うるさい!魔法が使いたいわけじゃにゃ・・・いもんね!
メテオさんはツンデレです。
あたしの世界には、二つの人種がいる。
一つは、魔法を使える進化した人間。
もう一つは魔法を使えない進化しなかった人間こと、あたし。
メテオー。
よく、「器用貧乏だね」と言われる。お母さんにも、お父さんにも、先生にも、親戚にも、((進化した人間))にも。
確かにそうなのだ。ある程度のことは人より出来るのだけれど、それ以上が私にはないのだ。魔法が使えないにせよ、私には才能という素材が身体に備わってなかった。
ーああもしあなたに魔法が使えたらー。
ーもしお前に、魔法が使えたら聡明で名高い魔法使いになれただろうにー。
「もし魔法が使えたら」私は聡明で名高くなれたそうだ。しかし、私には魔法という力がない。さっぱりない。何度かそういう筋の呪いや遺跡、歴史に触れたことがあるが、ちっとも効果がなかった。私は聡明で名高くなれない。どれだけ頑張っても魔法が使えないから。ただし死んで生まれ変わったとき魔法が使えたら話しは別だけど。今の私はそれらの名声を諦めるという選択肢しかない・・・。
私を常識人から落とした魔法。
私はそれが大嫌いです。
3年A組 メテオ
押入れから、懐かしいものを見つけてしまった・・・。
これは普通科N地区中学校に通学していたときに書いたボツになった卒業文集だ。
あたしにしては力強くぶっきらぼうに書かれてある。先生は最初の3行目あたりで読むのをやめたっけ。
ま、的確な判断だなぁ、と。
いやあんなのがコピーされて冊子になったら・・・恐ろしい。それから書き直したんだったな。
何書いたっけ。 覚えてないや・・・。
荒ぶってるなあ〜。中学のあたし。
厨二病なんだろうけど。
いや、本当は今も・・・。
ふっと笑ってさっさと押入れに直そうーとしたとき。
ドン!!!という音とともに10000Gにも及ぶ重力があたしに襲いかかってきた!
これはヤヴァイ。
「重い!体を上から押しつぶされてるみたい!骨が折れるッッ!!」
苛立ちに近い言い方で私は叫ぶ。
家はミシミシいい、庭の木々が悲鳴をあげた。
遠くで狼が吠えている。おい狼!泣いてる暇があるならあたしを助けろ!!
ふああああ。あっ。あたしに魔法が使えたら、狼とコミュニケーションをとる魔法を使って、狼に助けてもらうのになあ・・・。
でもあたしには魔法は使えない。結局はそこ。
魔法が使えないあたしは、このまま死んでいくのかえ・・・。
絶望に浸ってたあたしを現実へと引き戻したのは
ドン!という大きな大きな音だった。
いや、違うな。
「キャアアアアアア!!!」
そう、この鼓膜が潰れそうな騒音。
「なに!?大丈夫⁇」
窓を開けて顔を出し、左右を見ると、外に爆発頭の女の子がぼーっと座っていた。
で、顔はホコリだらけでだらしない感じ。服はよれよれ。シャツははみ出ている。
「ね、ねえ!あなた大丈夫・・・」
あっ。
思わず息を止めた。
その少女の目が「赤」だったからだ。
実は、進化した人間としなかった人間が並んでも、どちらがどっちか分からない。
魔法使いにも見分けがつかない。分かるのは、その道のプロ・・・つまりマスターでないといけない。
じゃああたしたち凡人やマスターではない魔法使いはどう見分けるのか。
これが結構簡単で、魔法使いは能力を使うとき、その前触れで目が赤くなるのだ。
by五分で分かる!魔法入門
この子は今から魔法を使う。
能力は分からないが、多分さっきの異変はこの子の能力が原因だろう。
近くにいてはまずい。ここは逃げないと!
賢いあたしは逃げようと立ち上がったが、「キャッ!」
この子から出てくる重力の波に体が押されて動けない。おもりのように押しつぶされそうだっ。
「やめてやめて!ちょっと、聞こえてるの?」
一向に無視。
「おい!聞こえてる?こっち見てよ!やめてやめてってえええ!もう!」
さらに、無視。
さっきの卒業文集のせいか、死にそうになったせいか、絶望が心に残っていたのか、知らんけどカチーンときた。もうカッッッチーーーンときた!あったまにきた!
