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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
先守優助編

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28/99

妖かしの手ほどき

 優助は放課後の教室で窓の外を眺めてぼんやりとしていた。

 青い空の下、大きな白い雲がゆっくりと動いている。


「なにぼんやりしてんのさ」


 鞄を持った明日香が呆れたように横にやって来た。


「よっ、今日も仲いいね、先守夫婦」


「子供は何人がいいかしら。三人かしら」


 茶化して笑いながら同級生達は去って行く。


「いやさ、冬音が実の妹じゃないっていうのは俺的には結構青天の霹靂なんだよな」


 正直な気持ちを告げる。

 その事実について抱いている感情は靄がかかっていて見えない。


「それがさ」


「なにさ、柄になく歯切れ悪いなあ」


「キス、したんだよな」


 空気が凍った。


「誰と?」


 明日香は、呆れたように言う。


「その……」


「冬音と?」


 追求されているみたいで優助としては落ち着かない。


「その、戯れみたいに」


 明日香は深々と溜息を吐いた。


「こりゃ重症だ。誠ちゃんの壁新聞の良いネタだね」


「俺は私生活を切り売りする気はない」


 頭を抱える。

 あのキスはなんだったのか。

 妹は、自分達の間に血の繋がりがないと知っていた。

 だから、あれは、特別なキスだったのだろうか。


「責任、取らなきゃいけないのかな」


 明日香は大声で笑うと、勢い良く優助の背中を叩いた。


「ばっか言え。キスだけで責任取らされてたら日本人の既婚率はこんなに低くないべ」


「それもそうなんだけどな……」


「気になる?」


「まあ、なんというか、対処に困ってる」


「そういうとこだと思うよ」


 明日香が、妙に冷静な声で言う。


「結局優助は、冬音しか見ていないんだよ」


「どういう意味だよ、それは。お前まで冬音の応援をする気か」


「事実を告げただけさ。さ、本題に移ろう。Twitterのダイレクトメールはその後動きは?」


「ないな」


 言って、鞄を持って立ち上がる。

 そして、二人して学校の廊下を歩いた。


「そもそも、この人認証した覚えがないんだけどな。鍵垢は認証しなければ見ることができない」


「不気味だねえ」


「なにか胡散臭い……」


 投書箱の前で足を止める。

 投書箱には、現在多忙につき休業中の張り紙が貼ってある。

 ミストの事件を解決しないことには先には進めない。優助はそう考えたのだ。

 投書箱を持ち上げて、振ってみる。

 中で何かが擦れ合う音がした。


 投書箱を開いて、中に入れられた紙を確認してみる。

 そこには、簡易的な地図が書かれていた。

 スキルユーザーについて知りたければここ、という書き込みとともに地図の一点に矢印が指し示されている。


「胡散臭……」


 明日香が投書箱を元の位置に戻しながら、げんなりした表情で言う。


「しかし、今は一つでも情報が欲しいのは事実だ」


 優助は、淡々と言う。


「明日香、お前は先に帰れ。俺は、行ってみる」


「おいおいそりゃないぜ相棒」


「ミストの狙いは俺かもしれないと祖父ちゃんは言っていた。これが罠なら、お前まで巻き込むことになる」


「二人揃って何でも屋でしょう?逃げ出すにも人手はあったほうがいい」


 明日香は悪戯っぽく微笑んだ。

 それに、優助は警戒心をほだされるような思いになった。

 二人でならばなにも不可能ではない。そんな気分にさせられた。


「それじゃ、警戒しつつ……行くか」


「うん、行こう。新しい光の道へ」


 光の道。本当に光の道なのだろうか。

 占い師も言っていたではないか。一寸先は闇だと。

 自分の唇に触れる。

 冬音は今なにをしているだろう。そんなことが、妙に気になった。



+++



 年末年始ぐらいしか訪れたことがない古びた神社の境内に、二人はやって来ていた。

 周囲の草むらやトイレをチェックして、伏兵がいないことを確認する。


「どうだった?」


「ひとまずは安心って感じかな」


 明日香は淡々とした口調で言う。少しの緊張が、滲んで見えた。

 そして、二人は神社の前まで移動した。

 賽銭箱の前に、二人の少女が座り込んでいた。反応したのは、体が細い華奢な少女だ。長い髪の毛を後ろでまとめている。


「おう、来たかい何でも屋。スキルユーザーについて知りたいんだったな」


 その外見に似つかわしくない男の声に、優助は戸惑った。


「男……?」


 明日香も、戸惑うように言う。


「俺は男だよ。悪いかよこの野郎」


 気分を害したようで、苛立たしげに少女の外見をした男は立ち上がる。


