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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守明日香の暴走編

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優助対明日香

「なにか、辛いことがあったんだな……」


 明日香は、優助に視線を向ける。

 その瞳には、涙がある。


「狂ってしまいそうになるほどに辛いことが、起きたんだな……」


 明日香は、呆然とした表情で優助を見ている。

 その隙を逃さず、月夜は明日香に向かって大剣を振り下ろした。

 それを防いだのは、優助の槍だった。


「俺のせいなのか?」


「優助……先守優助……!」


 明日香が飛びかかってくる。

 その前進を、優助はリーチの長い槍の柄で弾いた。

 明日香は疎ましげに再び前進を試みる。しかし、優助の槍はそれを許さない。

 行動が直線的だ。正気を失ったことによって、体術は劣化していると見るべきだろう。


 その時、優助の突きを屈んで躱し、明日香の爪が槍を断った。


「ガーディアン、新しい槍を!」


「あいよ」


 手に新しい槍が浮かび上がる。


「限界本数は何本だ?」


「今のお前の集中力なら十本が精々だろう」


「上等!」


 そう言って、優助は明日香の額を柄で突く。


「忘れるなよ。第四形態に受けた傷は治癒しない」


 優助は、背筋が寒くなるのを感じた。


「明日香。一緒に修行してきたよな、俺達。毎朝、組み手してたもんな」


 明日香が跳躍する。優助の背後に着地しようとする。それを、優助は槍の柄で突いて吹き飛ばした。


「だからわかっちゃうんだよな。お前の癖が」


「優……助……!」


 明日香は呻いて、憎々しげに優助を見つめた。

 そして、再び飛びかかってきた。


「気絶させるのも難しい。桜華斬で決着をつける」


「いえ、まだです!」


 月夜の提案に、優助は叫んだ。


「俺に、考えがある!」


 そう言って、優助は、第三形態を解除した。

 鬼のような容姿のガーディアンが、闇の中に浮かび上がった。


「無茶をする大将に当たった俺も運が悪かったってね」


 そう、ガーディアンはぼやいた。



+++



 真昼は痛みに堪えていた。血が次々に流れ出ていく。こんなところで死ぬのか、という思いがある。

 その時、慣れない感触を太腿の辺りに味わって、真昼は顔を上げた。

 ネームレスが、真昼の太腿の辺りを縛って止血していた。


「なんの……つもりだ?」


「貴方にはまだ利用価値がある。死んでもらっては困るとの上からの通達よ」


「明日香に……なにしやがった、おめえ……」


「先守明日香を壊したのは彼女の母よ。私ではない」


 ネームレスは純粋に止血をしてくれるようだ。

 真昼は、優助に視線を向けた。そして、目を見開いた。

 優助は、第一形態で勝負を決しようとしている。

 優助の前にはガーディアンが立ち、優助を庇う形になっている。

 月夜はなにを考えているのか、大剣を杖のようについて動向を見守っている。

 ならば、優助を守るのは自分しかいないと真昼は考えた。


「天から降り注ぐ鉄槌よ……悪なる者に」


 傷口を広げられた。


「いつっ」


 詠唱が止まる。

 その間にも、明日香の優助への特攻は開始された。


「ここからが、優助の資質を確かめる時よ」


 そう言って、ネームレスは真昼の太腿に撒いた布を大きく引いて、縛った。

 明日香の爪がガーディアンに深々と突き刺さる。

 その体から、槍が突き出た。

 優助が、槍でガーディアンごと明日香を狙ったのだ。

 その槍の穂先は明日香の首に巻いてあるチェーンに触れ、見事に斬ったのが見えた。

 チェーンで固定されていた指輪が飛んでいく。

 明日香の手の甲に現れていた魔獣の爪が、消えていく。


「そうか、"キー"を失えば第四形態とてただの人……」


「さて、優助。貴方は明日香を正気に戻せるかしら」


 そう言って、ネームレスは立ち上がった。

 そして、歩いて行く。

 何処に去って行ったかは、真昼にもわからない。



+++



 優助は明日香の頭部を掴んでいた。

 明日香の動きは、月夜に羽交い締めにされているせいで制限されている。


 優助は、苦い顔になった。


「アクセスしなくちゃならない層が深すぎる……第四形態に至った人間は、正気に戻せないのか」


「なら、諦める?」


 月夜が、叱咤するように言う。


「いえ」


 念じる。明日香と過ごした日々を。毎朝行っていた組み手。何でも屋をして一緒に過ごした日々。師匠の道場での修行。

 いつも、明日香は傍にいてくれた。

 そんな思いを、明日香に流し込む。


「優……助……?」


 明日香が戸惑いの声を上げる。

 優助は、頭痛がするのを感じた。これ以上奥深く潜り込むのは無理だ。優助の体が壊れてしまう。


(けど!)


 こんな時に救えなくて、なにが相棒だ。

 優助の意識は、今まで立ち入らなかった深層に、足を踏み入れていた。


 光が弾けた。

 月夜が、大剣を見て戸惑いの声を上げる。


「第四形態に受けた傷が直っている……なら、真昼は?」


 真昼はゆっくりと立ち上がっていた。傷の影響はなさそうだ。

 優助は、頭の中に沢山の情報が流れ込んできてパンクしそうになっていた。それでも、その中から必要な情報だけを選び取り、書き換える。


 明日香の頭から、記憶が逆流してきた。

 分家を追われた明日香。

 そして、明日香は少年と出会う。

 どこか影を背負う少年。けれども、直向きな少年。

 彼を見て、救われた

 一緒に遊んで、救われた。

 だから、明日香は彼が大好きだった。伝えなかったけど、大好きだった。


 明日香の表情から、力が抜ける。


「優助……」


「正気に戻ったかよ。明日香」


 優助は苦笑する。

 疲弊感で一杯だった。よろけたところを、明日香に支えてもらう。


「ごめんね、優助。ごめんね。優助のせいじゃなかったのに……本当にごめん」


 明日香は涙目で、そう訴える。


「正気に戻ってくれただけでチャラだ。俺達、相棒だろ?」


 明日香の、優助の体を抱きしめる腕に力が篭った。


「うん」


 明日香の嗚咽が響く。

 第四形態との初戦闘は、こうして幕を下ろした。



+++



「先守分家の当主の殺害。第四形態による暴走。先守明日香は危険すぎる」


 会議室で、老齢の女性がそう言った。


「まあ、水鏡の。今回は分家の当主が対処を誤った。そう見るべきでは?」


 哲三は、内心冷や汗をかきながらフォローをする。


「そうです。明日香は進んで人を傷つける人間では決してなかった」


 桜井燕も、哲三に同調する。


「しかし、召喚術師達が都合よく気絶していたという背景もある。先守明日香はなにかと繋がっていたのではないか?」


 そう言うのは、八神家の当主だ。


「先守時子がなにかと繋がっていたと、そう見るべきかもしれん。事実、あの場にはネームレスが現れていた」


「目の上のたんこぶじゃな」


 老人が、溜息混じりに言う。


「とにかく、圧倒的な破壊の力。放置しているわけにはいかないでしょう」


 水鏡の当主は穏やかな声でそう言った。


「先守も桜井も、他に後ろ暗い点があるでしょう。それは目をつむってあげているんだ。今回のような凶悪な召喚術師に対する罰は与えなければならない」


 哲三も、燕も、苦い顔をして黙り込んだ。

 先守明日香は、封印刑に処されることになった。






次回『私の大好きなあいつ』

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