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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守冬音の涙編

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再会の予感

「架空世界における召喚術師のトーナメント?」


「そう!」


 冬音の胡散臭気な視線を受け止めつつ、智子は笑顔で答える。


「定期的に開催されていたらしいんだけど、今回はスキルユーザーも参加資格を得るんだって。もしかして、優助さんも……」


 冬音は、思わず智子の肩を掴んでいた。


「遠距離でも参加できるの?」


「夏樹さんに頼んで問い合わせてもらった。できるって」


 冬音は、思わず膝を折ってその場に座り込んだ。


「優助と……会える……」


 心が幸福感で一杯になる。

 今まで、自分がどれだけ飢えていたのか思い知らされる。

 クリスマスのイルミネーションを二人で見ることはできないだろう。

 けれども、会うことはできる。

 話すことができる。


「そろそろ仕事の時間だぜ」


 弓が、面白くなさ気に言う。


「わかってるわよ。着替えをしてくるから待ってて」


 そう冷たく言い放つと、冬音は脱衣所に入っていった。

 優助と会える。それが希望となって冬音の胸の中に灯った。



+++



「月夜さんにも言ってほしいんだけど、分家の話はあまりしないでほしいんだ」


 体育館の壇上に座り、明日香が放った言葉に、真昼は戸惑ったようだった。

 優助も、月夜も、寝入っている。

 夕焼けが体育館を照らし、バッシュの音、ボールが弾む音がけたたましくしていた。


「なんでだよ。お前の実家だろ」


「だからたちが悪い」


 明日香は苦笑顔になる。


「いつになく歯切れが悪いな」


「まあね。大っぴらにできる話じゃあない」


「極秘事項か?」


「先守家の中でもトップシークレットに入るだろうね」


 真昼は腕を組んで、真面目くさった表情で言った。


「なら、無理に話せとは言えんな」


「真面目な表情、似合わなーい」


「そうかな」


「そうだよ」


 明日香は、つい笑った。

 そして、自然に笑った自分に戸惑う。

 いつの間に、この男にこれだけ心を許してしまったのだろうか、と。


「私はね、霊脈と人間のあいの子なんだ」


「霊脈と……?」


「そう。霊脈の子と言える」


「なるほどな。だからお前のスキルはあんな化け物じみているわけか」


「理解が早くて助かる」


 なるほど、相手もプロだ。情報を出せばツーカーで通る。


「しかし、それは本家で一人しか作ってはいけない存在だった。それが露見して、私は本家に引き取られた。つまり、私はイレギュラー。本来は存在してはいけなかった人間」


「なるほど。護衛してるようで、護衛されているわけでもあるわけか」


「そうなるね。だから、私は人造人間なんだ。スキルのユニークさを考えてみれば、優助より存在意義は少ない」


「そういう言い方は好かんな」


 真昼は、淡々と言った。


「誰にだって存在意義はある。生きるのは自由だ。そこに上も下もない」


「……案外、優しいんだ」


「だってよ」


 真昼は、身を乗り出した。


「それを言ったら俺達なんて剣の召喚術師だぜ。何処にユニークさがあるよ。意表を突いた戦いでは圧倒的劣勢に置かれる。だから、こんなところで安全な仕事を任されている」


「これも大事な仕事だと思うけどなあ」


 明日香は苦笑する。


「生きるのは自由だ」


 真昼は、元の体勢に戻って、嘯くように言った。


「生きるのは自由、か」


 確かに、そうなのかもしれない。

 明日香は、両手を後方に置いて体重を預ける。


「意外といいこと言うね」


「俺はいいことしか言わんぞ」


 台無しだ、と明日香は苦笑する。


「まあ、実家に帰ると色々ややこしいんだ。反本家勢力の神輿にでも担がれたらと思うとゾッとしないね」


「けど、そんな可能性があるのならなんで先守家の家長はお前達をここにやった?」


「母は、記憶を消されている。自分が出産したという記憶すらない。だから、もう大丈夫だと思ったのかもね」


「……お前も複雑な人生歩んでんのな」


「優助には内緒だぞ。あいつ、気負うたちだから。んで、月夜さんには事情を話しておいて欲しい」


「わかった。俺も、優助が闇討ちされるのを望んでいるわけじゃない」


「助かる」


 そう言って、明日香は床に降りた。


「もう行くのかよ?」


「業務連絡終わり」


 からかい混じりに言う。


「もうちょっと話そうぜ。こう、話す機会少ないじゃん、俺達」


「あんたとは随分話してる気がするけどねー」


「まあ、そうだけどさ。もうちょっとぐらいいいじゃん。もっと知りたいよ、明日香のこと」


「そうさねえ」


 再び、体育館の壇上に尻を置く。


「睡眠不足になったらあんたのせいだ」


「その分フォローするさ」


(お祖父ちゃん。変な友達ができたよ)


