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スキルユーザーは優しい夢を見る  作者: 熊出
暁君枝編

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郷愁2

 拳児は女と戦っていた。

 武器を持っているようだ。それを投じたように見える。

 それを、しゃがんで回避して敵の腹部を殴りつける。

 彼女は崩れ落ちた。


「拳児さん、それ、鎖鎌です!」


 君枝の声がする。


「そりゃーヤバイ」


 拳児はその場から距離を置いた。

 女の手に、何かが掴まれた音がする。

 そして、女は腹部を抑えて立ち上がり、見えない何かを遠心力をつけて回し始めた。


「ヤバイのう。危ないのう」


 拳児はぼやきながらしゃがんで前進する。

 そのうち女性の手が上へ振り上げられ、振り下ろされた。

 拳児は回避して、立ち上がって直進する。

 女性は引く動作を行った。


「この辺りかのう」


 そう呟いて、拳児は何もない空中を掴む。

 すると、確かにそこには鉄の感触があった。


「やっぱ喧嘩慣れはしとくもんじゃのう」


 力任せに引かれて、女性が膝をつく。

 その腹部に、再び拳児の拳がめり込んだ。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 氷の矢が情報屋を狙っている。

 それを回避しながら、情報屋は進んだ。


 情報屋は召喚術師だ。召喚術師には複数の形態が確認されている。第二形態のメリットは、身体能力の向上。第一形態の力を失う代わりに、爆発的な身体能力を持つ。

 その速度で、情報屋は敵を翻弄する。


「これなら俺にも見えるぞぉ、情報屋!」


 そう言って参戦してきたのは拳児だ。

 鉄のメリケンサックで氷の矢を破壊しつつ、前進している。


 そして、二人に狙いが分散することで、情報屋が突進するだけの隙が生まれた。

 情報屋は突進する。

 そして、敵に蹴りを放とうとした。

 その瞬間、地面のコンクリートが形を変えて、壁となった。

 もう一人のスキルか。

 しかし、情報屋には通じない。

 情報屋は壁ごと敵を蹴り飛ばした。


(やべ、死んだか?)


 敵は大地にひれ伏して、咳き込んでいる。


(あ、良かった、多分死んでないな)


 情報屋は安堵する。

 そして、残った一人は、情報屋と拳児に囲まれて、血の気の引いた様子だった。

 決着は、ついた。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「ずっと俺を騙して、何がしたかったんだ!」


