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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
水鏡慧編

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新しい相棒

 パソコンがエラー音を鳴らした。


「アクセス権限がありません、か……」


 クーラーの効いた隠し部屋で、月夜はノートパソコンとにらめっこをしている。


「なにをしてるんです?」


 優助は、そう言って画面を覗き込む。死神の似顔絵と特徴が書かれていた。


「詠月のサーバーにアクセスして死神のデータを引き出そうとしたの。けど、変なの。アクセス権限がかかっちゃってるのよね」


「見たけりゃ偉くなれってことだ」


 真昼が揶揄するように言う。


「八神家の権限でアクセスしてるんだけどなあ……当主クラスしか見れないデータ、か」


 月夜はそう言って溜息を吐いて、ノートパソコンを閉じた。


「今日から組むわけだけど、新しい相棒との挨拶は済ませた?」


 月夜は明るい口調で言う。気を使われているようで、優助はあまり面白くない。


「挨拶もなにも、寝てます」


 そう、水鏡彗は明日香のものだったベッドに寝転がって寝入っているのだ。

 そろそろ、時計は正午を指し示していた。


「どんな子かは把握しておいたほうがいいよ。ちょっと難しい子だからね」


「難しい子?」


「俺がどれだけ苦労したか……」


 真昼がそう言って、溜息を吐く。


「しかし、急なシフトチェンジですね。真昼さんが育てていたのでは?」


「なにか、仕事があったほうが気も紛れるでしょう」


 月夜はそう言って、優助の隣りに座った。


「映画ならいつでも付き合うわ。気軽に言って」


「ありがとうございます。感謝してますよ」


「……優助君、変わったね」


 月夜の言葉に、優助は戸惑った。


「そうですか? 自覚はないんですが」


「昔はもっと、笑顔が柔らかかった。時間が経ってないから仕方ないかもしれないけれど、笑顔は忘れないようにね」


 全てお見通しか。優助は、苦笑した。


「気をつけておきます」


「前任者の話?」


 突如、三人のもの以外の声がしたので、優助は苦笑して振り返った。


「そう。先守明日香。俺の元相棒の話だ」


 彗が、ベッドの上で上半身を起こしていた。


「私は元相棒とは同じことはできないよ。第三形態でもないし、純スキルユーザーだからね」


 彗は淡々と言う。


「けど、組んだからにはなにかの縁だ。精々死なない程度によろしく」


 そう言って、彗は手を差し出してきた。

 優助は、その手を掴もうとして、掴めなかった。


「俺にもう相棒は必要ないよ。同僚だ。ビジネスライクで行こう」


「そう言われるならそれでも結構だけどね。私もその方がやりやすい……」


 そう言って欠伸をすると、彗はシャワー室に入っていった。


「一見普通の子に見えますね」


「それが厄介なんだよ」


 真昼は、しみじみとした口調でそう言った。

 組むにあたって、彗の力を見せてもらうことになった。

 彗のスキルは、紐状に指から伸びた炎。

 その脆弱さに優助は呆れた。


「本当にこれだけ?」


「これだけだよ」


「これが未来の炎帝候補?」


「炎使いと当たれば真価を発揮するよ」


「舐めてかかると痛い目にあうぜ」


 真昼が苦い口調でそう言って、ハンカチを振る。

 火の糸に触れたハンカチは、バラバラになって地面に落下していった。


「力が凝縮されている……?」


「そういうこと。スキルユーザーは通常自分の属性に耐性があるものだが、こと炎帝様にはそれも例外だ。炎の糸でどんな相手もバラバラにするだろうな」


「おっかないですね」


 明日香も炎のスキルユーザーだった。彗と、どちらが強いのだろう。

 そんなことをぼんやりと考えていると、彗と目が合った。

 なにかを探っているような、そんな目だった。


「まあ、記念すべき第一日だ。気楽にやろうや」


 そう言って、真昼が鍋を作り始める。

 夜が近づいてきていた。



+++



 さて、どう厄介なのだろう。

 夜の学校に彗と並んで立ち、優助は戸惑っていた。


「二手に別れるのはまだ危険だと考える。一緒に行動しよう」


「構わない」


 そう語る彗の指からは、十本の炎の糸が垂れている。それが輝いて、通路を照らしていた。

 そのうち、主が現れた。


「あはははははははは」


 場違いな高笑いが聞こえて、優助は驚いた。

 その笑い声は、彗から発せられているものだった。

 糸が、幾重にも紡がれて縄になる。

 縄状の十本の炎を振り回して、彗は走り始めた。

 そして、踊るように主達をバラバラにしていく。


「もっとよ、もっと! もっと楽しませて!」


 彗はそう言って、駆けて行く。

 優助は、慌ててその後を追った。


 と言っても、一定の距離を離さないと接近できない。相手は縄状の炎を振り回しているのだ。

 まるで人が変わったようだと優助は思う。

 その時、斬られて倒れた影が動いた。

 その主は、体の三分の一を分断されてもまだ動いている。


「危ない!」


 優助は、白い光を放って彗を押し倒す。

 主は白い光に触れられて、消えた。


「油断大敵だ。怪我を負うとこだぞ」


「……精々体の一部が削れるだけだよ。私が勝ってた」


 そう言って、彗は立ち上がって、紐上の炎を振り回す。

 どうやら、元の彗に戻ったようだ。


「けど、助かったのは事実だから、ありがとうは言ってあげる」


 なんて上から目線の礼だろう。


「……自分の体は大事にしろ。俺はもう、人がいなくなるのを見たくない」


 彗は、戸惑う様子で口籠る。


「コンビなんだ。二人で、のんびりやろう。安全第一だ」


 彗はしばらく考え込んでいたが、そのうち飽きたらしく頷いた。


「はあい」


 わかっているのかわかっていないのか、呑気な返事だった。彗らしいと言えるのかもしれない。

次回『慧との日々』

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