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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守優助編

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兄と妹2

 いつになく淑女然とした冬音と共に、優助は新幹線に乗っていた。


「勢いで乗ったけど、夜まで帰って来れるかな」


「帰れなくてもいいじゃない。泊まるお金ぐらいあるわ」


「けどなー……信用問題になりかねないと思うんだよな」


「大丈夫。私は信頼されてるから。電話一本入れれば問題ないわ。問題は、優助ね」


 冬音はそう言って微笑む。


「……フォローしといてくれ」


 優助は苦笑交じりに言って、窓の外に目をやった。


「いつから知っていた?」


「……入院する直前」


「だからか」


「うん、まあ、そうね」


 そのまま、沈黙。

 互いに、キスした時のことを思い出しているのだと思うと頬が熱くなる。

 あれが、初めての異性とのキス。


「優助、最初は筆まめだったね」


 冬音が、淡々とした口調で言う。


「まあな」


「だんだん明日香の話題が増えていって、手紙の回数も減って」


「できるなら見舞いに行きたかったよ」


「口だけならなんとでも言えます」


「本当だよ。お前のことを忘れたことなんて、一度もなかった。ずっと、気にしていた」


「口だけなら……なんとでも言えるわよ」


「本当だ。入院する前は、ずっとお前と一緒だったんだから」


「けど、その席には今、明日香がいる」


「……何でも屋を畳もうかと、少し考えている」


 冬音は、目を丸くした。


「夏樹さん達が俺に望んでいるのは、そんなことじゃないんだなと、少し思った」


「……私は、優助の意志を捻じ曲げたいとは思わないわ」


 優助は唖然とした。


「あれほど文句言ってる癖に?」


「文句は言うわ。それはそれ、これはこれ、よ。夜中に出かけるのは絶対に反対だわ。けど、社会のルールが決めた範囲で優助が楽しむならいいんじゃない? 私は優助の妹じゃない。優助を縛る権利はない」


 その割り切り方に、優助は胸が痛むのを感じた。

 明日香の心が常夏ならば、冬音の心は常に冬の中にいる。厳しい寒さの中で、凍えている。一人きりだ。

 優助は、冬音の手に手を重ねた。


「……縛る権利ぐらいあるさ。何年の付き合いだと思ってる」


 冬音は、しばらく肩を強張らせて黙り込んでいたが、不意に苦笑した。


「意外ね。それは自分に不利になる発言よ」


「正直、俺も振り上げた手の下ろしどころに困っている感はある。今回は、戸惑ってばかりだ。けど、確かなことはある」


 肩を強張らせたままの冬音の、目を見る。


「俺達は、仲が良かった。何でも屋のことさえなければ、ずっとそのままだったはずだってことだ」


「そうね……私達、凄く仲が良かった。手紙が届くの、いつも半分憂鬱で、半分楽しみだった」


「半分憂鬱って、なんだよ」


「優助が明日香のことばっかりかくから」


 冬音が、責めるように言う。


「そうさな」


 それを言われると、優助は弱い。視線を逸した。


「女の子の前で他の女の子の話するなんて」


「全面的に俺が悪い」


 苦笑するしかない。

 いつもと、呼吸が違っていた。

 長い年月をかけてずれいたものが、元に戻ったかのような。

 そういえば、昔は妹だからと意識することはなかった。ただ、仲の良い歳の近い友人だった。


「で、今日は私の貸し切りでいいのかしら?」


「ああ、だからこうして新幹線に乗っている」


「そうね」


 冬音は、微笑んだ。



+++



「いい雰囲気ですねえ」


 智子が、優助達を覗きながら言う。


「そっか」


 明日香は、そっけなく言う。


「良かったので? 冬音ちゃんに優助さんを譲るような真似をして」


「元から私に席はなかった」


「そうは思いませんけど……」


「焚きつけてなにがしたい、智子」


「そんなつもりは全然ありませんよお」


「家庭内三角関係を楽しんで見てるクチか。昼メロか」


「いえいえ、そんなつもりはありませんってえ」


「お前も巻き込んで四角関係にしてやろうか」


「家庭内でそれって殺傷事件とか起こりそうで嫌ですねえ」


「私も名探偵に探りを入れられるのはごめんだね」


 そう言って、明日香は肩を竦める。

 本音を言えば、胸が焦げるような思いだった。

 けど、優助の微笑みを見ていると、これで良いのだと思った。


 そのうち、新幹線を降りて、優助達は手を繋いで人混みの中を歩きだす。

 明日香にとって、この人混みは身を隠すのに最適だった。

 二人でそっと、前を行く二人を追っていく。


 そのうち、有名なテーマパークに辿り着いた。


「ここに来たかったのかぁ」


 明日香は、思わず呟く。


「なんとなく想像はついてましたけどねえ」


「私、本家に貰われてからは地元出たことないからなあ」


 長い列をパスを買うために並ぶ。


「乗り物も長打の列だから、そんなに乗れないと思いますけどねえ」


 智子が、正直な意見を述べる。


「それでいいんだよ。二人に必要なのは話す時間だ」


 明日香は、微笑んだ。

 そして、遠くで、物販のキャラクター物の帽子を冬音にかぶせている優助を、目を細めてみていた。


(なんだよ、お似合いのカップルじゃんかよ……)


