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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守冬音の涙編

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冬音の涙

 飛行機に乗って、優助は旅に出る。

 隣の席には、明日香が座っている。

 どうせ護衛だからとついてくるだろうと妥協したのだ。


「結構久々だね、冬音と会うの」


「そうでもない。数ヶ月しか経ってない」


「そういうの、久々って言うんだよ」


 明日香が、呆れたように言う。


「そうか。そうだな……」


 優助は、苦笑した。

 冬音と別れた頃、世界はまだ秋だった。けど、本州では既に雪が降っているという。冬だ。

 奇しくも日はクリスマスイブ。

 恋人達の日だ。


 飛行機からバスに乗り換えて、待ち合わせの駅に辿り着く。

 金色の時計の下で、しばし待った。


「酷い男がいるそうですよ」


 愛しい人の声がした。


「それはどんな男なんだ?」


「久々に会った彼女を別人と見間違えたそうです」


「それは酷いな。どうやって詫びればいいんだろう」


「恋人とのデートでチャラにしようとしているらしいです」


「調子のいい男だ」


「誰でしょうね」


「誰だろうな」


 振り向くと、冬音が立っていた。

 緊張に強張っていた表情が、次第に緩み、目に涙が溜まり始める。

 そして、冬音は優助に抱きついた。


「優助!」


「泣くなよ。化粧崩れるぞ」


「優助……本当にここにいるんだね」


「ああ。ここにいるぞ。スキルだって使える」


 そう言って、腕に光を灯してみせる。


「優助、優助、優助……」


 匂いを味わおうとするかのように、優助の胸に冬音は顔を埋める。

 優助も、久々に会う冬音の体を目一杯抱きしめていた。


「……怖かった」


 冬音が、ぽつりと呟く。


「ん?」


 優助は、冬音の背を撫でながら続きを促す。


「十六になったら、別の家の子供と無理やり結婚させられるんじゃないかって思って、怖かった。優助がいきなり消えて、怖かった。私は優助といたいのに」


 冬音の声は、最後は嗚咽だった。

 そして、冬音は泣き出した。

 何ヶ月も我慢して堪えてきた涙なのだろうと思った。

 その我慢の蓋が、優助に抱きしめられたことで壊れた。


「そうだな。傍で支えてやるという約束が違ったもんな」


 そう言って、優助は冬音の背を撫でる。

 冬音はしばらく泣き続けていた。

 会話は、できそうにない。


「お母さんにビシっと言ってやるよ。冬音を他所にやったりしたら許さないって。俺達はもう自分の意志を持った人間だ。親の操り人形じゃない」


 冬音は泣きながら頷く。

 涙は、しばらく枯れそうになかった。

 どれだけの我慢を彼女にさせてきたのだろう。

 どれだけ不安な夜を過ごさせてきたのだろう。

 傍にいる。たったそれだけのことができないのがもどかしい。

 できるならば、ずっと彼女の傍にいたかった。

 けれども、それは無理な話だ。


 だから、優助はただ抱きしめる。

 泣きじゃくる冬音を抱きしめる。

 弱音になっていた自分が馬鹿みたいだった。未練だけで繋がっていると感じていた自分が愚かだった。冬音はただひた向きに、優助と見る未来のことしか考えていなかったというのに。


