サンリュース軍の栄光
ウィリアムが悪夢にうなされていたちょうどその頃、国王の住む城であるリュース城の会議の間には、国王クラウスとウィリアムの姉ヘレナ、宰相パウル、隊長イエスタほか、重臣達が既に集まっていた。そのあと少ししてから副隊長ハンスが姿を現した。
そして国王が口を開いた。
「まずはじめに、明日ヘレナとの婚儀を迎えるに至ったことをとても喜ばしく思う。兄の子であるヘレナとの婚儀の是非については、ここにいるもの達の忠言は十分に聞き入れたつもりだ。俺はサンリュースを、兄である前国王の愛が詰まったこの国を守るに当たって、ヘレナを妻として迎えるのは、俺の決意からであると理解してほしい。異論はないな」
誰も異を唱えない。
「貴女も異論はありませんか」国王はヘレナに言った。
「私も異論はありません」微笑みながらヘレナは言った。
国王は満足そうに言う。
「俺は素晴らしい者達に囲まれた幸せ者だ。心から礼を言う」
国王は続ける。
「2つ目は、イグノラシアの件だ。兄の死による混乱に乗じてか、愚かにもこの国を侵略しようと兵を向けてきたイグノラシアだったが、ハンスを始め、多くの者達の力を借りることで奴らを黙らせ、無事この国を守ることが出来た。ハンス、よくやった。心から礼を言う」
「過分なお言葉、身にしみます」ハンスは恐れ多いといった具合で言った。
「3つ目は、コンクエールとスイテンベルグの件だ。イグノラシアとの戦いで弱ったところを突こうとしているのか、それともイグノラシアに触発されてか、あるいは単に奴らが馬鹿なだけなのかは分からないが、コンクエール・スイテンベルグ両国が手を組み、この国に攻め込もうという動きが見える。奴らは能なしだが、束になってかかってこられては万が一ということもある。そこで、奴らの準備が整う前に別個につぶしてしまおうと思うのだ。その指揮をイエスタ、お前に任せることにする。明日の婚儀が終わり次第向かってくれ」
「かしこまりました。万事、仰せの通りに」イエスタは恭しく頭を下げた。
そしてようやくウィリアムが会議の間へと現れた。
「ウィリアム、ようやく来たか。何をしていたのだ」国王がウィリアムに視線を移す。
「叔父上の夢を見ていました」ウィリアムは興味なさげに言った。
「俺の夢か。どのような夢か教えてくれるか」国王も興味なさげに言った。
「話すほどの内容ではありません」ウィリアムはつれない言葉を返す。
「そうか。まあ、ウィリアムも来たことだ。話を続けるとしよう」国王は重臣達へ視線を戻した。
そのあとも、近隣国との問題や婚儀について、報告や議論がなされた。
そのほとんどはウィリアムに関係のないことであったため、彼は話のほとんどを聞き流していた。
そうしてスペースが出来た頭の中で、ここに来る前まで見ていた悪夢について思考を巡らし始めた。