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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守冬音の涙編

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結婚式2

 エンパイアラインのウェディングドレス姿の冬音を見て、優助は思わず呟いた。


「綺麗だ」


「お約束だね」


 冬音は苦笑する。


「けど、本当に綺麗なんだから仕方ない」


 冬音は照れくさげに俯いた。

 その肩に、優助は軽やかに自分の上着を羽織らせた。


「神父はどこじゃ?」


 哲三が不服そうに言う。


「新婦ならここにいるけど」


 優助が言う。


「聖職者じゃ、バカモン」


 哲三に重々しい声で言われて、優助は小さくなった。

 冬音との結婚という事態の手前、弱みがある。


「ねえ、誰か神父見た人いる?」


 冬音の声を受け、ざわめきが広がっていく。


「見た者はいない、か」


 燕は皮肉っぽく微笑んで言う。


「え、じゃあ式の進行は?」


 振袖姿の月夜が言う。新婦の姉妹と言われても信じてしまいそうな外見だった。


「困ったね」


 同じく、振袖姿の明日香が言う。


「予約時間いつまででしたっけえ……」


 ワンピース姿の智子が不安げに言う。

 不安が輪になって広がっていく。


「これは反詠月勢力の陰謀か……?」


 哲三が、重々しい声で言う。


「考えすぎだと思います、お父様」


 秋奈が淡々と否定する。


「司会者さん、神父さんは?」


 冬音が道に迷った子供のように不安げな声で聞く。

 司会者は、恐縮したように頭を下げた。


「目下探しております。しばしお待ち下さい」


「跡継ぎの大事な式じゃぞ。しっかりとやらんか!」


 哲三が癇癪を起こし始めた。


(年取ると短気になるのかなあ……)


