スキルユーザーは優しい夢を見る(完)
「それではネームレスとスカーレットは目的を果たしたということだね」
男は椅子に座り、二人の脱退の申し出を受けていた。
「邪魔をするなら、私達はどんな手を使ってでも貴方を失脚させる」
ネームレスは真剣な表情でそう述べていた。
「去るがいいさ。僕としても、君達の使い道は終わった。あとは死ぬも生きるも好きにすればいい」
「わかった」
二人は、去って行く。
それを見送って、男は両手を組んだ。
「手駒がいなくなるというのは寂しいものだ。そう思わないかい。死神」
なにもない空間に穴が開いて、そこから仮面と闇が落ちた。それは人の形を成して、男の傍に寄り添った。
「この少数で世界を変えるという貴方の夢がそもそも問題があるのでは?」
「はは、そうだね。けど見えるんだよ、僕には。生まれつき、未来が。第四形態の術者が混ざってくると途端に見えなくなるんだが、あの最後だけは必ず見えている」
「そういえば、貴方の詠月での手駒が例の少女の名前を発見したそうですね」
「ああ、そうだよ。着物姿の少女。世界を書き換える天然の聖者だ。名前は、篠塚有栖」
男は、手を天に差し伸べる。
「最後のパーツはじきに揃う。その存在価値も知らずに詠月は有栖を捕縛するだろう……」
そして、男は手を握りしめた。
「世界を変える時だ」
死神は、なにも言わない。空間にできた穴の中に吸い込まれて、消えて行った。
男は部屋の中で一人、笑っていた。
+++
「はあー」
明日香は吐息を吐いた。
「大人になったら、ビール飲んだりするのかね」
「朝からビールを飲むような駄目人間にはなりたくないな」
「夜に飲めばいい」
「馬鹿、それこそ一緒に風呂に入るなんて習慣はなくなってるだろ」
「えー、いいじゃん。一緒に風呂入って一緒にビール飲んでさ。一日お疲れ様でした、今日も社会の歯車として一生懸命働きました、ご苦労様ですってさ。労い合うんだよ」
「お互いに恋人見つけてるだろ」
賑やかな掛け合いが聞こえる。
優助と明日香の声だ。
優助はその場所へ行きたい。けど、動けない。
潮が引くように優助は徐々に後退していく。
そして、目が覚めた。
優しいけれど、切ない、そんな夢だった。
隣のベッドには誰もいない。
シャワー室も、脱衣所も、トイレにも、明日香はいない。
「……まあ、慣れないとな」
優助は呟いて、大きく伸びをした。
「優助君、頼みごとがあるんだけれどいいかしら?」
月夜が、秘密の扉の鍵を開けて入ってきた。
「なんです?」
「今後、彗ちゃんとコンビを組んでくれるかしら。育ててくれると嬉しいの」
「いいですよ。どの道、退屈な毎日だ」
「未来の炎帝候補だからね。責任は重大よ」
そう言うだけ言って、月夜は去っていった。
明日香がいなくても日々は過ぎていく。
別々の時代を生きるとはそういうことだ。
それが少し、寂しかった。
「賑やかになるといいな……」
祈るように、優助は呟いていた。
ちょっと切ない感じで第四章は終了します。
内容は一緒なのですが、次回は八神月夜編になるか水鏡慧編になるか篠塚有栖編になるかも未定です。
気長に待ってくれると嬉しいです。




