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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守明日香の暴走編

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桜祭り

「というわけで、この度行われる桜祭りの護衛にこの四人が見事抜擢されました」


 月夜がホワイトボードを叩いて言う。そこには、祝・桜祭りと大きく書かれ、桜祭りのポスターが貼られている。


「睡眠時間は?」


 優助は、情けない声で訊く。


「夜まで祭りの護衛、夜からは主退治、睡眠用に明日は半日休みです」


「ありがたくない申し出だ」


 真昼が物憂げに言う。


「そうでもないわよー。私達が守っているものを再認識できる時間。大事な時間だわ」


「第三形態なら駒が他にもいるだろうに……」


「死神が出たからね。上も慎重になっているのかもしれない」


「死神ってなんですか?」


 明日香が戸惑うように言う。

 そういえば、明日香は分家のことにかかりっきりで死神のことを知らされていないのだった。


「死神と呼ばれるスキルユーザーよ。最近県内で死亡者が数名出ている。何年か周期に現れているようなの」


「なるほどー。それは厄介ですね」


「気をつけることね。背後から鎌でグサってやられたら終わりよ」


「善処します」


 明日香は、少し強張った表情でそう言った。


「とにかく酔っ払い若者色々います。面倒事は起こさないように。以上」


「はーい」


 三人の言葉が異口同音に重なった。

 その夜のことだった。


「花びらよ舞い散れ、桜華斬!」


 月夜が持つ大剣に光が集まり、放たれる。

 それを、優助の無効化の光が消した。

 月夜は肩で息をし始めている。

 回復の光を、優助は月夜に灯した。


「少し休憩ね」


「なにか、コツは掴めそうですか?」


「思い描く一撃はある。それを、再現できるか……」


 月夜は座ると、コーヒーを飲んで考え込み始めた。

 学校の屋上だ。

 優助は月夜の必殺技強化訓練に付き合っている。

 沈黙が二人の間に漂った。

 しかし、それは居心地が悪い沈黙ではなかった。

 二人の目的は一緒だ。それに共に向かっているという感覚が居心地がいい。


 月夜は、立ち上がった。


「ちょっと、試すわ。ワイドレンジの攻撃になると思うから、横に光を伸ばして」


「はい」


 光を横長に伸ばす。これで月夜がどんな攻撃を放っても対応できるだろう。


「花びらよ、集結せよ! 全てを斬り裂き咲き誇れ!」


 月夜が、大剣を引く。色とりどりの光が大剣に吸い込まれていく。

 そして、それを横薙ぎに払った。


「覇・桜華斬!」


 放たれたのは横一閃の光。これは見たことがある。死属一刀と同等の攻撃だ。

 それを、優助の光は吸収して、無効化した。


 月夜はその場に座り込む。


「体力消費はそこそこね。燃費はそこまで悪くないわ。真・桜華斬みたいに体力が尽きることはない」


「敵の攻撃をここまで完璧にトレースするとは、流石です」


「これを喰らえば流石の奴の胴体も真っ二つになるだろ」


 そう言って、月夜は微笑んで、臀部を払って立ち上がった。


「次の技はどうするかなあ。十字・桜華斬とか」


「一撃に溜めが必要な以上、十字は無理なのでは?」


「いや、やってみる価値はある」


 そうやって、夜の研究は進んでいったのだった。



+++



 桜祭りの日がやって来た。公園は桜の桃色で一杯で、見ているだけで頬が緩んだ。

 しかし、それも三時間もすると飽きた。


「月夜さん、暇です」


 月夜の待機場所まで移動して、ぼやく。


「我慢なさい。私も暇なんだから」


 優助達は屋台の後ろの椅子に座って、異常がないかを確認していた。


「そうね。なんなら椅子を近づけて雑談でもしましょうか」


「いいですね」


「あっちはやってるみたいだしね」


 言われて気がつくと、明日香と未来が椅子を近づけて会話に花を咲かせている。

 上手くやっているらしい。優助は、頬を緩めた。


 月夜と話して時間を潰した。

 桜は綺麗で、その下で屋台の料理を食べる人々は見ていて心が和んだ。


「召喚術を呪われた力のように言う人もいる」


 月夜が、呟くように言う。


「けど、この笑顔を守っているのが召喚術なら、それは良いものなのではないかしら」


「卵が先か鶏が先かになりそうですけどね」


「そうね。けど、私は満足だわ。この町を守っている自分自身が。死神からも、きっと守ってみせる」


 月夜の表情に陰が差した。


「月夜さん。屋台の焼きそば半分こして食べません?」


 優助は話題を変えた。


「いいわよ。お箸二つ貰ってきてね」


「はい」


 なんだかんだで、この祭りを楽しめるかもしれない。そう思い始めた優助がいた。



+++



 八神真昼は、水鏡彗と見回りの任務を充てがわれていた。

 水鏡彗は、最近しばしば明日香の代わりに学校を守る後輩だ。

 炎のスキルユーザーなのだが、その能力は不安定で、修練場所として学校が選ばれた。

 彼女は、炎のスキルユーザーの最高位たる炎帝候補と目されている。


「食べたい……」


「なにがだ?」


「フランクフルト……」


 か細い声で彗が言う。


「俺は酒が飲みたいな。はいお相子な」


 彗は不満げな顔になる。

