生きていれば魔女、死んでいれば人間。滅茶苦茶だ。

 だからセレナは、苦しみから逃れる早急な死を望んだ。


 しかし、死は中々やってこなかった。

 それどころか、セレナが水から引き上げられるまでの長い時間を生き抜いた。

 苦しみのあまり、水を吐く。

 ざわめきが起こった。


「魔女だ……魔女だ!」


 怯えたような声がする。

 畏怖の視線が、セレナを包んでいた。

 このままでは、危ない。そう思い、セレナは咄嗟に周囲の人間の心をコントロールしていた。

 どうすればコントロールできるかは、手に取るようにわかった。


「魔女を放置しておいては危ない! 村から追い出せ!」


 そう、慌てて人々はセレナを村から追い出してくれた。

 後から、色々な人に話を聞いた。

 教会には、聖者がいること。聖者は意図せずとも現実を捻じ曲げられること。彼女が信じたことで、セレナは本当に魔女になったこと。その女性は、魔女裁判で炎使いになった人間に焼き殺されたこと。

 とんだことをしてくれたものだと思う。

 これでは、元に戻る術がない。

 魔女裁判から十年経っても、セレナの容姿は変わることはなかった。歳を取るのをやめてしまったかのようだった。これでは、本当に魔女だ。笑えない冗談だ。


 そうして、セレナは死ぬ方法を探し始めた。

 怨敵は既に死んでいる。晴らす恨みもない。

 望むのは、ただ人として安寧に死ぬだけ。


 そのうち、何年もの時間が流れた。大きな大戦が何度か起こり、世界は戦勝国と敗戦国に分かれた。セレナは詠月なる組織を知って接触を行った。

 不幸なことに、世界を書き換える少女は行方知れずのままだった。

 しかし、召喚術もスキルユーザーも世界を書き換える力だ。その中には、セレナを成仏させるものもあるかもしれない。

 そう思い、セレナは待った。

 そして出会った、優助という少年と。



+++



 ネームレスの話を、優助は凍えた心で聞いていた。

 彼女達さえいなければ、明日香は無事だった。冬音も罪に手を染めることはなかった。それが頼み事をしたい。なんて勝手な話だろうと思う。

 雰囲気でそれを察したのか、ネームレスは俯いた。


「勝手な話だと言うのは重々承知だわ。けど、私達には貴方の力が必要だった」


 優助は、黙りこむ。


「魔女裁判から生まれた魔女、か。貴女、何歳なの? 相当な歳よね」


 月夜が腕を組んで背を壁に預け、呆れたように言う。


「百から先は数えてないわ。人間のテロメアの限界値は越えていると思う」


 ネームレスは顔を上げた。


「その中でやっと見つけた、聖者の奇跡を無効化できる力。それが貴方の強化された光なのよ、優助」


 優助は、しばらく沈黙していた。

 月夜も、真昼も、彗も、黙ってことの成り行きを見守っている。


「しばらく、生きたらどうだ」


 優助は、呟くように言った。


「生きる?」


「普通の人間と同じぐらいの寿命で、普通の人間と同じぐらい」


「今から、普通に生きろと……?」


「そうだ。ただ生きるだけじゃない。俺の部下として皆を守るために働いてもらう」


「贖罪をしろと。そういうことなのね」


 ネームレスは、再度俯く。

 優助は頬杖をついて、投げやりに言った。


「そういうことだ。気分は良くないが、お前達の死については俺が約束する。俺の力で能うなら、必ずお前達を殺してやる。けれども、死に急ぐことはない。安心して、生きろ」


 ネームレスは、しばらく考え込んでいたが、頷いた。


「それを言う権利が貴方にはあると思うわ。貴方は失ったんだもの。色々なものを」


「本当そうだよ。嫁は危険に身を晒し、相棒は大地に封印された。まったく、文句はいくら言っても足りない」


 ネームレスは、黙り込む。


「それだけ、私達は死にたかった」


 スカーレットが、拗ねるように言う。


「で、お前らは俺の手を取るか? 拒絶するか?」


「優助と一緒なんだよね」


 ネームレスが言う。


「ああ、そうだ。公にもできんでな」


「なら、きっと楽しいよ」


 そう言って、ネームレスは微笑んだ。


「レス、じゃ変だな。君の本当の名前はなんだ?」


「セレナ」


 笑顔で、セレナは言った。


「よろしくね、優助。優助のおかげで、私の最後は魔女裁判での処刑ではなくなる」


 優助も、釣られてつい苦笑した。


「精々コキ使うからな。よろしくな。スカーレットはそれでいいのか?」


「ここで暴れて無理やり消されるか、大人しく従うか考えている」


 月夜達が身構えた。


「けど、期限が決まっているならのんびり生きるのも悪くはない。貴方の軍門に下りましょう」


 そう、スカーレットは言った。


「未来の炎帝候補がいるからな。暴れようとしても無駄だぞ」


「炎帝候補……」


 スカーレットは、興味深げに月夜達に視線を移す。そのうち、彗に目をとめた。


「冗談でしょう? このちんちくりんが炎帝候補? その属性の長候補はもっと威厳があるべきだわ」


 彗はスカーレットの暴言も気にしていない。いつも通りのぼんやりとした表情をしている。


「実際に戦ってみれば考えも変わるぜ」


 真昼は、そう言って彗の背を叩いた。


「ふうん……」


 スカーレットは、悪戯っぽく微笑んで彗を見る。


(なんだか雲行きが怪しくなってきたな)


