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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
暁君枝編

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試練の間2

 老朽化が著しい山の中の寺に辿り着いたのは、夕暮れの頃だった。


「待ってたぜ、翔子」


「翔子さん」


 門で、青年と若い女性が出迎えてくれた。


「私は、春日」


「俺は秋冷。この山道の門番だ」


 君枝は、慌てて頭を下げる。


「暁君枝です。お世話になります」


「その女の子二人がスキルユーザー?」


 春日が、興味深げに訊く。


「女の子、二人?」


 遠夜が眉間にしわを寄せる。


「わ、声は男の子だ」


「俺は男だ! 男で悪いかよ!」


「いやいや、悪気があったわけじゃないんだよー? あんまりにも綺麗だからさ」


「お前の手落ちだ、春日」


 秋冷がすまし顔で指摘する。春日は苦笑したが、遠夜は収まる様子がない。


「まあまあ」


 翔子が割って入る。


「秋冷君、春日ちゃん、試練の間を使わせて。暁君枝には何かが憑いている」


 秋冷と春日は顔を見合わせた。そして、悪戯っぽく微笑んだ。


「それが本当なら確かめねばなりませんね。けど、その前に」


「スキルユーザーと俺達召喚術師、どっちが強いか確かめさせてもらいたい」


 翔子が困ったような表情になる。


「普段のこの子達はそんなに強くないわよ。我を忘れたら霊脈から際限なく力を吸収してとんでもない力を発揮するけれど」


 翔子は、少し申し訳なさげに君枝に視線を向けた。


「通常時のこの子は、詠月でも上位に位置する貴方達の敵ではないわ」


「ふうん、そうですか。二対二で丁度いいと思ったんですけどね」


「俺は、望むところだ」


 そう言って、遠夜が一歩前に出た。


「決着をつけようじゃないか。賭けるのは命だ」


「そうじゃなくっちゃ」


「面白くないなあ」


 春日と秋冷は微笑む。

 翔子は困ったような表情になっていたが、そのうち苦笑した。


「まあ、いいか。沢山の人を相手にした経験のある秋冷君と春日ちゃんなら、加減の術も心得てるでしょうしね」


(私の意見は……?)


 心の中で呟いた君枝だった。

 そして、寺の広い境内で君枝と遠夜、秋冷と春日は向かい合った。


「一人でも無力化されたらその時点で終わりでいいな?」


 秋冷が確認するように言う。


「異議ないです。戦意もないです」


 諦めながら、君枝が言う。

 遠夜は手に影の剣を作り出して、既に戦う気が満々だ。


「それじゃ、始め!」


 翔子が言って、手を叩く。

 その瞬間、空中にブロックがいくつも作り出された。

 それを蹴って、秋冷は一瞬で君枝の視界から消えた。


「後ろだ!」


 遠夜が言うのを待たずに、君枝は振り返る。

 翔子に背後を突かれて負けたのは苦い記憶だ。

 しかし秋冷は、さらに裏をついた。

 足音だけが前にあり、彼の姿は君枝の視界の何処になかった。


 背後から、腕を捻り上げられる。


「ああっ……!」


 君枝は、思わず苦悶の声を上げた。


「くそ!」


 遠夜はそう言って、剣を振り回す。

 幾重もの風の刃が、春日に向かって飛んでいった。

 しかし、突如現れたブロックの壁が、風の刃を阻んだ。

 それだけではとどまらず、次の瞬間その壁が春日に蹴り飛ばされて圧倒的な速度で遠夜を弾き飛ばした。遠夜はきりもみして宙を飛び、砂利に叩きつけられる。


(ブロックと身体能力向上……それがこの人達のスキル)


 君枝は頭の中で冷静に判断する。

 しかし、こうなっては既に勝ち目がない。

 負けだ。


「翔子さん、ハズレだよ、こいつら」


 秋冷が、淡々と言う。


「これじゃあ、試しの間は開けないな。意味がない」


 試しの間が使えない? 自分のうちにある謎の感情を確かめられない? それでは、ここに来た意味がない。

 苛立ちが、君枝の心を包んだ。


「お……変化が、あったようだ」


 秋冷が微笑んだのが、声質でわかった。

 周囲の闇が全て、君枝の中に入り込んでくるような感覚があった。

 地中から力を吸い上げることが出来る。いくらでも。


(不足と言うなら……満足させてあげようじゃない)


 それが、例え相手の死と引き換えだとしても。

 君枝は、炎の腕輪を作り上げた。


「あつっ」


 呻き声を上げて、秋冷は手を離す。

 そこに、影の翼を巨大に広げて羽の矢の一斉掃射。

 秋冷は辛うじて、その人間離れした身体能力で回避した。


「お兄ちゃん!」


「春日、パターンG!」


 そう言って、秋冷は空中に浮かんだブロックを蹴った。その先に次々とブロックが現れる。

 身体能力では勝てない。

 しかし、距離を置いて、最小限の移動で狙っていけば、接近は阻める。

 秋冷は移動し続けている。

 その時、君枝は直感的に気がついた。

 春日の方は、壁を作るばかりで動いていない。


 開いている左手を持ち上げる。人を丸ごと飲み込むような火球が、手に浮かんだ。

 それを、放つ。

 ブロックの壁が慌てて形成される。それを爆破して、吹き飛ばした。


 そして、二発目。

 春日は回避した。こちらも、尋常ではない移動速度だ。

 そして、二人はブロックの上を移動し始める。


 そのうち、秋冷が剣を手に浮かべ、突進してきた。

 それを、待っていた。


 大地に手を当てて、力を引き出す。

 炎の嵐が、壁となって君枝を囲んだ。

 秋冷は、そのまま行けばその壁に衝突する。大火傷を負うはずだ。


(何をしているの? 私……)


