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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守優助編

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明日香1

 先守明日香は本来は先守の分家の人間だ。

 それが本家にいる理由は至極単純で、明日香が分家では禁忌とされる方法で作られた子供だったからだ。

 本家にことが露見して、明日香は先守本家預かりの身となった。


 本家にやって来て、同年代の子供が二人いた。

 優助と、智子。

 二人共どこか沈んでいて、そりが合わないなとやんちゃだった明日香少女は思ったものだった。

 しかし、燕の訓練に優助と共に連れて行かれて、印象が変わった。

 優助は、強くなることに貪欲だった。

 時には痛い目を見ながらも、けして怯まなかった。


 だから、なんとなく興味を持って、話しかけるようになった。

 話しているうちに、二人が沈んでいるのは、仲の良かった親戚がいなくなってしまったことに起因しているとわかった。


(シスコンかぁ……)


 なんとなく、覚えたての言葉を使って分析した。


「なら、私がその冬音とやらを忘れさせてあげよう」


 優助は、苦笑して断言した。


「無理だ」


 その頃から、自分の立ち位置は決まっていたように思う。

 優助は冬音を追う。

 自分はそれを見守る。

 結局、その立ち位置を享受している明日香がいた。

 散々連れ回しても、優助は冬音を忘れないのだと実感したせいもある。


 転機は、突然やって来た。

 不注意からの事故。

 明日香は意識を失って、病院に搬送された。

 意識を取り戻した時、優助は明日香の手を握って泣いていた。

 その時、明日香は実感したのだ。

 優助の心の傷を、開いてしまったと。


「俺は、なにも守れない……!」


 優助は、嘆くように言った。

 その頭を撫でて、明日香は微笑んでいた。


「なら、私が貴方を守ってあげる」


 それからずっと、明日香は優助を守っている。

 ずっとずっと、守っている。

 自分の努力が報われないことを知りながら、傍につき続けている。

 そして、時間は今に至る。


 先守家の姉妹が帰宅したのは、深夜のことだった。

 急にダイニングに呼ばれて、明日香は驚いた。

 ダイニングには、四人の子供が勢揃いしていた。

 明日香、優助、冬音、智子。


 事情を知らない冬音まで呼び出したということは、全てを明かすつもりなのだなと明日香は感じ取っていた。


「お母さん、顔を見れたのは嬉しいけど、なんの用? もう、夜遅いよ?」


 冬音が、戸惑うように言う。

 春香は、目を閉じて大きく息を吸うと、吐いた。

 そして、目を開いて蹲った。


「ごめん、ちょっと吐いてくる」


「うん……」


 冬音は、不安を隠すように両手を胸元にやった。


「あんなに飲むから……」


 秋奈が呆れたように言う。

 しばらくして、春香は少しすっきりとした様子で戻ってきた。

 そして、四人を見て、口を開く。


「貴方達に、大事な話があります。これは、先守の仕事にも関わる話です」


「先守の仕事って、会社でしょう? それも、大きな会社」


 冬音の無垢な言葉に、優助が表情を歪める。

 いつかは来る日なのだ。だから、彼をこの現実から救うすべはない。明日香は俯いて、下唇を噛む。


「それは表向きの仕事です。先守家の本来の仕事は……言葉で説明すると、とても現実味がないものね」


 春香は、そう言って溜息を吐く。


「優助と明日香は、もう知っている……となると、冬音ね」


 冬音は、疑問符を顔に浮かべた。


「冬音、近寄ってきなさい。お母さんに触れることができたら百万円あげる」


「そんなお金、いらない」


 不穏な空気に怯えたように、冬音は上ずった声で言う。


「なら、お金の話はなしにするわ。お母さんに触れられる?」


 冬音は、優助を見た。優助は、苦笑して冬音の背を押す。

 冬音はおずおずと前進して、春香に手を伸ばし、そしてその最中で動きを止めた。

 腕は、前へ進もうと震えている。しかし、進めない。春香の前に、見えない壁があるかのように。

 いや、壁はあるのだ。

 超常の現象によって作り上げられた壁が。


「これが、召喚術の力。お母さんは、防御向きの力を授かった。だから、お母さんが一度能力を発動させれば、誰もお母さんには触れることができない」


 冬音が、怯えたように手を引く。

 その口が、戸惑うように言葉を紡ぐ。


「召喚術……?」