「まー、お前らにスキルユーザーの手解きをしてやろうという善意の第三者がこの俺だ。正直今回の戦いに召喚術師やスキルユーザーじゃない人間は邪魔だからな」


「召喚術師とスキルユーザーとは?」


 明日香が、淡々と問う。


「超常の現象を使う存在は二ついる。道具に宿った力を元に戦う召喚術師。自らの肉体に宿った力を使って戦うスキルユーザー。今回の敵、ミストは明らかに後者だ」


「何故、そう言い切れる?」


「召喚獣の存在が確認できない。かと言って、召喚獣と一体化する第三形態並の身体能力もない。スキルユーザーだっていうのが大方の見方だ」


 男は、優助の右腕を見た。包帯で治療された痛々しい腕を。


「無茶をしたな。妖かしには武では勝てない。妖かしには妖かしで当たるのが正しい道だ」


「その妖かしの術の使い方を教えてくれると……?」


「さる方から依頼されて、そういうことになっている」


「……理解がついてこないな」


 優助は頭を抱えたいような気分になる。


「確かに俺達は超常の現象を見た。しかし、あんたの言うことを突拍子もなく思う俺もいる」


「俺は先守の跡継ぎが召喚術を知らないってことのほうが驚きだよ。こういうのは、常識と非常識の境目が曖昧な子供の頃に済ませておくべきことだろう」


「それは、祖父の方針で……」


「妖かしに立ち向かいたいんだろう?」


「ええ」


 優助は、迷いなく頷いた。


「なら、自らも妖かしと化すしかない。妖怪の逸話がいくつも歴史には残っているが、それは召喚術が見える極稀な人間が残したものなんだろうな」


 ならば、今回の相手はさながら雪女と言ったところか。


「痛そう」


 座っていた少女が、平坦な声を上げた。

 彼女は立ち上がると、優助に近づき、その右手に触れた。

 白い光が優助の右腕を包む。そして、気がつくと右手から痛みが消えていることに気がついた。

 包帯を解いてみる。傷が消えている。

 また、超常現象を目の当たりにしている。今までの常識が崩れそうになっている優助だった。


「貴女は……?」


 答えたのは、男だった。


「治癒の召喚術師だ。便宜上ヒーラーと呼んでくれればいい。俺は、ウィンドだ」


「偽名か」


「もっと自然な偽名のほうが良かったか?」


「どの道、俺達に素性を知らせる気はないと」


 男は、薄く笑った。


「そういうこと。じゃあ早速、訓練行くぞ」


 そう言って、男は両手を前に差し出した。

 その右手に影が集まって、刀の形を成した。


「見えるか?」


「見えます」


「見えるわ」


 優助も、明日香も、神妙な表情で述べる。


「そうじゃなきゃ困るところだ。これは基本だからな」


 男は微笑む。そして、思案するような表情になった。


「さて、どうするかな」


「ノープランだったんですか?」


 少女が、呆れたように言う。


「俺がスキルユーザーに覚醒したのは、命の危機があったからだ。つまり強い感情が必要となる。日常の中で身につくものかな」


 優助と明日香は顔を見合わせる。

 呼び出しておいてそれはない。


「それにしても、先守の跡継ぎなのに護衛ついてないのな」


 ウィンドが、呆れたように言う。


「護衛がいなくても、相棒がいます」


「はいはい……それじゃあ、ちょっと怪我してもらいましょうかね」


 男はそう言って、剣を構えて腰を落とした。

 優助も、明日香も、構えを取る。

 そして、男は地面を蹴った。

 常人離れした身体能力だった。一瞬で相手の間合いに入る。

 刀が振り下ろされる。

 その振り下ろされる手を、優助は掴んで、背負い投げた。


 地面に叩きつけられてウィンドは唾液を吐く。

 そして、上半身を起こすと、俯いて動きを止めた。


「……ウィンドさん?」


「これだよ。拳児の野郎にまで負けたからな。身体能力特化の連中に俺はどうせ敵わないんだ」


「まあまあ、ウィンドさんも経験を積めば……?」


 ヒーラーが、無感情な声でフォローする。


「もう俺は十代も半ばだぞ。今から新しいことをして身につくのか?」


「仕方ないですよ。この子達は拳児さんより強い翔子さんより強い燕さんの弟子です」


「くそ、どうしてこうなる……こんなんだから俺は雑用なんだ」


 優助は、明日香と顔を見合わせた。

 お互いの顔にはこう書いてある。

 どうしよう。この師匠頼りない、と。


「仕切り直しだ。実戦のつもりでやる」


 そう言って、ウィンドは立ち上がった。

 風が吹いた。

 それは巻き上がって、ウィンドの周囲で暴風と化した。


「範囲攻撃がスキルユーザーの真骨頂だ。さて、この風を破れるかな」


 明日香が岩を持ち上げた。そして、投げる。

 暴風を突き破ってウィンドの頭に岩が直撃した。

 暴風は吹き続けている。


「ヒーラーさん」


「なんですかウィンドさん」


「頭が割れたので治療お願いできますか。血が服につく」


