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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
暁君枝編

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23/99

スキルユーザーは優しい夢を見る(完)

「今回の事件では、沢山の人が巻き込まれた。抵抗する力がなかったからだ。そんな人々を救うためには、全ての人間をスキルユーザーにして均衡を保つ必要がある」


 確かに、今回の事件では沢山の人々が巻き込まれた。

 そして、次はない、とは言い切れない。


「スキルユーザーを増やすことによって、詠月のお前さんへの警戒も薄まる。俺は暇になる。悪い話じゃねえ」


 君枝は考え込んだ。尤もな言い分な気がした。


「けど、そんなこと、今の私に出来るの?」


「出来る。今のお前には、この地の霊脈を操るキーが埋め込まれている。この地から、世界中の霊脈を書き換えられるさ」


 君枝は、黙り込んだ。

 情報屋は、何も言わずとも帰らずの森へと進んでいる。

 そして、二人は、帰らずの森へと辿り着いた。


 情報屋の先導に従って、歩いて行く。そして、森の中の草木も生えぬ地帯へと辿り着いた。

 そして、薄暗くなってきた空の中で輝く箇所に近づく。


「ここが中核か?」


「貴方には、見えないんだったよね」


「さあ、祈るんだ。この霊脈に触れて」


「ねえ……」


 君枝は、呟いていた。

 全ての線が、頭の中で繋がったような感覚がしていた。


「貴方、召喚獣の第二形態を操っていたけれど、第一形態の時の力はなに?」


「なんだ、唐突に」


 情報屋は、淡々と返す。


「コーポスミレが襲われた時、まるで図ったように車で待機していたけれど、あのタイミングの良さはなに?」


「たまたまだ」


「なんで詠月の中でも極少数の人間しか知らない試練の間のことを知っていたの? 何故、友美ちゃんはその場所を知れた?」


「それも、たまたまだ」


「なんで、小豆ちゃんはスキルユーザーからスキルを奪えることを知った? なんで拳児さんがスキルユーザーを確保していることを知った? そんなこと、私達以外知らないはずなのに」


 情報屋は、黙り込む。


「この一連の騒動は、大半が貴方がきっかけになって動いている。スキルユーザーからスキルを奪えることも、貴方が私を帰らずの森へと連れてこなければ知ることもなかった。まるで、貴方が何かを完成させようと目論んだかのように」


 君枝は、情報屋の顔をまっすぐに見る。


「貴方の第一形態の能力は……洗脳なんじゃないの? だから、拳児さんの舎弟達は不可解な裏切りをした」


「否定したら、信じるか?」


 君枝は、首を横に振った。


「……やはり召喚術師とスキルユーザーには洗脳の類は効きづらい。厄介だ」


 そう言って、情報屋は静かに微笑んだ。


「皆、貴方の企みに巻き込まれて死んだ……!」


「生物を次のステップへと進化させるという大義のためだ。それが我々天道衆の、最終目標だった」


「元詠月っていうのも、嘘なのね!」


「君枝。お前には気絶してもらう。お前も感じ始めているだろう? お前の中に、もう一人の自分が生まれつつあることが」


 星が一つ落ちてきたような火球が、夜空を煌々と照らした。

 それを君枝は、無言で情報屋に落とした。

 情報屋の蹴りが、君枝の腹部に突き刺さる。しかし、そこまでだ。情報屋は完全に消滅し、君枝はきりもみしながら地面を転がり、痛みに震えた。


 そして、君枝は膝をついた。


「嫌だよお……皆いなくなるなんて、嫌だよお……」


 涙が、頬を伝う。

 賑やかしい旅だった。常に誰かが一緒にいた。

 遠夜も、拳児も、情報屋も、死んでしまった。


 その時、黒い感情が君枝を支配した。


(今のうちに、世界を書き換えなければならない……)


 それは、使命感のように君枝の背を押した。

 そして、大地の光っている箇所に手を触れる。


(天道衆の本懐を遂げる時だ……)


「本当に、そうかな」


 背後から、穏やかな声がした。

 手に手が添えられる。背後の女性は着物姿なのだとそれでわかった。


「貴女は、どんな世界を望む? どんな世界に変えたい? 貴女は、どんな夢を見る?」


「私の望む、世界……私の望む、夢……」


「兄の死霊なら、私が取り込んであげる。貴女は貴女のために、力を使って。私達二人なら、きっとそれが出来る」


「私の夢は……」


 眩い輝きが放たれた。

 それは、帰らずの森を真昼のような明るさに変えた。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「報告書と暁君枝の証言から浮かび上がった疑問があるのだがな」


