幽霊は夜現れる
初投稿です。拙い物語ではありますが最後まで読んでくださると幸いです。
「ウィリアム、現れたぞ。あれだ」
それは午前三時を少し過ぎたときに現れた。
それは少女だった。少女が城壁の上で私たちに背を向けるようにして立っていた。
5フィート程のほっそりとした体躯に、緩やかなウェーブを持つ色素の薄い髪を腰のあたりまで纏わせている。着るものは囚人が着るような粗末な白いワンピースだけであり、装飾品をつけておらず、靴も履いていない。
「俺の言ったとおりだろう。これでおまえも俺の話が本当だと分かったろう」ハンスが得意げに言う。
「そのようだね。それにしても・・・・・・」あの後ろ姿は見覚えがある。
「ウィリアム、声をかけてみろ」ハンスが私をせかすように言った。
「ハンス様の言葉にもあれは耳を傾けようとはしないのです」ローレンツが困った顔をしていった。
「俺の言葉にも耳を貸さないとなれば、あれが耳を貸すとしたら次期国王であるウィリアム、おまえくらいだろう。」
「ハンス様、そのような話をされるのはよろしくないかと」
「よいではないか。ここには俺とウィリアムとおまえしかいないだろう」
「あの幽霊が聞いているやもしれません」
「あの礼儀知らずの幽霊の話を誰が信じるものか。ウィリアム、早く声をかけてみろ」
「分かったよ」
次期国王か。前国王であった父上が40歳にもならないうちに”病死した”ことを考えると、現国王である叔父が私に素直に王冠を譲る光景は浮かんで来ない。きっと私も父上のように”病死させられる”だろう。
それにしても、私が死者の国に行くより前にそこを体験したものの言葉を聞くことが出来るとはありがたい。父上が気を利かせて使いの者をよこされたのだろうか。そのようなことが出来るなら父上自身がいらしてくれたらよかったものを。
余計なことを考えてしまった。今は目の前にいる幽霊のことを考えよう。
「気むずかしいお嬢さん、どうか私にそのお顔を見せてくださいな」できる限りの笑顔を作り幽霊に話しかけた。この後ろ姿はやはり・・・・・・。
幽霊はゆっくりとこちらの方を向いた。その顔は
「お久しぶりです。兄上様。ずいぶんと他人行儀ですのね」
生前の妹そのものだった。