「そうだ、これ、クリスマスプレゼント」


 そう言って、優助は小箱をポケットから取り出す。

 冬音は、泣きながらそれに視線を向けた。


「初任給で買ったんだ。お前にって」


「明日香が選んだんでしょ」


「ちげえ」


「じゃあ月夜さんって人が選んだんだわ」


「自分で頑張って選んだよ。店員さんのアドバイスは聞いたけど」


 冬音は震える手で、小箱を取って、蓋を開いた。

 金色に輝くネックレスが、中には入っていた。


「つける」


 冬音は、涙を拭いながら言う。


「わかったよ、お嬢さん。つけてあげよう」


「うん」


 冬音の背後に回って、ネックレスを付ける。

 冬音は、涙で赤くなった目を幸せそうに細めた。


「こんなに幸せでいいのかな」


「今日ぐらいは神様も許してくれるさ」


 二人は、再び抱きしめあった。

 その時のことだった。


 明日香が、二人の傍に跳躍してきた。


「なんか、妙だよ」


 智子と、優助の知らない青年も冬音の傍に寄ってくる。


「妙な気配がする」


 優助は冬音の体を放して、冬音は目を拭いながら、周囲に視線をやった。

 見ると、白目をむいた人々が、こちらを包囲して円を縮めつつある。


「ネームレスの再会祝いか」


 明日香が、ぼやくように言う。


「なら、派手にやりましょう!」


 その声に、優助は戸惑った。

 それは、この場にいるはずのない人間の声。

 優助を囲んでいた円が崩れる。

 大剣に吹き飛ばされて、数人が地面に倒れ込んだ。


「さて、なにやってんのかしらね、私は。恋敵に塩を送って」


 月夜が、大剣を杖のようにつきながら言う。


「お前らしくて嫌いじゃないぜ、そういう不器用なの」


 そう言う真昼の足元から、剣が何本も現れる。


「人の恋路を邪魔する奴は、犬に蹴られて死んじまえ」


 そう言った明日香の頭部には、犬の耳が生える。


「その剣、使いやすそうですね。真似させてもらいます」


 そう語る智子の手には、月夜のものと同じ大剣があった。

 智子は、大剣の重さに腕を引かれながら、感嘆したように言う。


「これは凄い。固有技付きの物質化系召喚術だ」


「お嬢、こちらへ。お二人は、手を繋いで」


 そう言ったのは、優助の知らぬ青年だ。

 優助と冬音は、手を繋いだ。

 その冬音の肩に、青年は手を置く。


 次の瞬間、二人は公園に移動していた。

 瞬間移動だ。


「護衛衆もすぐに呼んでくるので、お二人はしばらく大人しくしててください」


 そう言って、青年はその場から消えた。

 冬音は、ベンチに座る。


「大丈夫かなぁ……」


「あの面子なら大丈夫さ。それよりも、冬音」


「なに?」


「見ている人が、いない」


 冬音の目が、潤んだ。

 二人は、キスをした。恋しかったと語るように、舌と舌を貪りあって、キスをした。

 唇を放す刹那、冬音の切なさが優助の胸の中に紛れ込んできた。

 自分達はまた別れる。それは、避けようのない事実だ。

 ならば、今を目一杯楽しもう。そう思った。

 ベンチに座る二人の手は、繋がれていた。


 冬音は、もう泣いてはいなかった。



+++



 護衛衆と物味遊山の集団が瞬間移動でやってきた。


「助かりましたけどね。月夜さんと真昼さん。どういう了見で?」


「いや、邪魔をする気はなかったんだよ。な、月夜」


「そうね。優助がお熱を上げている相手を一目見たかった。興味本位よ」


 そう言って、月夜は何処か投げやりに肩を竦める。


「私と、似てる……」


 冬音は、驚いたように呟く。


「本当ね。生き写しって、こういうことを言うのね」


 月夜も、腕を組んで感心したように言う。

 誤解が解けて、優助としては一先ずは安心だ。


「じゃ、デートの続き楽しみなさいよ。私達は護衛として後をついてくから」


「ラブホ街には行けなくなっちゃったね」


 明日香が揶揄するように言う。

 冬音は真っ赤になって、恨めしげに明日香を見た。


「行こうか」


 冬音の手を取って歩き始める。

 それだけで、離れていた距離が縮まった気がした。

 すれ違っていた心が重なった気がした。

 ただ、傍にいるというだけで、まるで状況は変わってくるのだなと思った。


「これからも、定期的に会おうか」


「迷惑をかけちゃうよ」


「一人でいる時に襲われる方がよほど危険だ」


「それもそうだけどね……それにしても、ネームレスはどうやって私達のデート場所を探知したんだろう」