 先守哲三は、渋い顔で言っていた。


「お前ら、本当なら焔を殺せたんじゃないか?」


 秋奈と春香は顔を見合わせる。


「滅相もない」


「そうか? 第三形態の脚力で炎が落下する前に剣で首をはねる。逃げる余裕があるなら簡単な作業だったように思うが」


「お父様は実物を見てないからそう言えるんです」


 秋奈は堂々と言う。


「指先一つで炎がすとん、だもんね。まな板の上の鯉だよ」


 どこか呑気な調子で春香は言い返す。

 この二人が嘘をついていると、哲三は直感的に察していた。察していたが、追求する材料がなかった。


「……まったく、これだから跡継ぎ候補にも悩まされる」


「優助が立派な跡継ぎになってくれますよ」


「あれも何でも屋とかいう下賤なことをしておる。この前は強盗犯を捕まえたそうだな」


「ええ、元気な子で困っちゃいますねえ」


「お前の子供だろう! 付き人もつけておるのになにをさせているんだ!」


「と言っても、譲る子ではありません。あの元気さは、お父様譲りですわ」


 哲三は言い返そうと何か考え込んでいたが、そのうち溜息を吐いた。


「暁君枝は使えそうか?」


「ええ」


 秋奈は、淡々と言う。


「彼女なら、上手くやるでしょう。お父様と桜井の燕さんが封印に反対したおかげです」


「……使える駒は使わなければならん。それが上に立つ者の度量というものだ」


 そして、溜息を吐き、哲三は娘姉妹を見る。


「お前らももう少し使える駒になってくれればなあ」


「私と春香姉の攻防一体の召喚獣は県下一を自負しています」


「才があれば油断が生じる、困ったものよな」


 そう言って、哲三は再び溜息を吐いた。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「ハッピバースデー小豆ちゃーん、ハッピバースデー小豆ちゃーん」


 翔子の穏やかな声に合わせて、子供達が歌う。

 そして、小豆は、ケーキの上の蝋燭の火を消した。

 拍手と歓声が上がる。


「じゃあケーキ切り分けるわよー。皆に行き届く分はあるから心配しないでねー」


「はーい」


 翔子がケーキを切り分ける姿を、小豆は微笑んで見ていた。

 小豆は、第二の家庭を得た思いでいる。しかし、それとももうすぐお別れだ。


「小豆、配置換えになるんだっけ」


 少年が、寂しげに言う。


「近くだから、ちょいちょい顔を出すよ」


「あんまり無理しないでね。人数不足な部署だって聞いてるから」


 翔子が、不安げに言う。


「そして、自分で対処できないと思ったらいつでも私を頼りなさい」


「はい、信頼してます」


 小豆は、本心からそう言えた。本心から微笑めた。

 だから、幸せなのだと思う。


「詠月スキルユーザー対策部かぁ」


「頭数が揃ったからとりあえずの発足って感じらしいけどね」


 翔子はやはり事情通だ。上と仲が良い人は違うなと小豆は感心する。


「けど、今は小豆もスキルユーザーじゃないんだろ?」


「スキルユーザーだった経験は活かせるってことなんじゃないかなあ……多分」


 小豆は取り分けられたケーキを崩して口に入れながら答える。


「後は、対策部のボスに気に入られてるってことかな」


「コネかよコネー」


「コネ入社小豆ー」


「コネって大事ね、本当。皆も覚えておこうね」


「人の縁って言おうよ。あんまりブラックなこと皆に教えないでね、小豆ちゃん」


「はい」


 そう言って、小豆は微笑んだ。

 かつてはなかった、心の底からの笑みだった。

 久々に繁華街に出ると、桜木拳児と遭遇した。


「げ、炎使いの!」


「今じゃもう力はありませんよ。そう怯えないでください」


「誰が怯えるかい。勝負はいつだって」


「勝機がある、でしたよね」


「そういうことじゃ」


 小豆は思わず、小さく笑う。


「退屈じゃのう」


「遠夜さんも似たようなことを言ってました」


「あの旅は楽しかった。スリルに溢れていてな」


「テレビゲームでもして発散すればどうですか?」


「お前さん、俺がテレビゲームなんぞできるたちだと思うか?」


「案外はまるかもしれませんよ」


「検討して見るかのう……ああ、退屈じゃ、退屈じゃ」


 ぼやきながら、拳児は行ってしまった。

 その先を見ると、遠夜と手を上げて挨拶をしているのが見えた。

 拳児はなにか遠夜をからかい、遠夜は憤慨している。そして、遠夜の尻を叩いて拳児は去って行ってしまった。


「遠夜さん、お買い物ですか?」


「ああ、いやな。そろそろだろ? スキルユーザー対策部発足」


「ええ、それは聞いていますが……」


「カーペットとか調度品の調達を頼まれてな」


「拳児さんと言い、死んでたとは思えない元気さですね」


「それを言うな。危うく君枝が封印されるところだった」


 小豆は苦笑する。

 確かに、自分達は細い糸の上を歩いてきたようなものなのだ。


「君枝さんは元気ですか?」


「俺もしばらく会っていない。詠月本部で色々テストを受けてるみたいだ」


「世界を書き換える力、かぁ……」


「もうその力は以前とは違う質のものになっているらしいがな。怨霊の消滅がどうこうで。あいつはただの、暁君枝だよ」


「ええ、そうですとも。私達の、君枝さんです」


 そう言って、小豆は握り拳を作った。


「一人暮らしをするようになって、随分楽になった」


 遠夜は、独白するように言う。


「けど、まだ、あいつを守るための強さには足りない。俺には修業が必要だ」


「あの人を守る力って、相当ですよ……」


「修行には相手が必要だ。良い修行相手になってくれることを期待しているぞ、焔」


 そう言って、遠夜は去って行ってしまった。

 まったく、マイペースな人だ。

 期待が肩に、重かった。


 けど、もう一度、君枝と会える。

 そう思うと、小豆の足取りは軽くなった。


(早く来ないかな……)


 そう思いながら、小豆は初夏の繁華街を歩いた。




第二部はイグドラシルゼロを片付けた後にやります。先守優助編です。

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