炎と、嵐と
君枝は極度の緊張の中にいた。
ぶつかりあう炎と嵐。その炎の隙間から、時たま、風の刃が発射される。
それを炎の歪みを見て回避していくものの、いつ被弾するかは知れたものではない。
全力の炎をぶつけている。だというのに、相手の竜巻が破れない。
炎と嵐。嵐が相性の面で勝っているということか。
ならば、別の手だ。
君枝は、手段を変えて空中へと飛んだ。
その瞬間、竜巻が止む。
風の刃と炎の弾が空中で幾重にもぶつかりあい爆発を起こした。
そして、上空から羽根の矢を発射する。
次の瞬間、風の盾が巻き起こり、全てを吹き飛ばした。
完全な膠着状態。
「無駄なあがきはした? 神様にお祈りは? 両親に感謝は告げたかしら?」
友美は、嘲笑するように言う。
そして、巨大な風の刃を放った。
辛うじて回避する。
そして、また竜巻は巻き起こる。
攻防一体のその技を前にして、君枝は竦む。
「なら、そのまま蒸し焼きになっちゃいなさいよ!」
君枝は高熱の炎の壁を竜巻にぶつけた。
熱さを避けるように竜巻の範囲が広がっていく。
その時、目の部分も大きくなるのだ。
君枝は、炎の弾を幾重もの盾にして、竜巻の目へと突撃した。
風の刃が妨害に放たれる。しかし、炎の弾の一つが壁になって爆発する。
その時、友美は目を擦った。遠夜が与えた傷から流れる血が、隙を作った。
最後の壁、風の刃が格子状に配置された。
それと、全ての炎の弾がぶつかり、両者は相殺される。
そして君枝は、友美の前に立っていた。
竜巻の中心部の中、友美と対峙していた。
友美の表情は、驚愕に見開かれている。
思い切り振りかぶって、殴る。
竜巻が止み、友美が後方へと倒れた。
そして、右手を差し出して友美を狙う。
一瞬、頭を狙おうとした。しかし、すぐに足に狙いをさだめる。
その一瞬が、隙となった。
「甘っちょろいんだよ!」
膝に深々と風の刃を受けて、君枝はその場に座り込んだ。
血が溢れ出ていく。まるで命そのものが流れていくかのようだ。
そして、友美は君枝の右手を取った。
「長かったけど、これでおしまいだ! あんたの力は、私が貰う!」
痛みで、集中力が練れない。闇が傷口を埋めようとしてくれているが、一手遅い。
終わりか。
嫌だ。もう一度遠夜と共に歩くと誓った。これでは、約束が違う。
その時、銃声が鳴った。
友美の腹部から、血が溢れ出ていた。
「だから言ったんじゃ、君枝……」
疲れ切ったような声が、室内に響き渡る。
「どんな勝負にも、光明はあるってな」
拳児の声だった。
「お前の負けは決まってるんだよ!」
風の刃が飛ばされる。それは、深々と拳児の頭部を抉った。
それが、チャンスだった。
遠夜と拳児、二人のうちどちらが欠けても得られなかった、チャンスだった。
友美の内部から、光を吸収する。
「え、いや、嘘……」
友美は抗おうと、身を捩る。
しかし、君枝は放さない。
友美の内部から放たれた光が、君枝の体の中へと入ってくる。
一瞬、友美の記憶が、見えた。
「あいつのとーちゃん、拳銃隠してたのバレて捕まったんだってー」
「ヤクザの娘だからお母さんは近づくなって言ってた」
それは、心無い声。親が洗脳した子供達の声。
「私達、一緒だね、友美ちゃん……」
君枝は、瞳から涙が溢れ出してくるのを感じていた。
友美も、表情を歪める。
君枝の記憶も、友美は見ているのかもしれない。
「もう、一人じゃないよ……」
そう言って、君枝は友美の肩を抱いた。
友美は、しばらく唖然としていたが、そのうち肩を震わせ始めた。
「私は、貴女から色々なものを奪ったわ……」
「立場が逆なら、私がそうなってたかもしれない」
「許すって言うの? 私を」
「誰も救われない結末なんて、私は嫌だ」
後は、言葉にならなかった。君枝と友美は、その場で二人して泣いた。
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「最後まで生き残ったのは俺達二人か」
情報屋が、やや投げやりな口調で言う。
「そうだね……」
君枝は、呆然としていた。長かったようで短い数週間。その間に、色々な出会いと別れがあった。
今日の二つの別れは、君枝の中に深々とした闇を残した。
君枝は、情報屋の車に乗っている。
詠月に場を任せて、その地を去ったのだ。
「友美ちゃんとやらは奴らを従えていた。お前は、平和になったと思っていいんじゃないか?」
「そう……だね」
「けど、最後にやらなくちゃならないこと、あるよな」
情報屋が言うので、君枝は戸惑う。
「お前が吸収してきた力を使って、世の中の人間全てをスキルユーザーにすることだ」
情報屋の言葉に、君枝は絶句した。