 襲い来る炎の玉を斬り飛ばしながら、遠夜は進む。


「私は貴方がいると安堵できた。愚かな貴方がいれば賢く立ち回る私が映えるでしょう?」


 遠夜は、表情を歪める。


「馬鹿な子だって思ってた。全部正直に話して不気味がられるなんて。私は違う。私は賢かった」


「黙れ、黙れ、黙れ!」


 遠夜は常人離れした身体能力で跳躍して、敵に接近した。

 数発、被弾する。しかし、身を焼く炎も厭わず、直進した。

 その時、敵は球を放つ構えをやめていた。地面に手を置いていた。

 危機を察知して、足を止める。

 炎の嵐が、敵を守るように巻き起こっていた。


「私の属性は炎! 炎は全てを焼き尽くす! 貴方にもダメージを与えてあげる!」


 遠夜は立ち尽くす。炎が徐々に近づいてくる。


「幼い頃は馬鹿にされて、大きくなれば利用される。貴方って本当に馬鹿だわ!」


「そうか、そんな風にも使えるんだな……」


 遠夜は、呟くように言っていた。

 その時、風が吹いた。


 まるで春風が隙間から舞い降りてきたように。

 しかし、それは徐々に強くなり、火柱を押し始めた。


「な、何? この風……」


「俺の属性は風。全てを吹き飛ばす、風!」


 炎と風の押し合いになる。

 勝負は、まだ、わからない。


 その時のことだった。


「許せない……絶対に、許せない」


 呟きが、場に響き渡った。

 君枝の声だ。


 見ると、君枝は黒い闇に包まれていた。

 その手から生える翼は普段のそれの比ではないほどに巨大だ。

 その巨大な翼から、羽の矢が一斉掃射される。

 君枝と戦っていた敵は、脚を数か所貫かれ、膝をついた。


「遠夜君を傷つけ、利用し、弄んだ。そんなこと、許せない」


 君枝は、淡々と言う。

 その瞳に、理性は宿っていないように見える。

 周囲の闇が、まるで全て君枝に向かって走っていくような錯覚すら覚えた。

 それほどに、その気配は濃く、圧倒的だった。

 そう、まるで、コーポスミレで翔子が足止めした相手のように。


 羽の矢の一斉掃射が行われる。

 それは、地面を削り、炎の壁に吸い込まれて蒸発した。


「足りない、足りない、もっと足りない……もっと、もっと、力が欲しい……」


 君枝を囲む闇はもっと大きくなっていく。


「君枝!」


 遠夜は叫んでいた。しかし、聞こえていないようだ。

 君枝は正気ではない。

 幼い頃の思い出が、ふと脳裏に蘇る。

 一人で本を読んでいた遠夜。その傍で、折り紙をしてくれていた少女。

 遠夜は、律子を庇って立っていた。


「やめろ君枝! 今のお前は正気じゃない!」


「邪魔だよ、遠夜君。君が邪魔をするなら、君も倒さなくちゃならない」


「律子は俺が説得する! だからお前は、引っ込んでいてくれ!」


「説得?」


 嘲笑うように君枝は言う。


「足りないよ、そんなの。そいつは、私達の敵だ」


 遠夜は、無言で、覚悟を決めた。


「トーヤ、なんで……?」


 周囲を囲む風に荒れ狂う髪を抑えながら、遠夜は悔いる。髪は切りに行っておくべきだったと。


「不条理なことをしたくなるんだよ、男の子は」


「こうなったら一時休戦ね。連携を取ろう。身体能力は貴方のほうが上。私は炎の壁で相手の矢を無効化する」


「接近して攻撃しろってか。まあ、無難だな」


「じゃあ、行くわよ」


 律子が、炎の嵐を止ませた。そして、遠夜の前に炎の壁を作る。

 それに守られて、遠夜は君枝に向かって跳躍した。

 羽の矢が何本も炎の壁に阻まれて蒸発する。

 そして、遠夜は君枝に肉薄していた。

 君枝は翼を使って炎から自分の身を守っている。

 その頭部を狙って剣の柄を叩きつける。


 それを、君枝は無言で避けた。そして、大きく羽ばたいて、再び律子を狙った。


「律子!」


 律子の脚が何本もの羽に刺される。

 そして、崩れ落ちた律子を背にして、遠夜は再び立った。

 君枝は地面に降り立ち、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 それに向かって、遠夜は斬りかかった。

 しかし、頭を掴まれて、地面に叩きつけられた。


 拳児が、君枝の前に立ちふさがる。


「殺すのは条件違いじゃ、君枝。わしゃ後味が悪いのは苦手じゃし、情報が掴めん」


「殺さなければ良いんでしょう……?」


 背後から君枝を狙おうとしていた遠夜は、その一言で動きを止めた。

 君枝が、律子の右手を取る。


「あ……ああ……嫌……」


 律子が駄々っ子のように手を引くが、君枝は構う様子がない。

 そして、律子から光が放たれ、それは君枝の中に吸収されていった。


 君枝は手を離す。そして、炎の玉を掌に浮かべた。


「これが、炎の力。有効活用してあげる」


 そして、とどめを刺そうと振り上げられた拳を、拳児が掴んだ。


「君枝。ようわからんが、もう十分じゃろう。俺達は勝利条件を達成した」


 君枝は拳児の顔を見て、不快げに何かを言おうとした。

 そして、そのまま硬直し、そのうち間の抜けた表情になった。

 彼女を覆っていた闇が、周囲へと拡散していく。


「……これを、私が……?」


 君枝は、震えるように言って、その場に崩れ落ちた。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「スキルユーザーはスキルユーザーの能力を奪えるの」


 律子は、応急処置を受けながら、淡々と説明を始めた。


「それで、私達は他のスキルユーザーの能力を狙っていた」


「その情報、何処から得た?」


「このメンバーが揃った頃、置き手紙に書かれていた。試してみて、成功したわ。その時の相手は今、一般人をやっている」


「そうか……」


 遠夜は、落胆する。遠夜達を追う人間に関しての情報はなさそうだ。


「君枝、そろそろ立ち直れよ」


 君枝は座って、塞ぎ込んでいる。自分が自我を忘れて暴れたことにショックを受けているらしい。

 それにしても、常人の力ではなかった。まるで、別人になってしまったかのような暴れぶりだった。


「彼らは詠月に引き渡そう」


 情報屋が言う。


「いらない記憶は、消しておいたほうが良さそうだ。それに、貸しを作っておけば交渉の材料となる」


 情報屋の言うことにも一理あった。


「トーヤ……あの、私……」


 律子が、躊躇うように言葉を紡ぐ。

 遠夜は、苦笑した。


「また、戻ってきた時にお帰りって言ってくれれば、それでいいさ」


「トーヤ……」


 律子は、目に涙を浮かべた。


「ごめんね」


 小さな声が、廃工場に響いた。

 本を読んでいる少年の隣で、少女は熱心に折り紙を折っていた。ただ、無心に折っていた。確かに、暖かい日々があった。それは、否定できないと遠夜は思う。


「これでまたスタート地点か」


 遠夜が、疲れの滲んだ声で言う。


「いや、一歩進もう」


 情報屋は言う。


「君枝の能力。それを、開放させよう。安定した状態で」


「……手はあるのかよ」


「一つ思い当たる節がある。詠月と上手く交渉できれば、だが」


 君枝が、顔を上げる。

 情報屋は、スマートフォンを操作して、何処かに通話を始めた。


次回『鏡合わせの自分』

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