初陣
山の上の公園で学校の守り手四人が勢揃いしていた。
優助が召喚獣を呼び出す。
ガーディアン。槍と鎧を持つ攻防一体の召喚獣だ。
「いきなり第三形態が相手とは、流石に無茶がすぎるんじゃないかな~」
大剣を担ぎ、スクワットをしながら月夜が言う。
「第三形態にも対応していかなければならないんです。俺はガーディアンを使いこなさなければならない」
「そう」
月夜は妖しく微笑むと、立ち上がった。
そして大剣を振りかぶった。
「花びらよ舞い散れ……桜華斬!」
大剣が振り下ろされる。
色とりどりの光が花びらのように放たれ爆発を起こした。
ガーディアンも、優助も、回避している。
両者の手には、槍がある。
月夜がガーディアンの前に移動していた。
ガーディアンは槍を振るう。
それが届く前に、月夜の掌底がガーディアンを吹き飛ばしていた。
鎧が砕け散る鈍い音が響き渡る。
そして、連撃の膝蹴り。ガーディアンは天を仰いで、のけぞった。
そのままにさせておくわけにはいかない。優助はガーディアンの援護に回る。
そして、槍を月夜に突き出した。
手に衝撃が走った。槍が弾かれたのだとわかった。
第三形態の圧倒的な腕力。その前に、第一形態の常人の腕力では太刀打ちしようがない。
そして、月夜の大剣が、優助を捉えようとした。
ガーディアンがボロボロの体で月夜に襲いかかった。
槍を振り上げ、突進する。
優助も、槍を拾って投擲する。
月夜は後方へと避けた。
優助は、ガーディアンと、肩を並べる。
「槍、もう一本くれ」
優助の言葉に、無言でガーディアンは槍を形作って手渡した。
「初陣が第三形態とは正気ではないな」
「俺達は弱いままじゃいられない。守る側の人間が弱いままでは成り立たない。だから、強くなるんだ」
「まだ現実にぶつかっていない坊っちゃんの言い草だな。無理というものは世の中にある」
召喚獣は術師の心の映し身だという。
彼の言葉は、優助の本音なのだろうか。
月夜が、剣を振りかぶったまま跳躍した。
尋常ではない速度だ。彼我の距離が一瞬で埋まる。
「花びらよ舞い散れ!」
まずい、と思った時には遅かった。
「桜華斬!」
ガーディアンの胴体が、爆発を受けて真っ二つに折れた。
"キー"にヒビが入る音がする。
そして、大剣が優助に向かって突きつけられた。
「私の勝ちね」
冬音は、そう言って微笑む。
後方から真っ二つになったガーディアンが槍を突き出したが、月夜はそれを軽々と踏みにじる。
こんなところで負けてはいられない。自分は皆を守るために槍を振るうのだから。
冬音、秋悟、月夜、真昼、明日香、皆を守るために強くならなければならないのだから。
そう思った瞬間。ガーディアンが消えた。
そして、優助は爆発的な力が自分の中に流れ込んでくるのを感じた。
月夜が眉間にしわを寄せ。槍を弾き飛ばす。
月夜が殺意がないから槍を弾き飛ばして抵抗の手段を奪っただけだ。殺意があれば、優助はもう死んでいた。
負けだ。
「感想としてはどうですか?」
優助は、あぐらをかいて座る。槍は地面に落ちて、霧となって消えた。
「正直、スキルでこられたほうが怖い。召喚術だと、体を二つ動かすから意識が分散するしね」
それは、重い一言となって優助の背に押しかかった。
「けど、第三形態になれば優助君の体術を思う存分活かせるし、咄嗟の盾にも使える。覚えて損はなかったと思うわ」
「強くなるのはまだお預けかあ……」
強くなる。ただそれだけのことが難しい。
世の中には強い人間がいくらでもいる。それを追い越していくことの難度の高さよ。
「第三形態ってどうやってなるんですか?」
「激しい感情がトリガーになる。私達の場合は、母を喪ったことだった」
「失う、か……」
まだ強くなる余地はある。
第三形態になれさえすれば、優助は月夜とも対等に戦えるのだ。
「帰りましょうか」
月夜は、歩いて駐車場へ向かい始める。
「途中治療術者と合流して"キー"を回復させましょう。折れたらコトよ」
月夜は軽い調子で歩いて行く。
月夜より強くなりたい。現状で、優助の一番の目標は月夜だった。
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「まあ、第一形態で第三形態に勝とうってのが無謀なんだよね」
体育館の壇上で、明日香が頬杖をつきながら言う。
「そんなに無謀か」
優助は、落胆しいた思いで聞く。
「第二形態に勝とうと思うのすら無謀。狙撃型の召喚獣なら話は変わってくるんだけれどね……まあ、つまり」
明日香は微笑んだ。
「早く第三形態になりなさいってこった」
「なれるかどうかわからないものをアテにするほど楽観的ではないよ。俺は俺のできることをしなければならない」
「知ってる? 私達、霊脈の申し子は、第三形態になる条件が他の人間より緩いんだよ」
「ふーむ。ガーディアン、どう思う?」
ガーディアンが、優助の隣に腰掛けた。
巨大な鬼のような外見の彼が大人しく座っているのはどこかシュールな光景だった。
「第三形態に挑むのは無謀だと考える」
「けど、俺とお前のコンビネーションが完璧になれば勝ち筋はあると思うんだがな」
「お前には護衛がいる」
ガーディアンは、淡々とした口調で言う。
「それが到着するまでの時間稼ぎの手段が増えたと喜ぶべきではないかな」
「ふーむ」
前途は多難そうだった。
「明日香の第一形態ってどんなのなんだ?」
「ん、見る?」
「見たい」
興味本位に見てみたかった。自分の得たものが、本当に明日香達の駆使しているものと同じなのかと。
「漆黒よりいでよ、フェンリル」
明日香が呟くと、人を丸呑みにできそうな巨大な青い犬が現れた。
遊園地でネームレスを追い、神社で優助を足止めしたあの犬だ。
「そっか、こいつか。これが体の中に入ってるのか……」
優助は唖然とした口調で言う。
「まあ、そうなるね」
明日香は誇らしげだ。そして、"キー"なのだろう胸元のチェーンで固定された指輪を取り出す。
「そりゃ、強いわなあ……」
「強くなるんでしょう? 優助」
明日香が、励ますように優助の背中を叩く。
「私は、応援してるよ」
「……おう」
後退はしていない。一歩前進はした。苦い敗北も、いずれは時の流れの中に消えていくだろう。優助は、そう思った。
もっとガーディアンの使い勝手を学ばなければならない。
その先に光があると優助は信じる。
まだまだ弱いガーディアンですが、今章のキーとなります。
次回『誕生日』