 そんなことを、優助は思う。



+++



 坂巻楓は事情を聞いて声のトーンを落とした。


「疑わしいわね」


「私もそう思います。なので、彗と優助の仮眠時間はずらすように指示しました」


 月夜はそう返答する。二人はスマートフォンで通話していた。


「しかし、狙うとしたらなに? あの二人に優助を運んで連れ去るような腕力はないわ」


「内情調査が手かもしれませんが、それでは消滅させてくれという最初の願いと矛盾します。本当に消滅しちゃったらそれで終わりですからね」


「不老不死、か……」


 楓自身、セレナを木っ端微塵にしたことがある。それでも彼女は生きていた。不老不死という面は信じるしかないのだろう。

 月夜とも、その点では意見は一致していた。


「案外、本当に不死の呪いを解いてもらいに来たのかもしれない。それならそれで、色々情報を聞けるわ」


「そうですね……それも、難しいところなんですよね」


 月夜は悩んでいた。ニューフェイス達を信じるか、信じないか。


「燕さんに相談してみればいいかもしれない」


 楓は、ふとそう言った。


「桜井の当主ですか」


「あの人の人脈は結構なものだから。二人を匿ったと聞いて、いよいよ燕さんじみてきたと思ってたところなのよ」


「そうですね。情報を聞き出せるかもしれないし、頼ってみましょうか」


 その時、悪寒を覚えて、月夜はスマートフォンを握る手に力を込めた。

 周囲を見渡す。死神ではない。

 学校の、グラウンドのほうから感じられるものだ。

 月夜は寮を出て、グラウンドへと駆けた。

 星が落ちてきたような業火が、闇夜を照らしていた。スカーレットの炎だ。対峙しているのは、彗。


「貴女の前任者はこの炎を食い止めた。貴女に、それができるかしら」


 彗は、笑った。


「あはははははは、私に炎を使って勝負を挑むなんて、面白いじゃない」


 彗の手から炎の糸が垂れる。それは、幾重にも紡がれ縄となる。


「それが貴女の炎? 脆弱ね」


「ぶつかってみればわかるわ」


 彗は余裕の態度を崩さない。


「どうしたの、月夜?」


 急に会話が途絶えて戸惑ったのだろう。楓の声がした。


「いえ。ちょっとしたじゃれあいです」


 そう、淡々と月夜は返した。

 巨大な炎が落下する。

 縄が伸びて、その炎に触れた。

 スカーレットの形相が変わる。


「嘘……炎が、コントロールできない……」


 彗が目を細めた。

 炎は軌道を変えて、スカーレットに向けて落下を始めた。

 スカーレットは両手を掲げて、コントロールを変えようとする。しかし、思うようにいかないようだ。

 そして、スカーレットの上空で、炎は止まって掻き消えた。


「炎帝候補の理由。納得してもらえたかな」


 彗が、ぼんやりとした表情に戻って言う。


「納得せざるをえないでしょうね」


 スカーレットは、げんなりとした表情で言った。


「私の、負けだわ」


「なんかそっちで凄い炎の塊が見えたけれど」


 電話口で、楓が言う。


「じゃれあいです。報告書には書かないでくださいね」


 月夜は、淡々とした口調で言った。



+++



 桜井燕がやって来たのはその翌日だった。


「フットワーク、軽いですね」


「本当に仕事ができる人間ってのはね、自分がいなくても仕事が成り立つような環境を作り上げる人間を言うのよ」


「物議を醸しそうな発言ですね」


「私の持論だ。異論があるなら聞くが?」


 そう言って、皮肉っぽく微笑む。


「師匠には敵いません」


 優助は白旗を上げるしかない。

 まず、詠月の術者によるメンタルテストが行われた。

 精神的接触に抵抗力を持つ召喚術師とスキルユーザーだが、イエス・ノーでの嘘ぐらいはわかるようで、ここで二人が本心から消滅を望んでいるということがわかった。


 そして、燕の尋問が始まった。


「貴女達にはボスがいるわね? 解放戦線にも手を貸しているボスが」


「います」


 答えたのは、セレナだった。


「幹部がいるような大きな組織なの?」


「いえ。ボスが一人。後は死神がいる程度の、小さな、小さな組織でした」


 燕の形相が変わる。

 月夜達がこの場にいたら、大変なことになっていただろう。


「死神も、貴女達の仲間なの?」


「ええ、そうです」


「接触にいつも使っていた場所はある?」


「いえ。その時々によって違いました」


「接触に使った場所を書き出してくれる?」


「わかりました」


 セレナは、素直に燕に提示された地図に印をつけていく。


「こんがらがっていた糸が繋がりそうな気がしてきた」


 燕は、セレナの作業を待ちながら淡々と言う。


「こんがらがった糸とは?」


「今回の敵は……我々と相容れるものなのかもしれない」


「どういうことです?」


「迂闊なことも言えないわね。しかし、まいったわ。当主会議での秘密がまた一つ増えた」


「師匠に関しては今更な気がしますけどね。俺にスキルを教えるように示唆したの、師匠でしょう?」


「バレてたか」


「結婚式にまで来てましたしね、あの人……」


「迂闊な手駒を持つと上が苦労する。優助もそこらの区別は念入りにしておくべきだ」


 なんにせよ、セレナ達は味方だということがわかった。

 これからは安眠できそうで、安堵した優助だった。


次回『花火』

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