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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守明日香の暴走編

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明日香の過去

 広い庭で二人の少女が遊んでいる。

 一人の少女は木の枝の上に潜み、もう一人の少女は探し歩いている。

 前者はまだ幼く、後者は小学校高学年といったところだろうか。

 年長の少女が、淡々と歩いて、木の枝に隠れていた少女を見つけ出した。

 その表情が、緩まる。


「未来、見つけた」


「ずるい!」


 思いもしない言葉に、明日香は戸惑う。


「なにがさ」


「明日香お姉ちゃんはどうして私の居場所がすぐにわかるの?」


「それは、お姉ちゃんは未来が考えていることなんて手に取るようにわかるからよ」


「敵わないなあ」


 そう言って、未来は木から飛び降りた。華麗な着地だった。


「それじゃあ、次は私が鬼ね。明日香お姉ちゃんは見つけるのが大変だからなあ」


「そうかな?」


「屋根の上に登ってた時は唖然としたよ……」


「じゃあ、今日はもっと期待に応える隠れ場所を見つけるとしよう」


「勘弁してよ、お姉ちゃん!」


 明日香は笑う。未来もつられて笑い出す。

 二人の笑い声が、庭園に響き渡った。


 そこで、夢から覚めた。

 今見たのは、過去の夢。

 まだ、先守本家に拾われる前の夢。

 誰も覚えていない、明日香だけの記憶。


「顔色、悪いぜ」


 優助が、そう言って、冷蔵庫から小さなペットボトルを投げてきた。

 ありがたく飲むことにする。


「夢を見たんだ」


「夢?」


「妹の夢。懐いて、可愛かったな」


「分家に挨拶に行けば会えるぞ」


「それはまだ……覚悟ができていない」


「とは言うがな。前回助けてもらってから一年近く経ってるぞ。俺の子供も生まれたし季節ももう秋だ」


「そうだね。まったく、その通りだ」


 明日香は立ち上がり、ペットボトルに口をつける。

 そして、ペットボトルの角度を傾けた。

 冷たい液体が体内に入り込み、体を冷やしていく。

 そして、吐息とともにペットボトル角度を元に戻した。


「覚悟を決めなきゃいけないのかもね、私も」


「……まあ、行きたくない気持ちはわかるよ。お前のこと、忘れられてるんだもんな」


「興味はあるよ。けど関わりたくないっていうのが本音さ」


 そう言って、明日香はベッドに座った。

 外はもう暗くなっているだろう。

 最近、めっきり日が落ちるのが早くなった。

 夏の暑さは残っているが、徐々に冬に近づいているということなのだろう。


「私って分家にとってなんなんだろうね。本家にとってもなんなんだろう」


「お前は本家の人間だよ。本家にはお前の居場所がある。俺が保証する」


「うん……」


 それも、優助の護衛という立場があってこそだ。

 それを失った時、明日香にはなにもなくなる。自分という存在を定義してくれる指針がなくなる。

 自分は何者なのだろう。明日香は、おぼろげにそう思う。


「まあ、挨拶に行く気になったら教えてくれ。避けて通れんでな」


「ああ、うん、わかったよ」


 覚悟を決めなくてはいけない。自分は知っているけれど、自分を知らない地。

 また、あの場所へ行かなくてはならない。

 そして、母と再会しなければならない。

 明日香は、自身の感情の暴走が怖かった。怖かったから、理由をつけて逃げ回っていた。

 結局、明日香の中で分家のことは整理されていないのだ。


「それにしてもお前、父も子も兄も妹もいないって言ってなかったっけ?」


「いないようなもんだろ。父は霊脈だし、妹は私のこと忘れてるんだぜ」


「……まあそう思う気持ちはわかるがな」


 優助は苦笑混じりに言った。

 父親が霊脈というのは優助も一緒だ。だから、わかる部分もあるのだろう。



+++



 優助と月夜が体育館で向かい合う。月夜は大剣を手にして、優助は手に光を灯して。

