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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守冬音の涙編

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召喚術師も優しい夢を見る(完)

 八神月夜は奔放なたちではない。軽口は叩くが、身持ちは堅いほうだ。

 そんな月夜が、恋をした。

 手段は問わなかった。色気も使った。強引にデートにも誘った。

 けれども、相手はなびかなかった。


 教室で、月夜は吹奏楽部の演奏や、運動部の掛け声を一人で聞く。

 自分の守っているものを実感できる、有意義な時間だ。


(悪い恋ではなかった)


 本気で、そう思う。


(ただ、相手に先約がいただけで)


 時間は不可逆だ。そればかりはどうにもならない。

 月夜は苦笑して、窓の外を眺める。


 静香への尋問もそろそろ済む頃だ。洗脳されていたという事情を汲み取って、詠月の戦士として活躍してくれることだろう。

 日常が戻るのは、もう少し先だ。


「フラレちゃったなあ……」


 そう呟く月夜の手には、映画のチケットが二枚。


「パン買ってきたぞー」


 真昼が入ってくる。


「よう。映画のチケット余ってるんだけどさ。買わない?」


 月夜は笑顔で、そう尋ねた。

 悪い恋ではなかった。

 だから、月夜は今日も微笑めている。



+++



「お母さん、息子さんです」


 看護師が、そう言って赤子を運んできた。

 それを見て、ベッドに横たわる冬音は目を潤ませる。

 自分の体の中に命ができて、それが頑張って外に出てきた。それだけで、この子の一生を祝福したいような気分だった。


「抱かれますか?」


「はい」


 頷いて、赤子を抱き上げる。

 手が小さい。顔は優助に似ている気がした。


「駄目よ、そんな抱き方じゃ」


 その言葉と共に、赤子の心地よい重みは奪われた。

 冬音の母の春香が、赤子を抱き上げていた。


「ほーらよしよし、お祖母ちゃんですよー」


「お母さん。抱き方が違うなら教えて、私が抱っこする」


「秋悟はお祖母ちゃんの方が良いって」


 そう言って、春香は愛おしそうに秋悟を眺める。


「もう、お母さん!」


 冬音は苛立たしい気分になってきた。

 これは、越権行為ではないだろうか。

 親と祖母の境界線ははっきりさせるべきだ。


「と言っても貴女は対策室に復帰するんだから。秋悟はばあばと一緒でちゅよねー」


「それはそうだけど、今ぐらい良いでしょう?」


「お母さん怒ってまちゅねえ」


「お母さん! 出てって!」


「ええー。良いじゃない。初孫よ。ちょっとぐらい浮かれたって……それに」


 春香の目が淀んだ。


「貴女達は祝福してもらえるだけありがたいと思うべきじゃないかしら」


 冬音は反論の言葉を失い、黙り込む。


「まあいいや。お母さん、そのまま抱いてて。優助に写真送るから」


「はいはい……本当に、優助と貴女の子なのねえ」


「そうよ。天地がひっくり返ってもそれはひっくり返らないわ」


 冬音はスマートフォンを取り出して、写真を撮った。

 そして、優助に送る。


 いつか、三人で暮らせますように。

 そう、冬音は祈った。

 そして、これからの毎日が賑やかになる予感がしていた。



+++



 木崎零は元召喚術師である。その中でも稀である第四形態、アカシックレコードにアクセスできるクラスの召喚術師だった。

 しかし、今はしがない医者であり一児の父だ。


「澪も将来結婚式挙げたいなあ」


 先守家の結婚式を見てからこの調子である。


(マセガキめ)


 心の中で思うに留める。

 しかし、いずれ澪はどこか他家に行くだろう。それを、零自身もわかっている。

 だから、今のかけがえのない時間を大事にしようと思った。


「けど心配。理恵さんは、あの男が娘を育てられるものかなって言ってた」


「理恵の言うことは気にしなくていいぞ。大半は戯言と思って聞き流しておけ」


「けど、理恵さんよく様子見に来てくれるよね。お母さんみたい」


「勘弁してくれよ……」


 零は、溜息を吐く。

 理恵とは犬猿の仲だった時期もあり、関係はある程度修復された今も喧嘩は絶えない。

 しかし、娘が育つにつれて、女性の知識は必要になってくるだろう。つまり、理恵の手を借りずにはいられないということだ。

 零は、再度溜息を吐いた。


「煙草吸ってくる」


 そう言って、立ち上がる。

 零は、祈る。今が長く続きますようにと。

 子育てが難しい時期に入ることを思うと憂鬱だ。しかし、越えていかねばならないのだろう。


「ねえねえ、その前にお父さんに見せたいものがあるの」


「なんだ?」


「この子なんだけど……」


 そう言って、澪は扉を開けた。

 奥から、懐かしい動物が歩み出てきた。

 澪の母の召喚獣だった、虎丸だ。


「自分は虎丸って言うんだって。私にだけ言葉がわかるの」


 澪の母の召喚術の"キー"だったチョーカーは、形見として澪に受け継がれている。

 つまり、澪も召喚術師として目覚めたということか。


「この子、飼っていい?」


 無垢な瞳に、零はしばらく沈黙して、現実逃避するために外に出た。


「煙草吸ってくるからちょっと待っててくれ」


「うん」


 零は祈る。可愛い無邪気な我が子であり続けてくれますようにと。

 けして血生臭い戦場で生きるようになりませんようにと。

 現実逃避の煙草を求めて、早足で零は歩いて行った。

次回、番外編『坂巻楓のブレイクタイム』となります。

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