「そう、召喚術。霊脈から力を授かった道具を媒介として、未知の存在を生み出す力」


「霊脈……?」


 冬音は、悪夢でも見ているかのようにふらつきながら一歩を引く。


「明日香。火球をちょうだい」


「いいんで?」


 急に指名されて、明日香は戸惑った。


「私に撃てば相殺できると思うから」


 なるほど、明日香のスキルのほうが見た目としてはわかりやすい。

 明日香は右手を上げた。その右手の先端に炎が生まれ、火球として放たれた。

 それは、春香の防御壁に阻まれて消滅した。


「まあ、この力を活かして世界の均衡を守ることを先守は生業としてきたわけ」


 冬音は、腰を抜かして座り込んでいた。

 優助が、彼女を抱き起こす。

 冬音は優助にしがみつきながら、震える声で言う。


「トリックよ。信じられないわ。皆して、私を騙しているのよ」


「こんな魔法みたいなことを現実に起こすトリックなんか存在しないよ、冬音。わかっているんだろう?」


 優助は、優しく諭すように言う。

 冬音は、驚いたように優助を見た。


「優助は、知ってたの……?」


「というか、俺にもその力がある」


 優助は、冬音を放すと、両腕に光を浮かべた。


「明日香、火球」


「人使いの荒い親子だ」


 ぼやいて、明日香は火球を放つ。

 それは、優助の光に吸い込まれるようにして消えていった。


「な?」


「これは悪い夢よ……」


 頭を抱えた冬音に、智子が寄り添う。


「この素質を悪用しようとする人間もいる。気をつけることね。だから、貴方達には出来る限り訓練を積ませてきたわ。冬音は入院していたから、それが少し遅れたけれど」


 春香は、淡々とした口調で言う。


「今日の本題はそれなの? お母さん。私も大人になれば、その仕事に携わることになるの?」


「本題はそれではないわ」


 春香は、躊躇うように言う。

 そして、少し迷った後に、口を開いた。


「お祖父様に、優助は私の実子ではないと言ったそうね」


「ええ、言ったわ。事実だもの」


「それは過ちだというのが今回の議題です」


 冬音が、目を見開いた。


「かと言って、優助。貴方はお父さんの子ではないわ」


 優助は、表面は冷静に見える。


「まあ、今更それぐらいは覚悟してたさ。しかし、母さんの子でもあるってのはどういうことだ? 俺はてっきり、二人共血の繋がりのない人間だと思っていたよ」


 春香は口を開いて、言葉を発しようとし、躊躇うように口を閉じた。

 その肩に、秋奈が触れて、口を開く。


「……先守には伝統がある。召喚術の力を引き出せる跡継ぎを残すための伝統がな。それが、霊脈から子を授かることだ」


「霊脈から子を……?」


 優助が、戸惑うように言う。


「ああ。霊脈から出ているエネルギーを母体に宿す。つまり、お前に父はいないということになる」


「そんな……」


 優助が、唖然とした口調で言葉を紡ぐ。


「そんな、実験動物みたいな作られ方が、俺の生まれだって言うのか?」


「実験動物ではない。伝統だ」


 秋奈は、淡々とした口調で言う。


「いつかは告げなければと思っていた。それが、三日過ぎ、三ヶ月過ぎ、三年が過ぎ、いつしか何年にも積み重なった」


 春香が、湿った声で言う。

 その瞳が、しっかりと優助を捉えた。


「けど、私は貴方の母よ。それは、変わりないわ。貴方の中には、先守の血がしっかりと脈打っている」


 沈黙が場に漂った。

 優助は考え込むように俯いて、冬音は強張った表情で智子に縋り付いている。


「まだ、話していないことはある。けど、整理ができていないでしょう。次の機会に回しましょう」


 そう言って、春香は冬音に近寄って、その頭に触れようとした。

 それを、冬音は振り払った。

 目を見開いて、異形でも見るような表情で。


「触らないで!」


 冬音は、震える声で言葉を紡ぐ。

 春香は、沈んだ表情でそれを見ていた。


「私は、お母さんを許さない。この家に私を産んだ、お母さんを許さない!」


「すみません、落ち着くまで、部屋にいるほうがいいだろうと思います」


 智子がそう言って、冬音をつれて去って行く。

 後には、優助と明日香、春香と秋奈が残った。

 春香は、拒絶された手を眺めて、眉間にしわを寄せる。

 その肩を、秋奈が叩いた。


「喋ってないことがあるって言ったな、母さん」


 考え込んでいた優助が、顔を上げた。


「洗いざらい喋ってもらう」


 春香はしばらく強張った顔でいたが、そのうち表情を緩めた。


「聞きたい情報は吐き出させなさい」


 春香は、そう言って優助に背を向けて歩きだす。


「酔いも覚めた。鬱憤も溜まった。少し、運動がしたい」


 そう言って、春香は玄関の扉を開く。