「確かに」


「裏切り者は案外身近にいるのかもしれない」


 鋭い冬音の考察に、優助は小さく震えた。

 そこからは、穏やかなクリスマスイブのデートだった。

 ウィンドウショッピングをし、揃いのアクセサリーを買い、少し背伸びした店で食事を摂る。

 久々に見る冬音の笑顔は、見ていて溶けてしまいそうなほどに眩かった。


 そして、夕方になった。


「私達はここらで帰るわ」


 月夜が、近づいて来てそう言った。


「仕事あるからねー。護衛なら明日香だけで十分だとは思うけれど」


「ありがとうございます、月夜さん。安心してデートができました」


「いいってことよ。明日からしゃきっと仕事に出てくるんだぞ」


「はい」


 優助は元気良く返事をする。

 ここ数ヶ月の鬱憤が晴らされて、清々しい気分だった。

 そして、月夜達は去って行った。


「本当に私とそっくりだったね」


 感心したように冬音は言う。


「そうだろ。だから、色々困ってな」


「困る?」


「そっくりさんがいたら、気まずいだろう」


「気にしなくていいのに。けど、私の写真とか持ってたらあの人は嫌なのかなあ」


「俺の待受け」


 そう言って、冬音にスマートフォンを起動して見せる。

 冬音の横顔が写っていた。

 冬音は顔を赤くして、黙り込んだ。


 そのまま、優助は電話をかけ始めた。

 通話先は、父だ。

 冬音は、沢山の不安を抱えながら待っていてくれた。だから、優助もそれに応えるような行動をとらなければならない。

 数コールの後に、父は電話に出た。


「もしもし、父さん?」


「ああ、なんだ」


 久々に聞く声だった。


「今、冬音と一緒にいる」


 相手は、黙り込む。


「冬音と俺の仲を引き裂こうと画策したら、許さない。その時は、俺と冬音は先守と縁を切る」


「子供特有の考えなしな発言だな」


 淡々とした口調で父は言う。


「俺達には、それだけの覚悟がある」


「お祖父ちゃんや母さんはどう考えているか知らないが、僕に引き裂く気は毛頭ないよ。誤解を生むような発言をしたのは僕だからね」


 予想外の言葉に、優助は肩透かしを食らったような気分になった。


「要件はそれだけかい?」


「ああ……うん」


「それじゃあ、切るね。また」


 そう言って、電話は本当に切られた。


「うちの親父って子供に興味あるのかたまにわかんないよな。俺の場合は特殊な例だから仕方がないかとも思っていたけど」


「お父さんは認めてくれるって?」


 冬音は目を輝かせる。


「だってさ」


 優助は苦笑して、冬音の肩を抱いた。


「この瞬間が永遠に続けばいいのに……」


 そう言って、冬音は優助の腕を抱きしめた。


 翌日の早朝、優助は明日香と並んで新幹線に乗る冬音を見送っていた。

 冬音は背伸びして、優助にキスをする。


「楽しかった……あと、ネックレス、大事にする」


「体、大事にしろよな」


「体と言えば言いづらかったことがあるんだけど……」


 冬音はそう言って、照れくさげに俯いた。


「こないの」


「なにがだ?」


「あれが」


「あれってなんだ?」


「女の子の日が」


 そこに至って、ようやく優助は話の主旨を理解した。

 硬直する。


「え?」


「優助は、賛成してくれるよね?」


 冬音は、真剣な目で優助を見る。


「いや、反対なんてするわけがないが、俺達はまだ生計もたてられるかどうかって地点で」


「賛成してくれるよね?」


 念を押すように冬音は言う。


「うん」


 優助は、魂が抜けたような気分で返事をした。

 冬音は微笑んで、新幹線に乗った。


「じゃあ、また」


 手を降って、中に入っていく。


「元気だしなよ、お父さん」


 明日香がからかい混じりに言う。


「お前って奴は憎たらしいことこの上ないなあ」


 優助はぼやくしかない。


「やだ、お父さん。僕が生まれるのに反対なの? 僕を殺さないで」


「しばくぞお前」


 新幹線が出ていく。

 冬音がまた離れていく。

 けれども、冬音の涙は止まったのだと、そう思った。


「やっぱり実感するよな」


「なにがさ」


「恋してるんだって」


「……そっか」


 明日香は苦笑して、優助の背を叩いた。

次回『パパになりました』

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