選別の儀式
翌日、優助が連れてこられた場所は、よくわからない。
道中を目隠しされていたからだ。
乗せられた車は同じようなコースを何度も回っているような気がした。
そのうち、部屋につき、目隠しが取られる。
「懐かしいな……」
明日香が呟く。
その部屋には、武器や装飾品が丁寧に並べられていた。
棚もあるが、その中にも装飾品が入っているのだろう。
後ろで、咳ばらいがした。
久々に会う哲三がいた。
「お前ら、先守分家に挨拶に行ってないんだってな」
「ああ、まあ……」
それを言われると、優助は弱い。
「ごめんなさい。私が躊躇っていたんです」
明日香が、頭を下げる。
「……まあ、自分の記憶がない家族と再開するのは複雑なものがあるだろうな」
哲三は言うと、部屋の奥へと入って行った。その後に、若い女性が続く。
「ここで、お前の"キー"を見つける。これら全て適合者を待っている"キー"じゃ。適合者と"キー"が合わされば、その者は召喚術師となる」
「つまり、"キー"を肌身離さず持っていないと駄目ってことか?」
「そうなる」
哲三は重々しく頷いた。
「寝ぼけてなくしたら大惨事だ」
「部屋の清掃はこまめにしておくんだな。さ、始めてくれるか」
哲三の指示に従って、女性は頷いた。その途端、彼女から青い光が放たれたような気がした。
「適応する"キー"は三つ」
女性がそう言うと、三つのアクセサリーが優助の周囲に飛んでくる。
「一つは弓。遠距離攻撃に特化している。固有スキルもある」
その言葉とともに、金色の指輪が輝く。
「一つは槍、攻防共に優れている。体術を最大限活かせる召喚術でもある」
その言葉とともに、十字架の飾りがついたネックレスが輝く。
「一つは磁力。習得にとても時間がかかる。けれども、強力な武器となる」
その言葉と共に、ブレスレットが輝いた。
「どれを選ぶも自由。どの召喚術も極めれば驚異的な力を持つ」
優助は腕を組んで考え込む。
「磁力なんてそんな力になるのか?」
哲三が、苦笑して言葉を紡いだ。
「お前、足を上げようとしてみろ」
足を上げようとする。上がらない。まるで足の裏が床にくっついているかのように。
「これが磁力の力だ。使いこなすには年単位でかかるが、極めればまず被弾はない」
足が自由になる。哲三が術を解いたのだろう。
「磁力は正直魅力的だ。けど、何年も見習いではいられない」
優助は、十字架の飾りがついたネックレスを手に取っていた。
「俺は、自分の体術も活かせる槍の召喚術を選ぶ」
その時、手にしびれるような感触がした。ネックレスに力を吸い取られている実感があった。
これが召喚術。
新たな力。
気がつくと、優助の眼前には槍を持った和風の鎧を着た何かが立っていた。兜の部分には角があり、例えるなら鬼だ。
「シャバに出るのは久々だ……」
そう、物憂げに鬼は言う。
その視線が、優助に向いた。
「あんたが今回の俺の相棒か?」
「ああ。攻防一体の槍の召喚獣と聞いて期待している。俺に、皆を守る力をくれ」
「勝てる戦いと勝てない戦いがある。見極めることだ。俺もまた主人を失って保管庫で眠るのは嫌なのでな」
そう言うと、召喚獣は消えた。
「お前、どう呼べばいいんだよ!」
「自分で決めろ」
声だけが聞こえてきた。
「気難しい召喚獣を引いたようですね」
若い女性が苦笑混じりに言う。
「先守の血と霊脈の加護がある。お前は第三形態になるのはそう遠い未来ではないだろう。槍の召喚獣と、スキル無効化の光。存分に使い分けて戦うがいい」
哲三はそう言うと部屋を去っていった。
湧き上がるような喜びがあった。
ついに、自分も攻撃手段を得たのだと。
帰り道、優助達はまた目隠しをされて、車に運ばれていた。
「意外だったな」
明日香が言う。
「と言うと?」
「優助は敵すらも信じちゃう甘ちゃんだった。だから、磁力の力を選ぶものだと思っていた。それが、人を傷つける力を選んでいる」
「……状況が状況だ。人は変わるさ」
「そうだね。私達は変わっていく」
沈黙が漂った。どこか居心地の悪い沈黙だった。