「お母さんと、一戦交えましょう」


 振り返ると、そう言って春香は微笑んだ。

 そして、二人は庭で対峙した。


 秋奈と明日香は、観客に回る。


「お母さんに攻撃系の特殊能力はない。条件は貴方と同じよ、優助」


 優助は黙ってストレッチをしている。

 そして、それが終えると、背を伸ばして母と見つめ合った。


「俺が勝ったら、洗いざらい話してもらう」


「ええ、勝てたらなんでも話してあげちゃうわよ。貴方達の知らない親族構造から詠月の機密情報まで」


「じゃあ、勝負だ」


 勝負にならないだろうな、と明日香は見ている。

 なにせ、ウィンドも言っていた。召喚術師の第三形態は化け物だと。

 優助が、拳を振り上げて春香に襲いかかった。

 その膝を蹴り、顔面に向かって春香は膝を突き出した。

 シャイニングウィザード。

 常人の速度ではなかった。

 優助は為す術もなく蹴り飛ばされる。

 そして吹っ飛んで、数メートル先に落下した。


「……まいったな。久々で加減がわからない」


 白い光が、闇の中に浮かび上がった。それは、優助の両腕から浮かび上がり、首から頭へと伸びていった。

 優助は何事もなかったように立ち上がる。

 光の付与効果で回復したのだ。


「舌、噛まないでね」


 春香はのほほんとした口調で言う。

 優助は片手を地面について、真っ直ぐに春香を見ていた。


「罠だ、春香姉!」


 秋奈が叫んだ時には遅かった。

 春香の左足を、光が包んでいた。


 そう。優助の光は、あらゆる力を無効化する。

 身体能力に特化した第三形態の力をも。


 優助は地面から手を放して駆け出した。糸を引くように腕から光が伸びていく。

 春香は、構えて立ち塞がった。

 優助の拳を、春香は後ろに体をそらして回避する。

 次の瞬間、電光石火の右ストレート。

 優助は肩でそれを受け止めつつも、吹き飛ばされた。

 春香は影響のない右足で跳躍し、優助の後を追い、地面に叩きつける。


「貴方の力はこんなものではないはずよ。もっと力を求めなさい。霊脈からの力を、求めなさい」


 春香が淡々とした口調で言う。


「俺の……力……」


 優助の光が、その全身を満たしていく。

 ダメージの治癒にリソースを割いているのだろう。

 立ち上がろうとする優助の腹部に、春香の右足の蹴りが突き刺さった。

 その足を、優助は抱きすくめていた。

 光りに包まれて、右足の脚力もなくなる。春香はよろめいた。


 そこに優助は殴りかかって、拳を止めた。


「……勝機でしょう? どうして攻撃を止めたの、優助」


 春香が冷たい目をして、問い詰めるように言う。


「母さんを殴る拳なんて、考えてみれば持ってなかった」


 そう言って、優助は拳を下ろす。

 春香は苦笑して、その体を抱きしめた。


「馬鹿ね、優助。私は殴られて当然の親なのに……」


 春香は、冬音の言葉を思い出したのだろうか。小さく震えた。


「本当に、馬鹿ね」


 その声は、少し涙ぐんでいた。

 戦いが終わり、解散して、明日香はなんとなく冬音の部屋の前までやって来ていた。

 泣き声が聞こえて、明日香はなにもできずに、その場を去った。


 こうして、先守家には混乱が残った。

 明日香は冬音になにもしてやることができない。

 冬音と優助がどういう決断を下すかもわからない。

 ただ、それを見守るだけだ。



+++



 翌朝、冬音は、なんとなく一人で登校していた。

 誰にも、弱い部分を見られたくなかった。

 今、あの三人と顔を合わせると、泣いてしまいそうで怖かった。


 個人的な世界が引っくり返っても、外の世界は変わらず進んで行く。

 それに呆然とする。

 こんなに冬音は悲劇的な目にあったのに、日は普通に上り、登校時間がやってくる。

 マイペースにもほどがあると思う。


 途中、人影を見つけて冬音は自転車を止める。

 占い屋だ。何度か顔を合わせた覚えがある。


「絶望、しているね」


 占い師は、遠くから言った。


「……だから、なに?」


 冬音は、目元を拭う。

 涙の跡は、くっきりと残っているだろう。


「だから言ったのよ、私は……貴女は、覚えていないだろうけれど」


 占い師は、微笑む。


「主人公ポジションは既にない、相棒ポジションも既に埋められた。ならば……」


 占い師の言葉が、冬音の心の中に刻みつけられていく。


「貴女に残されたポジションは、敵役しかないとね」


 風が吹いて、黄金の稲穂が揺れる。

 冬音は茫然として、その言葉を聞いていた。


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