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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守優助編

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39/99

延長戦

 それから一ヶ月。冬音は優助達の前から姿を消した。

 召喚術師結社詠月にて取調べを受けているそうだった。

 自然と学校の授業も欠席扱いとなり、このままでは進級が危ぶまれるような状況になった。

 冬音の誕生日も本人不在のままに過ぎ去り、優助と冬音は一歳差になった。


 それを気にしつつも、日常は過ぎていく。

 あの夜、哲三は明日香と智子を叱った。


「まずは智子。小さな変化に気が付かなかった。護衛としては失格だの。そして明日香……」


 哲三は、ほとほと疲れ果てたとばかりに明日香を見た。


「敵の本陣に二人きりで乗り込むとかなにを考えておるのかのうお前は。正直、正気を疑うぞ」


「流れで……」


「お前も、護衛としては失格じゃ」


 そう言って、哲三は深々と溜息を吐いた。

 明日香は血だらけの自分の服を見て、小さく苦笑した。


「祖父ちゃんだって勝手が過ぎる」


 優助は、思わず反論していた。

 哲三が怖い顔になる。


「今、お前の口から勝手という言葉が聞こえた気がするがの」


「ああ、言ったさ」


「どの口が言うか」


「俺達と変わらない歳の子達を護衛として育て上げるなんて。そんなの不公平だ。俺と冬音だけを特別扱いしているみたいだ」


「特別なんじゃよ、お前は……」


 哲三は、溜息混じりに言う。


「霊脈から生まれし者。選ばれし者」


「確かに、力があるのは実感したけどさあ」


「あの時、神社一帯を覆った光。あれはスキルユーザーじゃなければ発揮できない力じゃろう。霊脈から生まれ、スキルユーザーとしての恩恵を受けた。お前には、特別な人生が待っているのかもしれんの」


「特別な人生、ねえ」


 実感がわかない。

 ただ、十分特別な出来事には巻き込まれている気はするのだ。


「とは言ってもお前のことじゃ。なにを言っても聞くまい。やれやれ、これが跡継ぎか……」


 哲三はそう言ってぼやくと、優助達に背を向けた。


「なんにせよ、全員無事で良かった。祖父として、父として、言えることはそれだけじゃ」


 そう言って、哲三は去って行った。

 一ヶ月はあっという間だった。

 久々の平穏な日々。

 ただ、冬音というピースが欠けた違和感をなぞりながら、日常が過ぎていく。


 今日も授業が終わり、明日香が教室にやってきた。


「優助ー、帰るべー」


「護衛さんのお出ましだ」


「まだ根に持ってる」


 明日香は膨れる。


「お前はたった一人の相棒に隠し事をしていたんだ。それなりの代償を負わなければな」


「随分と振り回されてる気がするんだけどね」


「嫌か?」


「全然」


 そう言って、彼女は脳天気に笑う。

 その手をとって、握った。

 教室にどよめきが起こる。


「優助……皆、見てるよ」


 明日香が、困ったように言う。


「あの時は悪かった。危うく、お前を失うところだった」


「負けた私が悪いのさ。相手が格上とは思わないけど、相性が悪い相手だった。護衛失格って奴だあね」


「けど、無理を言ったのは俺だ」


 明日香の手を、強く握りしめる。


「やっぱりまだまだだな。修行が足りない」


「付き合うよ。強くなれ、優助。私は、君の隣を歩いてる」


「ああ、そうだな。二人で、強くなろう。そして、最強無欠の何でも屋になろう」


「大人になってまでやってる気はないんだよね?」


「そうさなあ……今も休業中だしな」


「それなら付き合うさ。また、優助の気が向いた時にでも」


 明日香は微笑む。

 記憶の中で、ほとんどのシーンで彼女は笑顔だ。

 自分もそうありたいと、優助は思う。


 自転車をこいで智子と三人で家に帰る。

 そろそろ、肌寒くなってきた。

 もうすぐ雪が降り、あちこちから冬の音色が聞こえるだろう。


 そんなことを考えていると、彼女は家の門の前で立っていた。

 一ヶ月ぶりに見る顔だった。

 冬音だ。


「冬音ちゃん!」


 智子が言って、自転車を放り出して駆けて行く。そして、冬音に抱きついた。

 冬音は苦笑して、智子の背に手を回す。


「ごめんね、ごめんね、私が気が付かなかったから」


「一人で登下校するなって約束を無視したのは私だわ。自業自得よ」


 自転車を降りて、彼女に近づく。


「冬音」


「優助……」


 沈黙が二人の間に漂った。

 兄と妹の関係。それに終止符を打つかどうか、二人は決めていない。まだ、未来は未確定のままだ。

 言わば現状は、延長戦の段階にあった。


「お帰り!」


 明日香が、元気良く言う。

 その言葉を聞いて、優助も、冬音も、気が抜けたように表情を緩めた。


「お帰り、冬音」


「ただいま、優助。勉強が遅れてるわ。教えてちょうだい」


「かまわないけど、珍しいな」


 冬音は、智子を放すと、小声で優助に耳打ちした。


「話したいのよ、二人で」


「わかった」


 優助は、息を呑んで頷いた。


「なんだよー、早速内緒話かぁ?」


 明日香が不満げに言う。


「まあ、そんなとこだ」


 優助は淡々と言ってのけた。



+++



 時計の針の音が、部屋の中に大きく響き渡っている。

 夜の暗闇の中で、優助はベッドに寝転がっていた。

 心音が高鳴っている。


(いや、いいのか? マジで?)