 最初から出る幕はなかったのだと思う。

 それならば、今まで舞台の中心で踊っていた自分はまるで道化だと思った。



+++



「優助はいつまでもお兄ちゃん気分が抜けないみたいね」


 冬音が、頭につけられたキャラクター物の帽子を見上げて少し照れくさげに言う。


「俺は十七歳、お前は十五歳。お兄ちゃん気分でも問題なかろ」


「あと何ヶ月かで一歳差じゃない。三十代にでもなればそう大した差じゃないわ」


「それもそうだが」


 優助は列の最後尾に並ぶ。


「しかしお前、絶叫系は大丈夫なのか?」


「忘れた? 昔は私が一番強かった」


「そうだなあ。あの頃は母さんが結構家にいて」


「帰ってきたら、お母さん仕事熱心になってて吃驚したわ」


「昔もあちこち行ったよな」


「いつも優助は手を繋いでくれていた」


 冬音の手を見る。

 空っぽの手を。


「あ、列進んだよ」


 そう言って、冬音は前を指差して歩いて行く。


「あ、ああ」


 優助も、その後に続いた。

 いつまでも一緒だと思っていた。信じていた。

 冬音の病気で、そんな保証はないんだと思い知らされた。

 だから、自分と同じ思いをする人が出ないようにと、他人の難題に一々首を突っ込んだ。


 取り戻せるのか?

 もう一度あの日々を。


 優助は、冬音の手を握った。

 冬音は、目を丸くしたが、嫌がらなかった。


「昔みたいに、今日は楽しもう」


「……うん」


 冬音の微笑み顔は、眩しかった。

 様々な列に並び、遊び疲れて、ベンチに座る。そこに、ジュースを一つ残した。


「誰に残したの? 回収されちゃうよ?」


「護衛さんに」


 そう言うと、冬音は、不思議そうな顔をした。


「楽しかったか?」


 帰りの新幹線で問うと、冬音は子供のように無邪気に頷いた。


「けどね、私は、本気を出した明日香には敵わないんだろうなって、そう思うんだ」


「なんだ、それ」


「なんでもない」


 冬音の苦笑顔からも、幸せの香りがこぼれんばかりだった。

 こんな一日があってもいい、と思った。

 明日から二人はまたすれ違うだろう。

 けど、こんな一日がたまにあればやっていけるのではないかと、そう思った。

 優助は、冬音に抱いている愛情を、再確認していた。

 それは、兄妹の枠を、少し逸脱するものだった。

 しかし、構うまい。自分達は、実の兄妹ではないのだから。


「ねえ、優助」


 冬音が、耳元で囁く。


「なんだ?」


 顔を向けると、唇と唇が重なった。


「楽しかった」


 無邪気に微笑む冬音を、優助は思わず抱きしめていた。

 こんなに人を愛しいと思ったのは、冬音の入院が決まったあの時以来だった。



+++



「暇ね」


「暇だな」


「暇ですね」


 スキルユーザー対策室では、三人のスキルユーザーが暇を持て余していた。


「貴方はいいわよ遠夜。どっかのドラ息子にスキルユーザーの技を伝授するって燕さんからの依頼があったから」


「頭割られたんだぞ俺は! とんでもねー糞ガキどもだったんだぞ!」


「はいはいエキサイティングで楽しかったわねー」


「つーかお前は暗躍する敵だったのになにしれっと仲間になってやがる、嵐」


「嵐ってなんですかー? 友美って名前がありますー」


「うわっ、む・か・つ・く」


「まあまあ、二人共、お茶でも淹れましょうか」


 そう言って、小豆が立ち上がる。


「一番凶悪だったのってあの子よね」


 友美が遠夜の耳に囁く。

 遠夜はうんざりとして、返事をしなかった。

 この三人、留守役になっている理由は以下の通りだ。

 遠夜、力不足。小豆と友美は、君枝から能力を返してもらったものの、その力が強大すぎて町を破壊しかねない。

 結局、そういった理由でベンチウォーマーに徹している。


 その時、部屋の扉がノックされた。


「はい、こちら桜井会計事務所ー。本日の業務は終了しております」


「そんな建前の名前はいらんさ」


 そう言って、男が入って来た。

 三十代ぐらいの、鋭い目をした長身の男だ。身は程よく引き締まっていて、運動を欠かしていないことがわかる。


「スキルユーザー? 対策室はここだな?」


「……貴方は?」


 遠夜が尋ねた。


「いいえ遠夜。ここは私の出番よ」


「いえ、接客なら私が一番だと思います」


「まあ、賑やかなようでなによりだ。今後もそうあってほしいね」


 男は投げやりに言って、肩を竦める。

 若干嫌味っぽい。

 その仕草に、遠夜は目を細めた。


「あんた、名前は?」


「木崎零。娘が黒い影が見えて登校できないと怯えている」


 三人は、顔を見合わせた。

 友美が、口を大きく開いて声を上げる。


「あんた、天道衆を倒した人!」


 天道衆。前回の事件の発端となった組織だ。


「まあ、そうらしいな。一般人になった今、その記憶は既に消されているが」


 零は、眉間にしわを寄せた。

 そして、溜息を吐く。


「ただの医者さ、俺は」

次回『スキルユーザー』予定

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