 優助はそんなことを思う。

 そのまま、ざわめきと共に、時間が過ぎていった。

 どんどん、冬音の顔色が青くなっていく。

 その肩を、優助は強く抱きしめた。

 苛立たしげに動いたのは、燕だった。


「仕方ないわね、零、やりなさい!」


 そう言って、燕は備え付けてあった聖書を、一人の男に投げた。

 指名された男は、それをキャッチして唖然とした表情になる。


「俺ですか?」


「貴方なら男だし、式の経験もあるでしょう」


「簡易的な式しか挙げてないし、籍も入れてないんですけどね」


 零と呼ばれた男は、苦い顔になる。


「お父さん、お母さんと籍入れてないの?」


 零の傍にいる幼い少女が不思議そうな声で言う。


「お父さんはお母さんと籍入れなくても仲良かったんだよ」


「よく言う」


「燕さん。娘の前でやめてください」


「まあまあ、桜井の」


 哲三が、二人の間に割って入る。


「できるんじゃな?」


 哲三が、零の肩を掴んで好々爺然とした笑みを浮かべる。


「誓いの言葉を口にするぐらいなら……」


「なら、とっととやれ」


 哲三が凄んで見せる。


「……嫌とは言えなそうですね」


 飄々とした口調で言うと、零は聖書を持って移動した。

 優助と冬音は顔を見合わせた。

 一体、どうなるんだろう、この式。

 お互いの顔に、きっとそう書いてあったことだろう。


 一旦、新郎新婦は外に出る。

 そして、しばらく間があった。


「あんたの声届いてないんじゃない?」


 そんな燕の声が中で聞こえる。


「新郎、入場!」


 硬質な大きな声が、室内から飛んできて、優助は飛び上がって中に入った。

 ピアノの演奏が始まる。

 そして、バージンロードを神父、いや、直前で神父役を押し付けられた気の毒な男の前まで歩いていった。


「新婦、入場!」


 零の声が場内に響き渡る。

 春香に付き添われて、冬音が室内に入ってくる。

 そして、優助の隣に並んだ。


「昔は、三人で出かけたりしたわねえ……」


 春香が、しみじみとした口調で言う。


「その二人が、こんな大きくなって……」


 春香の瞳から、涙がこぼれ落ちる。

 そして、冬音と優助に抱きついておいおいと泣き始めた。

 秋奈と夏樹が慌てて飛んできて、春香を引っ掴んで席へと戻っていった。


「あー……」


 優助は頬をかいて、冬音と苦笑する。そして、互いの手を握った。


「では、誓いの言葉を」


 零が、淡々と進行する。


「あの、順番では、神父とスタッフ一同の祝福の歌です」


「俺に歌えと言うのか?」


 信じられない、とばかりに零は言う。

 司会者はしばらく不味いものを飲み込んだような表情でいたが、そのうち頷いた。


「任せます」


「おう」


「零ー、歌えー」


「零さんー、澪ちゃんも見てるんだからしっかりー」


「おう」


「……もしかして、緊張されてます?」


 優助は、思わず問う。

 不意に、気難しげな零の表情が和らいだ。


「いや。懐かしいなと思ってな。では、誓いの言葉だ」


 そう言って、零は聖書を開いた。そして、難しい表情になる。


「……英語だ」


 場に沈黙が漂う。

 この式は大丈夫なのだろうか。そんな空気が再び鎌首をもたげて周囲に伸し掛かる。


「まあ要訳でかまわんだろう。新郎、優助は、冬音を妻とし、愛し、苦しい時も病める時も共に過ごすと誓うか」


「誓います」


「新婦、冬音は、優助を夫とし、愛し、苦しい時も病める時も共に過ごすと誓うか」


「誓います」


 冬音は、迷わずそう宣言した。


「人生は長い。いずれは一人になる。その時も、相手を想い続けられると誓うか」


 その言葉は、テンプレートから外れた質問だった。

 優助と、冬音は、互いを見つめる。


(失われる日は、いつかやってくる。それでも、俺達は想い続けるだろう)


 二人は前を向いて、頷いた。


「誓います」


「それでは、指輪の交換を」


 スタッフが、指輪を運んできた。

 それを受け取り、冬音の左手の薬指にはめる。

 冬音も、優助の左手の薬指にはめる。

 何度も資料で見た指輪だった。

 それが、現実に目の前にある。

 二人の指に輝いている。


「お前と会えて良かった」


 優助は、思わず呟いていた。


「私も」


 冬音は、俯いて言う。


「では、誓いのキスを」


 二人の唇と唇が重なった。

 喝采が起こる。

 おめでとうの声が重なる。


「それでは、新郎と新婦のこれからの前途に幸あれ」


 二人は手を繋いで歩き始める。

 バージンロードを、歩いて行く。

 扉が開かれた。

 自分達はもう個人ではなく夫婦なのだ、という思いが強くあった。


 ライスシャワーが空を舞う。

 二度と引き返せないのだと思った。

 喝采の中、ブーケが飛んだ。


 その後、掃除用具のロッカーから神父が出てきたことから、陰謀論が巻き起こるのだが、それはまた後の話。



+++



 帰りは船だった。優助が飛行機に乗ることを嫌ったのだ。時間はかかるが、余韻を楽しむには良い旅だと月夜は飄々と微笑んだ。


「初夜がなくて良かったの?」


 月夜が真顔で訊くので、優助は飲んでいたダイエットコーラを吹き出しそうになった。


「それを済ませてるから子供がいるわけでしてね?」


「一日ぐらい休ませてあげたのに」


「式を挙げられるだけでも破格なんです。これ以上は贅沢が過ぎます」


「冬音ちゃんは待ってたかもしれないよ?」


「男を惑わせるの好きですよね、月夜さんって」


「好きな相手にしかしないよ」


 この調子だ。


「ちょっと月夜さん。もう新郎なんだからちょっかい出さない」


「はいはい。護衛さんの登場だ」


「いくら優助が童貞臭いからってからかわないであげてください」


「どつくぞお前」


 この調子である。

 穏やかな日常がこの先も続いていくのだろうな、と思う。

 そして、それを享受しようと思う。


「冬音を、一人にするわけにはいかないもんな……」


 思わず、言葉に出た。


「やっと落ち着いたか」


「時間がかかったねえ」


 二人は、呆れたように言ったのだった。



+++



「先守家御一行様は結婚式を終えて帰投中とのことよ」


 そう、楽しげに微笑んでスカーレットが言う。


「そうか。戻ってきちゃったか」


 躊躇うように、セレナは返す。


「どうしたの? 兵隊はもう準備したんでしょう?」


「うん、そこは抜かりない」


 セレナはテーブルの上で両手を組んで、その上に顎を乗せていた。


「なら、今日決行ということで」


「何度やっても気まずさは消えないわね……」


 飄々としているスカーレットと対象的に、セレナは暗鬱な様子を隠さない。

 それを見て、スカーレットは笑った。


「なにを言ってんの。あんたももう泥沼の中にいるのよ」


 そう。泥沼の中で生きている。その中に、他人を引きずり込むことで救いを得ようとしている。

 度し難い生き物だ。

 セレナは顎を両手から離し、溜息を吐いた。


「ええ、良いでしょう。決戦といこうじゃないの」


「よしきた」


 スカーレットは、楽しげに微笑んだ。

次回『急襲』

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