 自問自答する。


(妹だぞ、妹……)


 思い出されるのは、最終決戦のシーン。冬音の唇に唇を重ねた自分自身。


(いや、あれは流れで……)


 言い訳を重ねる。そんな自分を情けないと思う。

 結局のところ、冬音が言う通り、踏ん切りがついていないのだ。

 無意味に立ち上がってスクワットを開始する。頭が真っ白になるように祈りながら。


 部屋の扉がノックされ、開いた。外の明かりが、部屋を僅かに照らす。

 寝間着姿の冬音が、顔を覗かせていた。


「……なにやってんの?」


「……スクワット」


「なんでこのタイミングで?」


「なんか頭がわちゃわちゃになってわーって叫びたくなったけど夜だから」


 冬音は溜息を吐くと、部屋の中に入り込んで、ベッドに座った。


「嫌ならいいのよ」


 優助は、スクワットをやめた。


「嫌じゃない。二人の関係を、きっちりしておきたいし」


「明日香のほうがいいんじゃないかしら」


「そんなわけないだろ」


「明日香と何回風呂に入った?」


 知っていたのか。

 優助は口籠る。


「特別な関係だったんじゃないかしら」


「そんなわけないだろ」


 優助は冬音の前に立ち、顔をよせ、真っ直ぐに相手の目を見る。

 冬音は、気恥ずかしげに目をそらした。

 おでことおでこがくっつく。そして、唇と唇が重なった。

 キスを終えると、冬音は視線をそらしたまま、震える口で言葉を紡ぎ出した。


「どこで覚えたの、こんなキス。やっぱり明日香?」


「今時子供でも知ってるっちゅーねん」


「だって自然に覚えることじゃないわ!」


「俺だって思春期の少年だわ! 色々あるんだわツテが!」


「ツテってなに? 相手がいるの?」


「その発想から離れろ! 相手はお前しかいないって言ってるだろ!」


「本当?」


「本当」


 優助は、真顔で頷く。


「嘘だったら氷千本飲む?」


 その一言で、背筋が寒くなった。

 しかし、神に誓って冬音以外とキスをしたことはないはずだ。


「真実味があって怖いけど、嘘はついていない」


「そっか」


 冬音が、なにか滑稽そうに笑い始めた。

 優助も、釣られて笑い始める。

 そして、穏やかな空気が二人の間を包んだ。


「続き、するぞ?」


「うん」


 冬音とキスをする。

 二人で決めたことだった。

 一線を越えて、恋人となる。そうしようと、二人で決めたのだった。

 その約束の日が、今日だ。

 月だけが、二人を見ていた。


 その時、扉が開いた。


「優助さん、大変! 冬音ちゃんがいな……」


 ベッドの上の二人の図を見た智子が、顔を真赤にして硬直する。


「ごめんなさい!」


 部屋の扉が大きな音をたてて閉められた。


「バレた」


 優助は頭を抱える。


「いいじゃない。あの子なら、誰にも話はしないわ」


 そして、冬音は優助の頭に腕を回してキスをした。


「そうだな、続き続き……」


 雰囲気を取り戻そうとする。

 再び、部屋の扉が開いた。


「冬音ちゃん! お母さんにゴム貰ってきた! 生は駄目だよ生は!」


「うるっさいわねあんたは!」


 冬音は羞恥で半泣きになりながら、枕を智子の顔面めがけて投げつけた。

 そんなこんなで、二人の初めての夜は過ぎていった。

 全てが終わった後、冬音は布団で体を隠して、上半身を起こした。


「私ね。援助交際を誘ってくる相手を狙って狩ってたんだって」


「……殺した相手か」


「そう。私が、背負うべき罪」


「善人じゃなくてまだ救われたな」


「そう思いたい自分もいる。けれども、死罪は重すぎる罰だわ」


「これからは、詠月で働くのか?」


「そうなると思う。修行して、見習いから初めて……思い描いていた未来とは違うけど、それが私に与えられた罰」


「そっか。じゃ、俺も詠月に行くかな」


「優助は大学で経営について学ばなきゃいけないから駄目でしょ」


「表向きの仕事だ。どーせサポートしてくれる優秀な人材がいるんだろうさ」


「そりゃ、いるだろうけどね……恋人が私だなんて、きっと変な目で見られるわ」


 優助は、冬音の口に人差し指をつけた。


「それはもう言わない」


 そして、頬にキスをする。


「引き返せる一線は、もう通り過ぎてしまった」


「そうね……」


 冬音が、優助に抱きついた。


「あー、もう一回いいかな」


「え、また?」


「駄目か?」


「駄目じゃ、ないけど……」


 その時、部屋の前で言い争う声が聞こえた。

 なんだろうと思う間もなく、扉が開いた。


「優助ー、冬音も交えてちょっと話をしようと思うんだけど」


 酔っ払った春香が、智子を引きずりながら、扉を開けて硬直した。

 そして、真顔になって無言で扉を締めた。


「あ……」


「ありゃ……」


 冬音は無言で、優助を抱く腕に力を込めた。

 けして逃すまいとするかのように。


(地獄絵図だ……)


 そう思って苦笑しながら、優助は冬音を抱き返した。


「着替えてから行くか」


「うん、そうだね。お母さんにもちゃんと話さなくちゃいけない」


 わかってもらえるものだろうかと思う。

 わからないところだった。

 延長戦はまだ終わらない。


次回『スキルユーザーは優しい夢を見る』

優助が流刑になるところから始まります。

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