 君枝は我に返る。

 人を傷つけようとしている。何も悪いことをしていない人を。

 しかし、秋冷の速度は尋常ではない。体当たりを止める間はない。

 桜が舞った。

 それは足場となり、秋冷を救った。


「ここまで!」


 そう言って、翔子は手を叩く。

 秋冷も、春日も、地面に降り立った。浮いていたブロックの数々が消える。二人共、肩で息をしていた。


「わかったでしょう? 秋冷君。彼女の力の異様さが……」


「化けてから、畏怖や戸惑いといった余計な感情が一切消えた。そして、霊脈から無尽蔵に力を引き出した。これは、逸材だな」


「お兄ちゃん、火傷、大丈夫?」


 そう言って、春日が秋冷に駆け寄っていく。


「……お前は、大丈夫なのか?」


 その声が、自分に向けられているものだと察して、君枝は頷いた。

 炎の腕輪を作ったというのに、肌には火傷一つない。


「俺はこの有様だ」


 そう言って、秋冷は右手を開いた。火傷で赤く爛れていた。


「スキルユーザーという存在は、自分の使う力に抵抗力があるのかもしれんな。しかし、これは痛い。回復してもらってくる」


 そう言って、秋冷は一足で寺の奥へと跳躍していってしまった。


「すいませんでした!」


 君枝は、頭を下げる。

 この人達を、殺そうとした。その事実は、翻しようがない。


「いいんだよ。喧嘩を売ったのは私達だしね」


 春日は飄々としている。その優しさが、尚更重く君枝の背に乗りかかる。


「しかし、貴女には確かに何かが憑いている。それは、祓ったほうが良いものなのかもしれない」


 そう、春日は優しい声で言った。まるで、不安を煽るまいとするかのように。


「けど、祓っちゃって戦力ダウンしたら勿体無いですね、翔子さん」


「要は自分の力にできればという話よ。常時その力が開放できればいい。それが貴女の望みでしょう? 君枝ちゃん」


「私は……人を傷つけるこの力が怖くて……別人格の私が出なくなるなら、なんでも」


「その道を選ぶのにも覚悟がいるの。わかってる?」


「……わかりません。ただ、私は怖いんです。この力が」


「使い方が違えば、力は守るものにも傷つけるものにもなる。方向性を決めて使い道を選ぶのは貴女自身よ」


 翔子は、君枝の傍に歩み寄りながら言う。

 その手が、君枝の肩を掴んだ。


「願わくば、その力が守るためにあらんことを」


 君枝は、頷いた。

 守る力。そうであればいい。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「暇じゃ暇じゃ」


 そう言って、拳児は顔見知りのチンピラと肩を組んで夜の道を歩いていた。

 既に、かなり酔っている。

 足元が覚束ない。


「暇でいいじゃないですか、拳児のダンナ。事務所襲撃事件みたいなトラブルは懲り懲りですぜ」


「そうは言うがのう。俺はその犯人を捕まえようと躍起なのよ」


「下っ端が嘆いちょりますよ。アニキは横暴じゃちゅうて」


「何が横暴よ。俺が下っ端の頃はなあ……」


「その話はもうええです」


「ええとはなんだ、ええとは」


「君が、桜木拳児?」


 女の子の、冷ややかな声がした。


「なんじゃ、お前は」


 拳児は、その少女を見下ろし、訝しむ。


「私は、こういうものだよ」


 そう言って、少女は微笑んで掌に炎を浮かべた。


「あ、アニキィ……」


 チンピラが、怯えたように後退る。


「お前は、逃げえ」


 渋い顔でそう言って、拳児はチンピラの尻を蹴り飛ばした。

 チンピラは走り去っていく。

 しまったな、と拳児は思う。

 拳銃は下っ端に任せて隠させたところだ。手元にはメリケンサックしかない。

 焼死体。そんな未来が、見える。

 一撃で顎を打ち抜いて脳震盪を起こさせれば、勝機はある。


「で、なんの用じゃ、お嬢ちゃん」


「スキルユーザーを飼っているんだろう?」


「情報が早いなあお嬢ちゃん。何処で聞いた?」


「私に、そのスキルユーザーを譲って欲しいんだよ。容れ物は要らない。力さえ貰えれば、それで」


「知っとるか、お嬢ちゃん」


 少女が、不思議そうな表情になる。


「どんな時でも、勝機はあるもんなんだぜ!」


 そう言って、拳児はメリケンサックを手にはめた。

 少女は、無言で炎の球を幾重にも周囲に浮かべる。


「貴方、死ぬわよ。自分自身の過信のためにね」


「上等!」


 そう言って、拳児は最小限の動きで拳を動かした。


「……パイロキネシス」


 炎が爆ぜた。


次回こそ『鏡合わせの自分』

早めにアップできればと思います。

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