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庭師Xの献身

 ハンスから城壁に現れた幽霊のことを聞いたのは昨日の午後のことだった。

 城の中は私の叔父であるサンリュース王クラウスと、その姪であり私の姉でもあるヘレナ姉様の結婚式の準備に追われており、たくさんの人が忙しそうに行き交っていた。私は特にすることもなく、ただ時間を持て余していた。


 城の中は落ち着かないため、私は散歩をしようと庭へでた。空は青く高く澄んでおり、雲も数えるほどしか浮いていない。私の心とはまるで反対だ。サンリュースの空はあの結婚に賛成しているように見える。姉様の結婚は祝福すべきだろう。相手があの叔父上でさえなければ私も心から祝福できたはずだ。


 庭を歩いていると、花の側で草むしりをしている庭師がいた。

 「花の調子はどうだ」

 「これはこれはウィリアム様。はい、とても健やかでごぜえます」

 「これらの花はとても美しいな」

 「こんな感じで雑草を抜いてやったり、枯れた花を取ってやるときれいな花が咲くのでごぜえます」

 庭師は誇らしげに答えた。不要な雑草や枯れた花を除くことで花はきれいに咲くようだ。

 この庭の花はこの国の王冠のように美しく輝いている。雑草のようにはなりたくない。


 庭師の元を離れると後ろから声をかけられた。

 「ウィリアム様、お元気であらせられるようで」

 「おお、ハンスか。戦から無事に戻ってこられたようだな。二ヶ月ぶりか」

 「はい、このハンス、イグノラシアより帰還しました」

 19歳の若さでサンリュース軍副隊長となった私の幼馴染みであるハンスは、先王である父上の死に乗じてこのサンリュース王国に攻め込もうとしていた隣国イグノラシア王国との戦いに赴き、無事勝利して戻ってきた。私は城の中で怠惰な生活を送るだけなのでこの友人を誇らしく思う。

 「よくぞ帰ってきた。友人としてうれしく思う。そちらはローレンツだな。見張りの仕事はもう慣れたか」

 「はい、もう完璧です。隊長になるのも時間の問題でしょう」

 「そうか、それは楽しみだな」

 ローレンツは私とハンスより3つ年下の見張りの兵士であり、幼い頃からかわいがっていた弟のような存在だ。調子の良いことを言っては周りからよくしかられている。

 「それはそうと、二人はどのような用事でこの暇人のところまで来たのかな」

 「はい、それは昨夜見た奇妙なものについてウィリアム様にご報告申し上げるためでございます」

 「奇妙なものとは」

 「私たちは、幽霊を見たように思うのです」ハンスがまじめな顔をして言う。

 「幽霊だと」にわかに信じられない。

 「はい、私もはじめは信じられなかったのですが、この目ではっきりと見た次第で」


 そしてハンスが続ける。

 「はじめに幽霊のことを聞いたのはおとといのことでした。私の元にローレンツがやってきて、見張りの時に幽霊を見たと言ったのです。私は夜の怖さでフクロウか何かと間違えたのではないかと言ったのですが、見間違いなどしていないというもので、それならと私も見張りに立ち会うことにしたのです。そして見張りを始めてしばらくしたところで、女の幽霊らしきものを見つけたのです。私は驚きましたが、正体を確かめるべく、おまえは何者だ、悪霊か、偽証は許さぬぞ、と言って幽霊に近づこうとしたのですか、そのとき丁度一番鶏が鳴きまして、それを聞いた途端、城壁から飛び降りたかと思うとそれきり姿を消してしまったのです」

 「女の幽霊か」結婚の直前に現れた幽霊というのは、この国に不幸が起こる前触れかもしれない。相手があの叔父上であれど、姉上の身に何かが起こってはいけない。

 「わかった。今晩私も見張りに立とう。幽霊の目的を確かめなくては」


 かくして私は幽霊となった妹と再会し、父上の死の真相を聞かされた。

 3人と誓いを立てたあと、私はさらに約束をした。それは今後私が不可思議な行動を見せてもその原因に心当たりがある様子を見せないことというものだった。殺人者である叔父は私が父上の死に疑問を感じていることに気づいたら私に対して危害を加えてくるかもしれない。そこで、私は気が狂ったふりをしてあの叔父に父上の死を調べていることを悟られないようにする計画を思いついたのだ。

 すべてはあの叔父に死ぬより重い苦しみを与えるため。その為なら狂人でも道化でも演じてみせよう。

 

 

 

 


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