 優助と明日香は顔を見合わせる。

 どうしよう。この師匠本当頼りない。

 しかし、超常の力を持っているのは確かなようだった。



+++



 結局、ウィンドが剣を振るたびに発生する風の刃を避ける訓練を行うことにした。

 こうなるとウィンドに接近することは難しくなる。

 いや、二人共徐々にウィンドの立っていた位置に接近しているのだが、それ以上に彼が移動している。


「上手く躱すな」


 ウィンドは感心したように言う。


「速度、上げるか?」


「ご自由に」


 優助は、淡々と述べる。

 そこから先は、息つく間もない回避一辺倒の時間だった。


「目覚めないな」


 ウィンドは飽きてきたような口調で言う。


「私がいると傷の治癒ができるという点で安心しているのかもしれませんね」


 ヒーラーが淡々と言う。


「けど困るぜー。先守の御曹司に怪我させてそのまま帰らせたと知れたらコトだぞ」


「お構いなく。今はただ、一人の人間です」


「その心意気は買うけどな。目覚めないんじゃ意味がねえ」


 空は夕焼けで赤くなっていた。


「そろそろ時間だな。今日のところは帰れ」


 ウィンドは刀を振るのをやめる。


「ミストは今も人を傷つけているかもしれない。俺達には、力が必要です」


「お前らが帰るの遅くて芋づる式に俺達の存在まで露見したらコトなんだよ。今日のところは帰れ」


 そうと言われたら帰らざるをえない。


「明日も、教えてくれますか?」


「あー、俺も仕事でやってるからな。仕事はサボらないさ。ただ、交換条件だ」


 そう言って、ウィンドは二人に背を向けた。

 汗でシャツの背中が濡れていた。


「なんですか?」


「スキルユーザーとして覚醒するまで、ミストは追うな。足手まといになるだけだ」


 戦力外と言われてしまえば、従うしかない。

 自分達は、邪魔にしかならないのだと。

 優助と明日香は、家へと帰ることにした。

 家の前で、一度立ち止まる。思い出されるのは、否応もなくこの前のキス。


「……意識してんだ」


 明日香が、呆れたように言う。


「私もキスしてあげようか? それぐらいって思えるかもよ」


「馬鹿言え」


 苦い口調で言って、家の門をくぐる。

 待っていたのは、狼狽している智子だった。


「冬音ちゃんと連絡が取れないんですう!」


 第一声がそれだった。


「他の友達と遊んでるんじゃないか?」


「けど、私、冬音ちゃんの送り迎えを任されてるから……!」


「智子。お手伝いさんの娘だからってそこまで気に病むことはないって」


「そうじゃなくて、それが私の義務なんですう……!」


 智子は今にも泣き出しそうだ。

 優助は狼狽して、明日香を見た。

 他人事のように飄々とした表情だった。


「何事?」


 声をかけられて振り向くと、そこには冬音がいた。

 その目が、優助の右手に向けられる。


「大した怪我ではなかったみたいね」


「……まあ、残念ながらな」


 そして、沈黙。

 そこにいるのは、兄と妹ではなかった。

 気負っている男と、なにを考えているかわからない女だった。

 それが、微妙な気まずさを二人の間に生み出す。


「さ、晩御飯食べようぜい」


 そう言って、明日香が歩きだす。

 三人は苦笑して、その後に続いた。


「それにしても、心配したよお、冬音ちゃん。ラインも繋がらなかったし、何処行ってたの?」


「所用よ」


 冬音は、それ以上はなにも言わなかった。



+++



 スキルユーザー、召喚術師。だんだん胡散臭い話に腰まで浸かっていっている気がする。

 しかし、自分もあの力が使えればと思うのは事実だ。

 ミストのような凶行に走る人間が今後出ないとは限らない。

 だから、自分達は新たな力を身につけなければならない。


 明日香と共に登校し、投書箱を振る。紙の擦れる音がした。

 開いてみると、こう書いてある。

 男のデート相手募集。占い師のネームレス。

 その下に、地図が書いてあった。

 指定の時刻は、学校をサボらなければ到着できない時間帯だ。


「ま、たまには息抜きもいいんじゃないかね」


 明日香が呑気な調子で言う。


「こんなことしてる場合じゃないんだが……」


「最近の優助は責任感と家庭内の悩みで休まる暇がなさそうだ。少し息抜きしたほうがいいと私は思うね」


「そういうもんか」


「そうだよ。そういうのに、私は付き合ってあげられないからね」


 そう言った明日香は、何処か寂しそうだった。


「ねえ、優助」


「なんだ?」


「キスする?」


 二人の間の、時間が止まった。


「馬鹿言え」


 再び、時間が動き始める。


「優助はそう言うと思ってたよ」


 そう言って、明日香は優助の背を叩いた。

次回『魔女のデート』

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