彗との日々
彗が隠し部屋に寝泊まりするようになり、変わったことは特になかった。
空いた時間は勉強に回す。彗は、一人でゲームをしていた。
それでも、時々視線を感じて振り向くと、彗は優助のことを観察しているようだった。
「面白いか?」
「なにが?」
「人の様子をうかがい見て。それならトランプしようぜーとかゲームしようぜーとかあると思うが」
「私は貴方の元相棒じゃないわ。貴方の好みがわからないの」
それもそうだ。優助は考え込んだ。
「それじゃ、ゲームでもするか。幸いゲームハードはあるし、真昼さんが置いていったゲームソフトもある」
こうして、ゲームをすることにしたのだが、彗は謎に満ち溢れていた。
性格が見えない。
「くっそー、今回は負けかあ」
「運だね」
彗は勝っても淡々としている。
かと言って負けそうになったらどうなるかというと、黙り込んでいる。
勝っても負けても嬉しそうに見えない。
喜怒哀楽がわかりやすい明日香とは正反対だった。
「……ゲーム、楽しい?」
「楽しいよ」
彗は、淡々とそう言った。
思ってはいけないことだが思ってしまう。
これが、明日香だったらなと。
ある日、彗が買い出しに出かけた時、真昼に声をかけられた。
二人はスナック菓子を分け合って食べている。
「大変だろー、彗の相手」
「最初は雲行き怪しいかなと思ったけど、順調ですよ」
「本当か? あいつ、敵を見つけたら性格変わるだろ」
「落ち着かせるように言い聞かせました。今じゃ、ペアで行動してますよ」
「ふうん……」
「怖くなくなったってことなのかもね」
月夜が会話に加わってくる。
「怖かったから、自分を鼓舞して、普段と違った性格を演じる。優助君に諭されて、それがなくなったんじゃないかな」
「じゃあ俺と組んでた時は怖がってたってことか。舐めやがって」
「懐かれてるんじゃん。良かったね、優助君」
「懐かれてる……?」
そんな自覚、殆ど無い。彗はいつも淡々としているから。
そして、その日も夜がやって来た。
「星空、見たい」
彗が唐突にそんなことを言い出した。
「そっか、流星群来るんだったな」
「うん、そう」
「窓から見えるかな……」
「屋上の鍵、持ってるでしょ?」
そう言って、彗は学校の廊下を歩きだす。炎の糸で、主達を切り刻みながら
優助は、その後を追った。
そして、二人は屋上に出た。
心地よい風が吹いていた。
空を見上げる。
流れ星は見えない。
「時間が合わなかったかな。残念だったな」
優助は、そう言うしかない。
彗は、祈るように空を見ている。
その時、彗の目が大きく見開かれた。
「あっ」
夜空に星が走った。
次から次へと星が走っていく。
「良かったな」
明日香に見せたかった。そんなことを思う。
「優助君は、何処か遠くを見ている時があるね」
子供だと侮っていた。彗は、正確に、新しくコンビを組む相手のことを見定めていたのだ。
「……大人には色々あるんだ」
明日香のことを思う。
封印されてしまった明日香。美味しいお菓子を食べている時も、楽しくゲームをしている時も、彼女はこんなことすら味わえなくなってしまったのだと悲しくなる。
「未成年じゃない。私とだって、そう歳は違わないわ」
彗は珍しく、ムキになったように言う。
「この年頃の数歳差はとても大きいんだ。覚えとけ」
優助はそう言って、苦笑した。
「あ……」
彗が、優助の顔を見て、呟く。
「初めて、本心から笑った」
彗が、幸せそうに微笑む。
「お前にはなんでもお見通しだな」
優助は空に背を向けると、学内に戻って行った。
「主狩り再開するぞ。休憩は、終わりだ」
「わかった」
写メを撮る音がして、その後に足音が徐々に優助に近づいてきた。
得体の知れない存在、彗と一歩距離が縮まった。そんな風に思った夜だった。
次回『慧と公園』




