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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守優助編

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37/99

時代

 師にスマートフォンで電話をかけると、数コールで出た。


「優助。災難だったね」


 情報は筒抜けらしい。燕はいつになく神妙な口調でそう言った。


「師匠。精神操作への耐性をつけたい。俺も、召喚術師になれないだろうか」


「くくっ」


 燕は、喉を鳴らして笑った。


「そんなことか。大丈夫だよ。スキルユーザーとして覚醒した時点で耐性はある程度ついている」


「そうなんですか? なら、冬音は何故?」


「心が安定していない時に隙を突かれた形だろうね。元々、彼女には不安定な面があったんじゃないかい?」


 否定できない優助がいた。

 沈黙を肯定と受け取ったらしい。師は、言葉を続けた。


「それより、知っているか優助」


「なんですか?」


「お前の通っている高校に侵入者が出た」


「侵入者……?」


「なにか、気になるとは思わないか」


「気になりますね。行ってみます」


 どうせあてがないのだ。今は、一歩でも多く歩きたい。

 窓から外に出る。

 明日香と合流して、家の敷地外に出ようとする。


 その時、門が開いた。

 泣きそうな顔の母が玄関へと駆けて行く。

 胸に棘が刺さるような痛みを感じながら、それを見送って優助達は夜の町へと出た。


「必ず、連れ戻す」


「そうありたいね」


「ミストとは何度も会っている。冬音は、俺を狙っていたのかもしれない。十分に会える可能性はある」


「そうだね」


 明日香の返事は淡々としている。

 優助だってわかっている。優助の言っていることは、返事に困る願望だ。

 優助達は自転車をこいで、学校へと向かった。


 何人もとすれ違う。

 そのうちどれだけが詠月の構成員なのだろう。

 背筋を冷たい手で触れられたような気分になる。


「優助!」


 夏樹が、道を塞いで立っていた。

 前方に光の盾を形作り、強行突破する。


 後方から、竜に乗った夏樹が追いついてきた。


「家にいろ、優助!」


「諦めろって言うのか!」


 夏樹は、黙り込む。


「冬音がこんなことになって、家に一人篭って、諦めろって言うのか!」


「私達も全力で捜査している。冬音は戻ってくる」


「俺が助ける。今度こそ、助けてみせる」


 そう言って、優助は足に篭める力を増した。

 もう、優助に迷いはない。

 自転車が勢い良く下り坂を下っていく。

 コンビニがあり、人通りが多い地点だ。あまりに目立つので、夏樹はついてこれない。

 小さな舌打ちが、後方でした。

 気にせず、優助はただ前へと進む。


 そのうち、高校にたどり着いた。

 パトカーが何台か停まっていて、調査の最中のようだった。

 知り合いの刑事のコネを駆使して、校舎の中に入らせてもらう。

 そして、投書箱の前に立った。


「明日香。お前は冬音の教室を見てきてくれ」


「それなら、あんたが調べたほうが確実さね」


「……それもそうだな」


 緊張しつつ、投書箱を振る。

 なにかが擦れる音がした。

 紙が、中に入っている。

 慌てて、投書箱の鍵を開けて中身を取り出した。


「妹の居場所が知りたければここへ来い、か……」


 ウィンドと訓練をした神社の傍だ。


「あからさまな罠だあね」


「いや、これはレスの……占い師の筆跡だ」


「ますます罠だ」


 明日香は、呆れたように言う。

 優助は、戸惑うしかない。


「なんでそう言い切れる?」


「怪しいじゃないか。住所不定職業不定。優助の話では学校も行ってなかったんだろう? それが占い師として、私達の前に立った」


 確かに、怪しい。

 しかし、優助に迷いはない。


「けど、今は彼女の他に頼れる人はいない。俺は、行ってみようと思う」


 明日香はしばらく黙って優助を見ていたが、そのうち溜息を吐いた。


「冬音の教室も一応見て行こう」


「ああ」


 冬音の教室を見たが、違和感は一つもなかった。

 ただ、ここで彼女が毎日授業を受けているのだと思うと、とても愛しい思いになった。



+++



 セレナは、待っていた。

 優助の到着を待って、座り込んでいた。

 口ずさむのは、中島みゆきの時代という曲。

 運の要素もある。しかし、先守の何でも屋にならば、学校に不法侵入者が入ったという情報はすぐに入るだろう。

 ならば、後は時間の問題だと思うのだ。

 彼らは一つでも情報が欲しいはずだ。例え、虎口に入ることになろうとも。


 だから、セレナは待ち続ける。

 優助には、ネームレスと名乗った。

 本当の名前を、セレナは明かさない。過去を、思い出したくないからだ。