 真昼は脱力しつつ、フランクフルトの屋台へ向かった。


「おじちゃん、フランクフルト二つ」


「あいよ」


 財布を取り出して、金を払い、商品を受け取る。


「おー、彗ちゃんもう男に貢がせてるのかー。女に磨きがかかってるなあ」


 月夜の監視エリアだったらしい。屋台の奥から野次が飛んで来た。


「誰がこんな乳臭いガキ……」


 周囲の気温が数度上がった気がした。見ると、彗の指から糸のように炎が垂れている。


「いや、そのなんだ、立派なレディをエスコートするのは紳士の勤めだゆえ」


 彗は微笑んで、フランクフルトを真昼から引ったくった。

 まったく、いい性格だ。

 臆病に見えて、要領が良くて、どういう態度を取れば自分がどう扱われるか理解している。

 フランクフルトを頬張りながら、彗は進む。

 その後を、真昼はゆっくりと追った。

 これでも未来の炎帝様だ。怪我でもさせたら大変なことになる。

 尤も、幼い頃に早熟で大人になってみると凡人だったなんて例はいくらでもあるのだが。


 真昼は、母の仇に対抗する策を胸中で考える。

 真・桜華斬を受けて無傷ならば、真昼の千鳥では対策は不可能だろう。

 千鳥はあくまでも剣を落下させる技。爆発を巻き起こすような桜華斬とは根本的な破壊力が違っている。

 真・桜華斬は、母の仇を取ることを目的にした月夜が執念で作り出した技だった。

 それが通じなかった今、真昼と月夜の手札はないに等しい。


「俺も技の改修時かね……」


 思わず、呟く。


「千鳥で十分強いでしょ?」


 彗が、戸惑うように足を止める。


「あれは雑魚狩りの技だ。大物相手には通用しないんだよ」


「私みたいなスキルユーザーには十分脅威だよ」


「よく言う」


「本気だけどなあ……」


「あいつに勝てなきゃ意味がないんだ。月夜の桜華斬も、俺の千鳥も」


「あいつ……?」


 真昼は黙り込んだ。自分の因縁をこの少女にまで伝える理由はない。


「怖い顔してるよ、真昼」


「ああ、すまん」


 真昼は表情を崩した。

 笑顔には慣れている。自分は道化だ。舞台に花を添える存在でなければならない。

 いつまでも泣いている月夜の傍で、いつまでも泣いていられなかった男の成れの果て。それが、今の真昼だった。



+++



「夜には花火をやるそうですよ。ご一緒しませんか?」


 未来の提案に、明日香は迷った。


「夜は仕事があるからなあ……」


「うちから代理の者を送らせますから」


「いや、それなら代理の後輩がいるらしいから」


「それなら、ご一緒しましょう!」


 そう言って、未来は明日香の手を取った。

 そうされてしまうと、明日香は弱い。


「わかったよ、付き合うよ」


「やったー!」


 未来が小躍りする。

 明日香はスマートフォンを取り出して、真昼に連絡を取ることにした。

 休暇の許可は、思ったより簡単に出た。

 そして、夜になり、屋台の護衛の交代も済み、明日香と未来は花火がよく見える丘に移動した。

 未来の手が、明日香の手に重なる。


「怖くなかったんです」


 そう、未来は興奮した口調で言った。


「いつもは護衛なんて怖かったけど、今日は明日香さんがいたから怖くなかったんです」


 明日香は苦笑する。


「私なんて第三形態じゃ弱い部類さ」


「第三形態ってだけで凄いんですよ」


「ウィッチビジョンみたいな狙撃型には弱いけどね」


「もう、自信持ってくださいよ。明日香さんは格好良くて綺麗で、私の憧れなんだから」


 花火が上がった。町の光と水平線の上空に、炎の花が咲く。


「わあああ……」


 未来は、感嘆の声を上げる。

 それを、明日香は抱きしめたくなった。

 二人の手と手は、重なっている。


「六年間、色々あった」


「護衛をしてから、ですか」


「うん。恋もしたし、ふられもした」


「明日香さんをふるなんて贅沢な男です」


「正確にはふられたんじゃなくて、アタックしなかったんだよ。そのうちに、相手は他の女のものになった」


 未来は、不安げな表情になる。


「ふられるのが、怖かったんですか?」


「勝負をしないのが賢いと思っていたのさ。最初から負けない位置で、傍観者を気取る。愚の骨頂さ」


「悔いておられるので?」


「どうだろう。わかんないな。ふられたって事実だけが心に残ってる」


「新しい恋をしましょう」


 未来が両手を明日香の手に重ねて、励ますように言う。


「六年は、確かに辛い時期だったかもしれない。けど、これからがありますよ」


 子供の癖に、わかったようなことを言う。明日香は、苦笑した。


「そうだね」


「明日香さんも、分家の子供になりましょう? それが、一番収まりがいい形ですよ」


「お母さんから、話聞いたの?」


「ええ、まあ」


「じゃあ、答えも知ってるはずだ」


 未来は、黙り込んだ。


「私はもう本家の人達に愛着がある。今更、捨て去ることなんてできないよ」


「……けど、私は諦めませんよ。きっと、お母さんも」


「そっか」


 いつからだろう。妹と一緒に遊ぶのが当たり前だった。それが、優助といるのが当たり前になっている。

 六年は長い。季節は巡る。明日香は変わった。本家の人間になったのだ。

 花火が上がる。


「綺麗だね」


「ええ、とても綺麗です」


 未来は、とても嬉しそうに微笑んだ。




次回、再決戦

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