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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
水鏡慧編

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篠塚有栖の提案

「お帰りなさい」


「ただいま」


 篠塚有栖の声に、桜井岳斗は返事をして扉を閉める。


「今日も一日ご苦労様」


「有栖のおかげだよ。戸籍を偽造してもらわなければ就職なんて不可能だった」


「へへへ、お安いもんだよ」


 篠塚有栖は、詠月では着物姿の少女と呼ばれている。それぐらい、詠月に個人情報を与えていない。

 世界を書き換える力。その力を隠蔽して平穏に暮らすために、彼女は細心の注意を払っている。

 住んでいるのも、築三十年の古ぼけたアパートだ。


 岳斗は、有栖に助けられた経験がある。

 岳斗は封印された召喚術師だった。その封印から逃れるために足掻いていた時に、有栖と意識が繋がった。

 そして今、岳斗は無事封印を脱しここにいる。

 だから、岳斗の有栖への感謝は尽きることはない。


「お兄さんの調子はどうだ?」


「悪いね」


 有栖は、食事をテーブルに並べながら淡々とした口調で言う。

 有栖の体の中には、兄の怨念が残っている。世界を書き換え、全ての生物をスキルユーザーへと昇華させようとした人物の。


「今にも私を乗っ取ろうとしている。気がついたら知らない場所に立っていたなんてざらだ」


「何度も言うようだが、兄の意識を消せばいいのでは?」


「それは出来ない。私の中の兄の部分は霊脈へのアクセス権だ。いざという時になければ困るものだ」


「かと言って、有栖が消耗していくのを見たくないぜ」


 沈黙が漂った。互いに、譲る気がないのだ。


「食事食べようか」


 いつの間にか、有栖は手料理をテーブルに並べ終えていた。

 岳斗は黙って、それに従う。


「世界を書き換える力……」


 岳斗は箸でキュウリの漬物をつまんで言う。


「有栖の力は、それそのものだけで霊脈へアクセスできるのでは?」


「そこがややこしいところでね。私の中の力は兄を通して行使されてきた。私本人が使いこなせるのは別の世界を作ってそこに篭もることぐらいのものだよ。まったく、世界を書き換える力が聞いて呆れる」


 そう言って、有栖は白米を口の中にかきこんで咀嚼する。


「その点、木崎零は立派だった」


「剣の第四形態の術者か」


 僅かな嫉妬が、岳斗の胸で鎌首をもたげる。


「ええ。彼は自分の力を自分の意志で十全に使いこなしている。私も、かくありたいものだわ」


 岳斗は第三形態の術者だ。

 だが、第一形態で戦ったほうが強いというジレンマを抱えている。

 自分が彼女に尊敬されるには途方もない苦労が必要だろうな、と岳斗は思う。


 その時、部屋の扉がノックされた。

 岳斗は、立ち上がると第三形態になり部屋の扉を開ける。

 黒服の男がそこには立っていた。


「詠月の者です」


「そう」


 有栖は、座ったまま淡々と言う。


「ここは完全に包囲されています。大人しい投降を我々は期待します」


「岳斗。やっちゃって」


「……いいものなのかな」


「以前はその力を使いすぎて封印されたんでしょう? 今更悔いも引け目もないでしょう」


「それもそうだがな」


 黒服の男が、構えた。


「抵抗の意志ありと判断します。強制的な連行に移らせてもらいましょう」


「わかったよ」


 岳斗は溜息を吐くと、第一形態に召喚獣を戻した。

 人間の体と一体化していた召喚獣が、元の体を取り戻す。

 その瞬間、アパートが傾いた。

 家がいくつも倒壊し、巨大な足に蹂躙された。

 それは、まるで怪獣映画のワンシーンのようだった。

 巨大な龍が、四足で立って、町の中央に鎮座している。


「攻撃、かかれ!」


 背後から声がする。

 貴重品袋を持った有栖の手を引きながら、岳斗は駆けた。


「異世界生成は使えないのか?」


「兄に付け入る隙を与えることになる」


「そうか」


 龍の肌は堅い。いかに第三形態の術者でも、開放された岳斗の召喚獣剣龍には手傷を追わせることは出来ない。

 そう、それこそ、第四形態の術者でもいない限り。


 足止めは十分にこなした。撹乱も十分こなした。その間に、随分と逃げることができた。岳斗は距離が離れたのを確認すると、剣龍と一体化し、有栖を抱えて飛んだ。


「さて、何処へ行こう」


「何処へだって行けるわ。私達は公文書偽造なんてお手の物だからね」


「しかし、落ち着ける場所というものが必要だろう。ただでさえお前が不安定な状態だ」


 有栖は、しばらく考えた後、呟いた。


「桜井燕」


「正気か? 六家の当主の一人だぞ」


「彼女なら上手く匿ってくれる。今までの接触で、私はそうと信じている」


 岳斗はしばらく考え込んだ。

 詠月の捜査は尚更激しくなるだろう。

 今までみたいな平穏な生活、というわけにはいかない。


「くそ、ヤバそうな空気だったら俺は逃げるからな」


 有栖は、愉快げに笑った。


「貴方が私を置いていけるとは思えないわ。私のガーディアンさん」


 岳斗は図星だったので、反論できなかった。

 封印を解いてもらった恩がある。衣食住を用意してもらった恩がある。

 だから、岳斗は有栖に頭が上がらないのだ。


 圧倒的な速度で、岳斗は雲の上を飛んで行った。

 それはつまり、世界を書き換える力が桜井家の手中に収まるということでもあった。

今週から第五章になります。

今週の投稿予定


篠塚有栖の提案

新しい相棒

彗との日々

彗と公園

魔女

花火

喪失

跡継ぎ会議

妄執

死神の判断

至宝の子供達

八神週子

優しい夢を見るために(完)

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