 明日香は、笑顔で心の中で呟いた。



+++



 その日、学校をサボろうという月夜の提案に乗ったのは、なんとなくだったと思う。

 なんとなく、疲れていた。

 恋に、疲れていた。

 だから、癒やしが欲しかった。

 冬音と似ている月夜の笑顔が見たかった。


 お決まりの映画館。ポップコーンを奪い合いながら一作を見終える。

 そして、上機嫌で体育館に戻ってきた。


「あのシーン、綺麗だったね」


「どのシーン?」


「船上のダンスのシーン」


 そう言って、月夜は優助の腰に手を回す。

 上半身と上半身が密着し、胸の感触が伝わってくる。

 そして、月夜はステップを踏み始めた。優助も、それに合わせる。


「そうそう、こんな感じでさ。演奏の中で、二人は盛り上がるの」


「確かに、印象的なシーンでしたね」


「その次は、セックスシーンだったね」


「言わないでくださいよ」


 優助は苦い顔になる。


「そう顔をしかめない」


「まったく、デリカシーのない人だ」


「母親の腹に置いてきたんだ、そういうの」


 そう言って、豪胆に笑う。


「それに、育ちも悪かったからね、私達は」


「……そう言えば、家族の話を聞いたことはなかったですね。母親が立派な人だったとは聞きましたが」


「貰い子なんだよ、私達は」


 ステップを止め、月夜は淡々と言う。

 優助も、動きを止めた。


「元の家の環境が酷かったこともあって、才能を見出されてから詠月に拾われた。母って言ってるのは、義理の母だ」


 月夜の手が、優助の背を這う。そして、痛いほどに抱きしめた。


「時々、嫌になる。あの醜い両親の血を私が受け継いでいることを。両親に似ていく自分自身を」


 手の力が、緩む。


「真昼は、飄々として受け入れてしまっているみたいだけどね。ああはなれないわ、私は」


 優助は、月夜を抱きしめ返した。


「月夜さんは立派ですよ」


「おう」


「立派に詠月の仕事をこなしている。自立した人だ」


「だろ」


 返事で台無しだな、と優助は思う。


「よくできたと思ってるなら、ご褒美ちょうだいよ」


 そう言って、月夜は優助の後頭部に腕を回す。

 優助は、顔を引いて、戸惑うように返す。


「ご褒美?」


「キス」


 優助は、心音が高鳴るのを感じた。

 性欲の処理を最後にしたのはいつだったか。


「俺には、地元に待っている人がいます」


「バレねーバレねー」


 そう言って、月夜は笑う。


「私は二番目でいいよ。君は一番目を愛せばいい。私は、そんな君を愛する。何処にも傷つく人がいない。ウィンウィンウィンだ」


「駄目です……」


 月夜の体を、突き放す。

 月夜が、制服をはだけさせた。

 胸の谷間が、露わになる。


「いつまで我慢できるかな」


 そう、楽しげに言う。


「勘弁して下さいよ……」


 優助は項垂れる。

 その頬に、柔らかい感触がした。髪の、良い香りがした。

 頬にキスをされたのだと、遅れて気がついた。


「今日はこれで勘弁してあげる。シャワー浴びて寝よっか」


 そう言って、月夜は去っていった。

 優助は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 危うく、流されそうだった。


 その時、ポケットのスマートフォンが振動した。

 冬音からのメールだ。

 早速、開く。

 離れて時間が経ちますね。気になる女の子はできましたか? とある。

 冬音も遠距離恋愛に苛々しているのだな、と思わされる文面だった。

 お前以外に好きな相手はいないよ。

 そう、短く返した。

 すぐに、返事が来た。

 そっか。と書かれただけの短い文面だった。

 それでも、冬音が微笑んでいるのは想像できたので、優助は思わず苦笑した。


 居住空間に行くと、なにやら賑わっていた。


「ネット通信で参加可能なんだって」


「報酬は半年給料が増える」


「それは興味深いわね」


「なんの話です?」


 優助も、三人の輪に入ろうとする。


「召喚術師トーナメントの話よ」


 そう言って、明日香は力強く微笑んだ。

 月夜は、何処か心ここにあらずといった様子だった。



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