だから、優助は思いついたことを口にした。
「ガーディアンにしようと思うんだ」
「ガーディアン?」
「召喚獣の名前。あくまでも、守るためのものなのだと」
「そっか……」
明日香は黙り込んで、しばらく考え込んでいたようだった。
「私達は力をつけなければならない。ネームレスは今も、暗躍しているのだから」
そう。ネームレスの捕縛はまだ成功には至っていない。
戦いが、一寸先の闇に隠れているのだ。
ガーディアンの槍がネームレスを貫く光景を想像して、優助は少し震えた。
+++
その後の休暇は、トラブルなく過ぎた。
冬音と紅葉スポットへ言ったり、秋悟の世話をしたり。
親になるとは大変なことなのだと思い知らされた。
春香は自分達をどんな風に育てたのだろう。そんなことが気になった。
「優助は本当に泣かない子だったなあ……」
春香は、振り返るように言う。
「だから心配だったんだよね。けど体は順調にすくすく育っていくし」
「冬音は?」
「夜泣きが酷くて酷くて……と言ってもお祖母ちゃんの手伝いもあったんだけどね」
「そっかあ」
「皆、不安な時期を乗り越えて大人になるんだよ。クソガキになるかも不良になるかもわからないけれど。赤ちゃんの時は裸一貫でなにも持たずに生まれてくるのさ」
「そうだな。俺は秋悟が心配だけど、あっという間に手がかからなくなるんだろうな」
「良い子に育てばね」
春香は、苦笑混じりに言う。
「良い子に育ちます。秋悟は、私達の子なんだもの」
そう言って、冬音が胸を張る。
「あんたら何歳で子供作ったか忘れてるみたいね」
春香が低い声で言うので、優助も冬音も言葉を失った。
「まあ」
春香が、空気を変えようとするかのように言葉を続ける。
「母体も健康。子供も健康。これ以上ない幸せじゃない。そうね、幼稚園に通う頃になれば楽になるわ。キャラ弁の作り方覚えとくのよ」
「キャラ弁かぁ……」
冬音が、難しい表情になる。
それはそうだ。調理は今まで里美に任せきりだったのだから。
「何事も勉強よ」
そう言って、春香は冬音の頭を撫でた。
+++
一週間は、飛び去るように去った。
秋悟の世話に忙殺されたような一週間だった。
けれども、そこには確かに家族の絆があった。
「あまりデートもできなくて、悪かったな」
帰り際、冬音に言う。
冬音は、優助を抱きしめた。
「一杯ハグしてもらった。隣で寝てくれた。それだけで私は満足」
「うん」
無理をしているな、と優助は思う。
本当は遊びたいざかりだろうに。
「優助と、秋悟と、家族になった。私はこの一週間を忘れないよ」
「ああ。俺も忘れない。秋悟のこと、頼んだぞ」
冬音は、目一杯頷く。
「母さんに負けるなよ」
冬音は、苦笑した。
「苦労しそう」
「頑張れ」
そうしてしばらく抱き合って、二人は別れた。
タクシーに乗ると、振り返らなかった。
どんどん遠くになっていく冬音を見るのが辛かったからだ。
「帰ったら召喚術の使い勝手を確かめるぞ」
「その、急に仕事スイッチはいるのお祖父ちゃんみたいで嫌いだな」
「仕事といえば、もう一つあった」
「なんだ?」
「分家への挨拶だ」
明日香は、黙り込む。
「そろそろ限界だろう。先延ばしにするのも」
「そうだね、挨拶か……未来、大きくなってるかなあ。なってるんだろうな」
そう言って、明日香は頬杖をついて窓の外を見た。
「本当に、この町に住んでいたんだね」
窓の外は、稲穂の波で金色に輝いていた。
「遠い昔のことのように思えるな」
「流転の人生だ」
「確かに、お前にとってはそうだったな」
優助は、明日香の手を握った。
「けど、今は俺がついてるさ」
明日香は唖然とした表情をしたが、すぐにその手を握り返す。
「頼りにしてるよ、相棒。けど……」
明日香は苦笑した。
「今は家族を一番に考えてあげなね」
「痛いところを突かれたな」
そう言って、優助も苦笑した。
召喚術の使い心地のチェックと分家への挨拶。
まずはこの二つが、これからの二人の仕事だった。
次回『初陣』




