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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守明日香の暴走編

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59/99

一週間の休暇

「今回も頭痛が酷かったなあ……」


 優助はよろけながらも飛行機から出る。その横に明日香が付き添い、前を秋奈が行く。


「多少は慣れておきなさいよ。当主になる身なんだから」


「当主になると飛行機に乗る回数増えるの?」


「前回の高校襲撃事件の援護、分家に礼を言いに行ったのは貴方のお祖父ちゃんよ」


「世話かけてるなあ……」


「そう思うなら早々に分家に挨拶に行くのね。挨拶も済んでないって知って、私は吃驚したわ」


「ごめんなさい、私が躊躇ってて……」


 明日香が優助のフォローに入る。


「感傷なんて捨ててしまいなさい」


 秋奈は、淡々と言う。


「戦士に一番不要なものだわ」


「けど、俺達は戦士である前に人だ」


 優助は、真剣な表情で秋奈を見る。

 秋奈は振り返らなかったが、不意に微笑んだのが見えるようだった。


「そうね。私も人のことを言えた義理ではないものね」


 そう言って、秋奈は笑った。

 わけがわからず、優助と明日香は顔を見合わせた。

 秋奈の車に乗って、懐かしい道が見えてくる。

 稲穂の群れ。何度も通った通学路。


「ここに住んでいたんだな……」


 優助は、実感の篭った声で言う。


「そうだよ。ここで何でも屋をしてた」


「遠い昔のことみたいだ。昔の俺は、ちょっと馬鹿だったみたいだな」


「今だって馬鹿のままさ。困った人がいれば飛んでいく。この前だって文化祭の看板作り手伝ってたじゃないか」


「相変わらずみたいね」


 運転席の秋奈が呆れたように言う。


「寝不足でドジ踏んで死んだら七代先ぐらいまでは笑いものよ」


「気をつけます」


 優助は、小さくなるしかない。

 そのうち、見慣れた住宅街が見えてきた。

 そうだ。もうすぐだ。

 住宅街の中にある一際大きな家。

 先守本家。

 門の前では、冬音と智子と護衛らしき男が立っていた。


 車が停まると、ドアを開けて、荷物も放置して冬音に駆け寄る。そして、思い切り抱きしめた。


「ひゃあっ」


 突然抱き上げられて、冬音が突拍子もない声を上げる。


「会いたかった……」


 冬音の匂いを嗅ぐ。懐かしい匂いがした。


「私も会いたかったよ、優助」


 冬音は微笑んで、優助を抱きしめ返す。


「おかえり、優助、明日香」


「おまけで挨拶しなくてもいいよ」


 明日香は二人分の荷物を取り出しながら、ぼやくように言う。


「本音よ。優助を守ってくれて、いつもありがとう」


 明日香が目を丸くする。


「……貫禄、ついたね」


「そうかな? 自覚はないんだけれど」


「中に入ろう。外は凍える」


 護衛らしき男が言う。


「そうね、弓。付き合わせて悪かったわ」


 門をくぐる。冬音が、振り向いた。


「お帰りなさい、優助」


 そう言って微笑んだ冬音は、写真に撮って後世に残したいと思うほど可愛かった。

 早速秋悟との初対面となった。

 赤子用のベッドで寝息を立てている。


「もう寝返りもできるんだよ」


 冬音が誇らしげに言う。


「ただ、中々寝付いてくれない時があって、睡眠不足気味かなあ……」


「お前が面倒見てるのか?」


「ほとんどは、お母さんと智子のお母さん。私は、起きはするんだけど仕事があるだろうって追い出されてる」


「なるほどな。けど、十分だよ」


 優助は、冬音の肩を抱いた。


「俺達の子供を産んでくれた。それだけで嬉しいよ」


「うん、私も幸せなんだ。いつか、家族三人で暮らせる日がくるといいね」


「そうだな……」


 その為には、ネームレスをどうにかしなくてはならない。

 彼女は今も、暗躍しているのだろうか。


「どうしたの? 優助」


 冬音が不安そうな声になる。


「怖い顔してる」


「いや。敵をどう対処すれば帰れるかなって考えてた。俺は狙われている身だからな」


「どうして優助を狙うんだろうね……」


「わからない。話した感じ、悪い奴ではなかった。だから、なおさら戸惑う」


「私もね、操られた身としては変な感想だけど、純粋な人だって感じたんだよ。悪い人には、思えなかった」


「けど、奴はその力を駆使して俺達に様々な手段で挑んできた……」


「そうだね」


 雰囲気の変化を敏感に察しとったのか、秋悟が泣き始めた。

 とたんに、部屋に大音量の声が響き渡る。


「どうしたんだろう。おむつかなー、ご飯かなー」


 そう言って、冬音は秋悟の服を脱がせていく。

 その時、部屋の扉が音を立てて開いた。

 春香と、智子の母である里美が血走った目でそこには立っていた。


「冬音、貴方は優助と部屋に行きなさい。秋悟は私達が見るから」


「休日ぐらい、私に……」


「貴方達は会える機会が稀だわ。慣れている人間に任せておきなさい」


 そう言って、春香は二人を部屋から追い出してしまった。


「ね、この調子なの」


 そう言って、冬音は苦笑する。


「私、母親の資格あるのかなあ……」


「子供が生まれても、仕事のために専門家に預ける人はいるよ」


「私もまだ子供なんだなあって、最近思うよ。親に守られていなかったら、出産なんか考えられなかった」