 月夜が動いた。直線状に突進したのだ。

 そして、大剣を振り上げ、下ろす。

 それを間一髪で避けて、優助は月夜の腹部に拳を入れた。

 次は横薙ぎの攻撃が来る。

 優助は大剣に穴を開けることで簡易的な取っ手を作り、それに捕まった。

 優助ごと、大剣は振り切られる。

 優助は飛んで、月夜の後頭部に蹴りを放った。


 月夜がたたらを踏んで前へ数歩進むと、振り返った。

 そのまま、二人の激しい攻防が続いた。

 速度が違う。月夜の攻撃は何度も優助を追い詰めた。しかし、勝敗を決める一撃を放つには至らない。最小限の動きで、辛うじて優助は回避と反撃をこなしている。


「大したもんだ」


 真昼の呆れたような声が体育館に響き渡る。

 月夜は、距離を置いて剣を振りかぶった。


「花びらよ、舞い散れ! 桜華」


 色とりどりの光を吸い上げた大剣が振り下ろされる。


「斬!」


 優助は光の盾を展開させる。その盾に触れる直前、大剣から放たれた光は多数の花びらとなり爆発を起こした。

 優助は爆風に押され、後退する。

 その横に、いつの間にか月夜が肉薄していた。

 大剣が振り上げられ、下ろされる。優助は光を放った。体育館全てを飲み込むような光を。

 大剣が消える。

 優助の拳が、月夜の頬に突き刺さった。

 月夜は尻もちをついて、倒れる。


「まさかこの一年で、第三形態に対応できるようになるとはね」


「逃げの一手です」


 優助は苦笑して、月夜に手を差し伸べた。

 月夜は頷いて、手を取って立ち上がる。


「実際いないわよ。第二形態でもないのに第三形態に対応できる人間なんて、そうそうは。光でも、無効化の光と回復の光を使い分けられるようになったしね」


「俺の師匠は俺より強かったから、多分慣れればいけると思います」


「化け物揃いね……」


 月夜は、呆れたように言う。


「それじゃ、優助。私とやろうか」


 そう言って、明日香が掌に拳をぶつけて前に出る。その頭部には、犬の耳が生えていた。


「よしとくよ。お前とは戦い飽きた」


「なんだよー、そっけないなー。ちょっと強くなったからって格上気分かい?」


「そんなつもりはないよ」


 優助は苦笑するしかない。

 一年に近い時間が流れた。

 優助は、この四人のメンツの中で、トップクラスの人材になりつつあった。



+++



「一週間の休暇?」


 シャワー上がりの月夜の言葉に、優助は戸惑っていた。


「そうよ。一週間の休暇、君にあげる」


「お言葉は嬉しいのですが、なにかありましたっけ」


「子供できたろ」


 月夜はからかうように言う。


「面倒見てきなよ。顔を覚えてもらわないと思春期に大変だぞう」


「しかし、そんな私用で……」


「優助、冬音だって会いたがってるよ」


 たしなめるように明日香が言う。

 それを言われると、優助は弱い。


「じゃあ、ちょっと早めの冬休みを貰おうとしますかね」


「代償と言うわけではないけれど、年末年始は仕事だがね」


「心得ています」


「ハメは外しすぎないようにね」


「なんか含みがある物言いに聞こえます」


 優助は不満顔になる。


「言葉のままの意味さ。そもそも、ハメを外さなければ君は学生で父親になんかならなかった」


「それもそうですが……子供は可愛いですよ」


「写メ飽きるほど見てるもんな。知ってるよ。まあ実物見てこい。帰りたくないって駄々こねたら明日香に引きずってでも帰らせるから」


「了解です」


「護衛には、秋奈さんがまた来てくれるらしいから。土産でも見繕ってな」


「ってことは、また飛行機か……」


 優助は渋い顔になる。


「少しの苦労は我慢しよう。ねえ、お父さん」


 そう言って、明日香がからかうので、優助はますます苦い顔になった。

 なんにせよ、子供の顔が見れる。それだけで、優助は未来が明るくなった気がした。

今週のお品書き


明日香の過去

一週間の休暇

選別の儀式

初陣

誕生日

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