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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守冬音の涙編

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遠距離恋愛

 朝起きると、雪が降っていた。

 それをスマートフォンで撮って、優助に送信する。

 二時間ほど経って、外出する頃合いに返事が来た。

 優助の住んでいる地域ではまだ降っていないとのことだ。


 昼、短いメールをやり取りする。

 やり取りするメールは一通ずつ。そう、暗黙の了解が決まっていた。


 そして、仕事も終わり、夜になる。

 部屋で、冬音は高認の勉強を始める。

 時々、嗚咽を上げて泣きそうになる。

 接点が少なすぎる。

 感情を共有できる時間が、短すぎる。

 本当なら一緒に雪を眺められたのに、そんな些細な事すらできない。


 優助は仕事の最中だ。雑談メールを送るわけにはいかない。

 少し前ならば、部屋から少し移動しただけで優助がいたのに、今はいない。

 週に二回の電話。その楽しみも、今は失われている。

 自分達が縋っていたのはその電話なのだと思い知らされる。


 あまりにも寂しくて、スマートフォンに手を伸ばした。

 短く、メールを書く。

 優助の写真を送ってください。そう書いて、送信した。

 優助の写真さえあれば、辛い時期も乗り越えられる気がした。

 けど、この辛い時期はあとどれだけ続く?

 一年? 二年? あちらで優助が進学するとしたら、五年以上かかる計算になる。

 そんな膨大な時間を耐えきれるだろうか。


 冬音は、入院していた頃を思い出した。

 あの頃は、優助が待っていてくれると信じていた。

 けれども、今はどうだろう。

 自分は、弱くなった。

 子供の頃の一途さを失ってしまった。

 そんな思いを抱えて、冬音は机に突っ伏した。



+++



 冬音から写真が欲しいというメールが来たのは、十二月も半ばのことだった。

 優助は明日香に頼んでスマートフォンで写真を撮り、送った。

 冬音は顔文字を使って軽い調子で礼をする。

 大丈夫なのだろうか、と思う。


 生活時間帯がずれた遠距離恋愛は思ったより辛かった。

 傍にいれば簡単に済むことが、中々伝わらない。

 そのもどかしさが、メールのやり取りすら憂鬱にさせる。


 愛情があれば大丈夫だと思っていた。その愛情が、自分を苦しめる枷へと変わっていた。

 また、冬音とテーマパークに行きたい。

 そんな些細な願いすら、現実は聞き入れてはくれない。


 現実逃避をするかのように、月夜と過ごす時間が増えた。


「優雅な時間帯だ」


 日曜の昼、教室の机について、月夜は言う。


「吹奏楽部の合奏。運動部の掛け声。皆私達が守っているものだ」


「そうですね」


 優助は、表情を緩める。

 冬音はどんなことを思って仕事についているのだろう。そんなことが、気になった。


「優助、体育館空いた。修行するよ」


 明日香が声をかけにくる。


「わかった」


 頷いて、優助は体育館に向かった。

 面白がってか、月夜と真昼もついてきていた。

 人避けの呪符を貼って、体育館で明日香と対峙する。


「行くよ!」


 明日香が言って、手を掲げる。

 その頭上に、幾重もの炎の塊が浮かび上がった。


 優助は、両腕に光を浮かべる。

 それを、全身へと移動させていく。日に日にコントロールがスムーズになり、全身に光を纏うまでの時間も短くなっていた。

 火球が振り下ろされて、優助に直撃する前に消滅した。


「スキルキャンセラーかぁ。俺達の剣も消えるんだろうな」


 真昼が、淡々とした口調で言う。


「けど油断は大敵ね。銃で一発だと思うから」


 と言うのは月夜だ。


「貴方の能力は外へ漏らさないほうがいいと思う。知っている人は?」


「……ネームレス」


「なるほどね」


 月夜が、難しい表情になる。


「召喚術師やスキルユーザーにとって、自分の能力を知られるのは命取りだわ。対策を取られるからね。どんな能力にも得手不得手がある。そこを突かれると案外脆い」


「楓さんみたいに、知られてもどうしようもない存在ってのもいるけどな」


「本家がネームレスの捕縛をしてくれるのを祈るのね」


「……迂闊だったと思います」


 優助は、素直に反省した。


「それにしても貴方達、先守の分家には行かないの?」


 月夜が、不思議そうに問う。


「先守の、分家?」


「明日香ちゃんの生まれ故郷だと聞くけど」


 優助は、明日香を見る。

 明日香は気まずげに、そっぽを向いた。



+++



 校舎の窓から、少女は内部を見ていた。

 深夜だ。

 綺麗な女性が大剣を振るっている。そのたび、黒絹のような髪が揺れる。

 黒い影を、彼女は次から次へと斬り伏せていく。


「これが、貴女の知っている女性の正体」


 ネームレスが言う。

 少女は、小さく震えた。


「けど、貴女も彼女と一緒になれる力を持っている」


 少女は、ネームレスを見る。

 彼女は、妖しく微笑んでいた。

 その時、女性が何かに気がついたように窓に向かってきた。

 その時には、二人は既にその場を去っていた。

 召喚術師。スキルユーザー。未知の世界がある。

 その思いが、少女の胸を弾ませていた。



+++



 早朝、弓が先守家に訪ねに来ていた。冬音の出発を待つとのことだ。

 冬音は庭でスキルの訓練をする。

 それを、弓は無言で見守っていた。


「邪魔っけなんだけど……」


「護衛の仕事だ」


 弓は、淡々と言う。

 冬音は我慢して、しばらくスキルの訓練をしていたが、そのうち苛立って氷の霧を解いた。

 そして、弓の胸倉を掴む。


「どうして、優助じゃなくて貴方なのよ!」


 八つ当たりだ。自分でもわかる。


「どうして、貴方が傍にいるの? その役目は優助のものよ! 貴方のものじゃないわ!」


「と言われてもだな。俺も仕事だ。そして、俺の実力はお前も知っての通りだと思うが」


 弓は頬をかいて、気まずげに言う。


「そんなに辛い恋なら辞めちまえよ」


 弓は、淡々と言う。

 その頬を、思わず冬音は殴った。

 弓は動じない。


「男なら星の数ほどいるぜ」


 再び、殴る。

 弓は、やはり動じない。

 長年入院していた冬音の腕力では限界があるのだ。


「見ていられないんだ、辛そうなあんたを」


 弓は、淡々と言った。

 冬音は、拳を振り上げて、止める。


「やめとけよ」


 そう言って、弓は胡座をかいてその場に座った。

 冬音は、振り上げた拳の下ろしどころに困って、そっぽを向いた。

 そして、再びスキルの訓練を始める。


(優助……)


 氷の矢を、上空に飛ばす。優助にも見えますようにと。

 しかし、見えるはずがないのだ。

 二人は、遠く隔てられた場所にいる。


 距離という壁が、二人を隔てる。


「冬音ちゃあん、大ニュース!」


 智子が、駆けてくる。冬音は、氷の霧を解いた。


「なあに、智子。朝食の準備ができたとか?」


「そんなんじゃないよ」


 智子が、冬音の手を握る。


「優助さんと、会えるかもしれない」


 冬音は、呆気に取られて目を丸くした。

 幸せな気持ちで、心が一杯になった。

 それは、砂漠で喉が枯れた時に、オアシスを見つけたような気分だった。


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