 そのうち、彼らはやって来た。


「待ってたよ、優助」


 軽い調子で、セレナは声をかける。


「ヨブ記は知っているかな。人は神を試してはならない。けれども神は人を試す。残酷で胸糞が悪い話だ」


「レス。妹は何処だ」


 優助は、真っ直ぐにセレナを見つける。

 その心に、淀みはない。

 居心地が良いその心を、いつまでも読んでいたかった。

 しかし、そういうわけにもいかない。


「この先の神社に、解放戦線って奴らが潜んでいる。彼らは妹さん……ミストの、行動をある程度操作できる」


「それを、何故貴女が知れるの?」


 言ったのは、明日香だ。


「占いさ。私は中立だよ」


 嘘だった。

 しかし、明日香は追求の材料を持たない。そのまま黙った。


「大勢で行けば奴らは逃げる。少人数で挑むことだ。そうさね、二人か、一人がいい」


「優助一人で大勢の召喚術師を相手にしろと?」


 明日香は憤慨したように言う。


「馬鹿らしい。優助、こんなのは罠だよ。行くことはない」


「母さんが、言ってた。俺の力なら、もっと大きなことができるって」


「優助……?」


 優助の心に、迷いは感じ取れない。


「なにもできない俺はいなくなった。今は、力がある。人を助けるだけの力が。それを駆使するのが、俺の生き方だ」


 優助は、自転車を置いて歩き始める。


「俺は、行く。付き合う気がないなら、ここで降りろ」


「馬鹿だよ……あんた、馬鹿だ」


 明日香は、掠れた声で言っていた。

 優助はそれを受け止め、歩き続ける。

 明日香は、ついて来なかった。

 代わりに、セレナが彼の後をついていく。


 それは、世界を変える力。

 優助の持つ才能は、世界を歪めるという時点に留まらない。世界を書き換える地点にいずれ至るだろう。

 セレナが待望したもの。喉から手が出るほど欲しかったもの。

 それが今、目の前にある。


 二人は、神社の境内の階段を歩き始める。

 黒い巨大な獣が、その前に座った。

 犬に似ている。ただし、サイズは人間より遥かに大きい。


「引き返すことだ、先守の少年。ここから先は死地。お主が立ち入るにはまだ早い」


 低い声が、獣の喉から吐き出される。

 しかし、この心には触れた覚えがあった。

 優助は、立ち止まった。


「明日香だろう?」


 なんでもないことのように、優助は言った。

 犬は、戸惑うように小さく震える。


「変だと思っていた。護衛の気配なんて感じたことがなかったからな」


 優助は、淡々と持論を述べる。犬は、緊張した様子でそれを見守っていた。


「けど、いつも一緒にいたお前なら話は別だ。智子は冬音の護衛。お前は俺の護衛と考えれば辻褄が合う。レスとのデートも、考えてみれば知ってるのはお前だけだったしな」


 しばしの沈黙が漂った。

 犬の中から、明日香が姿を現した。


「お見通し、か」


 苦笑顔だった。


「ああ、ついて来てくれると思っていた」


 優助も、苦笑する。

 穏やかな時間が流れた。

 そのうち、優助が真顔になった。


「力を貸してくれ、明日香」


 優助は、手を差し伸べる。


「俺には、力が足りない。多対一では、正直厳しいと思う。けど、破壊の力を持つお前と組めば、何かが変わる気がする」


「確かに、私のスキルは強大だ。殲滅向けだろうね。けど、優助、わかってる? 前回のミストとの衝突時、私は力を加減していたんだよ?」


 優助は戸惑うような表情になる。


「無理して動かれて傷つけたくなかった。だから炎の力を弱めた。私の炎の檻は、本来はあの程度では消滅しない」


「大丈夫だ」


 優助は、淡々とした口調で言う。


「ミストには……冬音には、俺が当たる」


「半人前の癖に、威勢だけは一人前だ」


 明日香が、肩を竦める。

 優助は、切なげな表情になる。その表情に負けたように、明日香は優助の手を取った。


「行こうか、相棒」


「ああ。俺はお前が守る。お前は俺が守る。二人なら、できないことなんてないさ」


「そうありたいものだと思う」


 二人は、階段の先を見つめた。

 その時、周囲の気温が少し下がった。

 足音が響いている。

 それは、下から徐々に近づいてきている。

 ミストだ。


「優助、ミストは任せた」


 そう言って、明日香はミストに背を向ける。


「上の有象無象は私が不意打ちして潰しておく。そしたら、合流だ」


「できるのか?」


 黒い犬が、一瞬で布のようになって明日香に巻き付く。


「こう見えて、第三形態でね。詠月の県本部じゃ指折りの戦闘力に数えられる」


「敵に第三形態がいないとは限らないんじゃ?」


「……だから、私は止めたのさ。行くね」


 そう言って微笑むと、明日香は跳躍して階段を飛び越えた。

 そして、優助はミストと対峙した。


 セレナは物陰に隠れて、成り行きを見守っている。


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