「俺は土方仕事でも良かったんだけどな」


「ネームレスから守ってもらえなくなるじゃない?」


「うーん、反論の言葉が思いつかないのが悔しい」


 結局、まだまだ優助達は子供だということなのだろう。

 夜、二人は冬音の部屋で寝た。

 部屋中に冬音の匂いが漂っている。それが懐かしい。

 シングルベッドに、二人で寝転がる。

 冬音が顔を覗き込んできたので、その額にキスをした。

 その時、秋悟の泣き声が聞こえてきた。

 冬音が、一瞬強張った表情になる。そして、優助を抱きしめた。

 冬音の気持ちが、言葉を介さずとも伝わった気がした。


 冬音の手を取り、歩きだす。


「どうしたの、優助?」


「自然な形に戻すんだ」


 春香と里美と鉢合わせした。


「どうしたの、優助、冬音。二人は時間に限りがあるんだから、積もる話もあるでしょう」


「母さん。秋悟の世話、俺達に任せてくれるかな」


「あのね、育児って大変なのよ」


「けど、秋悟は俺達の子だ」


 春香が、口を噤む。


「フォローしてくれるとありがたい。メインは、俺達がやる」


「……貴方達が思ってるより、大変よ?」


 春香は、念を押すように言う。


「覚悟はできてる」


「そっか。じゃあ、はい」


 そう言って、春香は手に持っている荷物の一つを優助に手渡した。

 振ると音がなるおもちゃだ。


 そして、四人は秋悟の寝ている部屋に入っていった。


「トイレかなー、お腹すいたかなー」


 冬音はそう言いながら、秋悟の服を脱がせていく。そして、おしめを開いた。

 むせ返るような匂いが溢れかえった。


「子供なのに、凄い……」


 優助は、思わず呟く。


「ほら、お尻拭いて、変えのおむつ用意して。テキパキテキパキ」


 おっとりとした春香がいつになく生き生きと指揮をする。

 優助は秋悟を濡れティッシュで拭き、冬音が変えのおむつに履き替えさせる。そして、服を戻した。

 それでも、秋悟はまだ泣き止まなかった。


「こいつは大物になるぞー……」


 優助は思わず呆れまじりの口調でそう言う。

 冬音が秋悟を抱いて、歌い始めた。

 透き通るような声が、周囲に響き渡る。

 テンポに合わせて、秋悟は左右に振られる。

 そのうち、秋悟が泣き止み始めた。


「人恋しかったのかな」


「そうかもしれないね」


「女の人に抱かれると泣き止むことが多いんだよ」


 春香が、平然とした口調でそう言う。


「将来有望だこと……」


 苦笑混じりに、優助は秋悟の手を握る。すると、僅かにだが、握り返す感触があった。

 なんて愛おしいんだろう。

 その日は、何度も秋悟に叩き起こされた。


 一緒にアニメを見たり、冬音が本を朗読したり、ミルクを飲ませたり、色々と世話をした。

 苦労を苦労と思わなかった。

 三人一緒にいられるということが、幸せだった。


「知育玩具とか買っても良いんじゃないかな?」


「ちょっと早くない?」


「早いなんてことあるもんか」


「すっかり父親だね」


 不意に、二人以外の声がして、優助達は振り返った。眠たげな表情をした明日香がいた。


「すまんな、起こしたか」


「寝入ろうとする頃に泣くんだ、その子」


「明日香も抱くか? 可愛いぞ」


 優助がそう言うと、冬音が明日香に秋悟を向ける。


「……優助がそう言うなら」


 冬音から細かい指導を受けて、明日香は秋悟を抱いた。

 明日香は左右に秋悟を振る。

 秋悟は指を咥えながら、されるがままになっていた。


「こいつはモテモテだ。将来は女たらしになるぞー。明日香小母さんが保証してあげよう」


「変な保証をするな」


 優助が、明日香の頭を叩く。

 なにがおかしいのか、秋悟は笑った。


「貴方達の漫才って赤ちゃんにも効くのね」


 ほとほと呆れた、とばかりに冬音が言う。


「そっか。一人が二人になって、家族になって、三人になって四人になって……人間って、凄いなあ」


 明日香は、感心したとばかりに言う。


「私も思う。人間って凄いんだなって」


 冬音は、貫禄漂う微笑みを顔に浮かべていた。


「これが、血の繋がり……」


 そう言って、明日香は呟く。

 そして、眩しいものでも見るかのように秋悟を見ると、無言で冬音に押し返した。


「私は寝るよ。今度は王子様を泣かさないでよね」


「善処する」


 しかし、そう言った途端に秋悟がぐずり始めた。

 優助も、冬音も、焦った様子で秋悟に声をかける。


「どうした、秋悟。お腹すいたか?」


「おしめはさっき変えたから違うよねえ」


 泣き声がどんどん大きくなっていく。


「もしかして……」


 そう言って、春香は秋悟を抱き上げて、明日香に抱かせた。

 とたんに、秋悟は泣き止んだ。


「明日香ちゃんに懐いてるみたいね」


「……そういう女の子に愛想振りまくところ、父親似ね」


 冬音が苦笑顔で言ったので、優助は小さくなるしかない。


「優助、貴方はそろそろ寝なさい」


 春香が言う。


「俺はまだ起きていられるよ」


「明日はお祖父様が選別の儀式をされるわ」


「選別の儀式……?」


 春香は、少し物憂げな表情で、優助を見た。


「貴方も、召喚術師になる日が来たのよ」


 優助は呆気に取られた。

 しかし、次の瞬間に沸いてきたのは、圧倒的な多幸感だった。


次回『選別の儀式』

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