決戦を前に2
遠夜は、二階に辿り着いて、その一室で彼女と向き合っていた。
ヘルメットをかぶって、顔が見えない彼女。
暴風使い。
「……俺がアタリか。丁度いい」
そう言って、影の剣を右手に浮かべる。
「私が嵐だって知ってのこと?」
彼女は、嘲笑うように言う。
「そんな貧弱な風の刃が、私に届くとでも?」
「舐めてもらっちゃあ困る。これでも俺は、鳥居翔子の弟子だ」
「鳥居……翔子……」
彼女の声が、苦い苦い口調になる。
「お前の対策も、整えてきている!」
遠夜は、敵に向かって跳躍した。しかし、次の瞬間、竜巻が目の前に巻き起こり、後方へと飛んだ。
竜巻は飲み込んでいく。天井をも飲み込んで、前へ進んでいく。
「狭い部屋、逃げ場はない。貴方は、私の風を受けるしかない」
「その前に、倒すという手もある」
「なに……?」
遠夜は意識を集中した。周囲の風が遠夜の剣に向かって集まってきているかのようだった。そのうち、それは光を放ち始めた。
「力の一点集中! 鳥居翔子がお前の風を破った技だ!」
「二度と破らせはしない。風よ! 荒れ狂いなさい!」
竜巻は破壊の権化となり、天井を大幅に巻き込んで膨れ上がっていく。
そこに、遠夜は光り輝く剣を投じた。
風を破り、刃が相手の体へと沈んでいく。
それでも、相手は一歩を前へと踏み出した。
床に亀裂が入り、それは広がっていき、床が抜けた。
二人で、下の階へと冷静に降り立つ。
「もう一撃!」
敵は歩みを止めない。
遠夜は、光剣を投じる。
首筋に突き刺さった。ヘルメットの紐が切れ、暴風がそれを飲み込んで舞い上げていく。
やった、と思った。
これで、君枝の不安も解消される。自分の不安も解消される。
全ては、解決するのだと、そう思った。
風が、止んだ。舞い上がっていた壁や床の破片が、大地に降り注ぐ。
素顔を晒した敵が、無感情に言葉を紡いだ。
どこにでもいる女子大生。そんな外見だった。体に、傷一つない。
「同属性の下位のスキルユーザーは上位のスキルユーザーにスキルで傷を負わせることはできない。その仮説が、実証できたわね」
遠夜は剣を構える。
考え続ける。彼女に一撃を与えるすべはないか、と。
君枝に少しでも、楽をさせる方法はないか、と。
「こう、かしら」
そう言って、彼女が作り出したのは、風の剣。遠夜の得意技。
襲い掛かってくる彼女を感じながらも、遠夜は上空に剣を投じた。
「遠夜君!」
君枝の絶叫が、周囲に響き渡った。
そして、遠夜は胸を貫かれた。
しかし同時に、上空に残っていた床の破片が、女性に向かって降り注いだ。
鈍い音がした。
「これならスキルは関係ないだろ……?」
そう言って微笑むと、遠夜はその場に崩れ落ちた。
「ああ、結局……」
(好きだって言えなかったな……)
最後の思いは、言葉にもならず、意識と共に消えていった。
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「遠夜君! 遠夜君! 遠夜君!」
暁君枝が遠夜の体を抱いて狂ったように叫んでいる。
邪魔っけだな、と女性は思いながら、頭からとめどなく流れる血を拭う。
駄目だ、いくら拭っても血が出てくる。
傷口を縫わなければ駄目なのだろう。
「無駄だよ。遠夜君は死んだんだ」
女性は、微笑んで告げる。
嘲笑を篭めて。お前の力などこんなものなのだと思い知らせるかのように。
「遠夜……君……」
君枝は叫ぶのをやめて、女性に向き直った。
その表情が、強張っていた。
「友……ちゃん?」
女性、友美は、風の剣を振るった。その刃が飛ばされ、風を切り、君枝へと肉薄する。
しかし、君枝は爆破してそれを相殺した。
案外、冷静なようだ。
「存外、冷静ね」
「嘘だよ……友ちゃんが暴風使いだなんて……嘘だ……」
「嘘なもんか。私、貴女の能力を狙って、貴女に近づいたんだもの」
「じゃあ、友達になれるって言うのは……」
「方便に決まってるだろ。誰が友達になりたいと思うんだよ。お前みたいに変な噂が流れてる奴」
君枝は、泣いていた。
それもそうだろう。友を奪われ、友だと思っていた人間にも否定された。
その絶望は、計り知れない。
周囲の闇が、君枝へと吸い寄せられていく。
「許さない……!」
「そうだよ。湿っぽいのはなしにしようぜ!」
暴風が再び巻き起こる。
君枝は遠夜の体を抱いて、壁の隅に置くと、駆け足で元の場所に戻った。
そして、炎を巻き起こす。
風と炎が、再びぶつかりあった。
次回第十四話『炎と、嵐と』次々回第十五話『スキルユーザーは優しい夢を見る』にて第一部を完結しようと思います。
本日中に投稿します。