「おい!魔法使い!オイコラアアアアアア!!!魔法が使えるからって調子に乗るなよ!」
するとピタッと圧がなくなり、その子は(アホ顔を)こちらを向いて
「え。ホント?ゴリちゃん、魔法使えてる?」
とにゃあにゃあ嬉しそうに聞いてくる。
「あ?はあ?ふいい??使えてるじゃない!馬鹿にしないでよ。魔法使いでしょ?使えるくせに!」
すると、ゴリちゃんとかいう魔法使いは、きょとんとしてこちらを見てくる。
「んーーー?ゴリちゃん、魔法使いじゃないよー。だって魔法使えないもん。」
「いやいや、じゃあさっきのあれなに?魔法じゃなかったらなんなの?」
「大ばば様が、言うにはねー。それは魔法として認められないって!だから魔法使いの町から追い出されちゃって・・・・。」
さっきのが、魔法じゃ、ない?
ゴリちゃんは続ける。
「ゴリちゃん、あなたの言う通り、これ魔法だと思うんだ。だって、他の人は誰も出来ないんだもん。ゴリちゃんだけだもん。これ、できるの。なのにこれは魔法じゃあないんだって・・・。お父様、お母様が親子の縁を切るって。魔法が使えないゴリちゃんは用無しだって!」
少し可哀想に思ってきた。
座ったまま、彼女は目を抑える。
「ー赤ーだったんだ。ゴリちゃんの目。」
「ええ。魔法を使っていたから。さっきまでは赤かったわよ。」
すると、ゴリちゃんは左ポケットから古ぼけた写真を取り出して私に手渡した。
そこには幼い頃のゴリちゃんと、大人びた黒髪の美少女が映っており、二人とも、目が赤かった。
「このとき、なんの魔法を使っていたの?今と同じやつ?それとも、ー違う魔法ー?」
私が問うと、ゴリちゃんは少し驚いた顔をしてつぶやく。
「違う・・・魔法。えっと、つまりゴリちゃんの血に入っている本来の魔法とは違う魔法のことだよね?ううん。魔法を二つは持てないし・・・。」
「えっ?魔法は一つしか持てないの?」
「そうだよ!二つ習得しようなんてしたら、ー既存の魔法ーとーダウンロードした魔法ーとがぶつかって死んじゃうよ。」
「えーーー!?そうなの?一つだけしか持てないのね。知らなかった。」
驚いている私を見てゴリちゃんはニンマリ笑って
「そりゃあさ、ゴリちゃん、人間だもん。」
と、言った。
意外だった。
魔法を使える人間とあたしは全く違う生き物だと思っていたから。
あたしがそう思うように彼らもまたそう思っているのだろう。
俺たちは人間ではない、と。
あたし達は堕落し、進化しなかった動物。
彼らにしては、ただの人間。
そして彼らは、上人間ー。
「もしもし。 ねえーねえー。」
ゴリちゃんが私の服の裾を引っ張る。
「んっ!?な、なに?」
「さっきは止めてくれて、ありがとね。あたしゴリちゃん。旅人やってます。」
はにかみながらもまっすぐすぎるくらいこっちを見つめるから、あたしなんだかおかしくなって、久しぶりに笑ってしまった。
「私はメテオ。この家に今日から一人で住んでるのよ。だからあなたが私の初めてのお客様って事になるわね。」
ゴリちゃんは私に、「素敵な家だね。素敵すぎてもったいないくらい、素敵。」
と言った。
そのときのゴリちゃんの顔はまだ 不安と葛藤 に包まれていて、お世辞ということが一瞬にして分かってしまったのだけれども、私は本当に嬉しかった。
魔法を使える子も、あたしと同じように悩みがある事を知ったから。
遠く遠く離れていた私と、ゴリちゃんの距離がグッと近ずいていく衝撃が心臓に伝わって心臓がドドドと叫ぶ。
しかし、あたしの人生を良い方向に好転させたのはこの出来事のおかげだけではなく、この日、私にもう一つの大きな出来事が起きたのであった。
能天気なゴリちゃんとツンデレドSメテオ。
出会ってはいけない二人、目と目が合う瞬間、世界の歯車が鳴き出す。
だってメテオは、アメリカのスパイなんだもん!
・・・もう逃げられない。さよならゴリちゃん。
次回、「メテオ、死す」
⚠︎上記は今後の展開とは一切関係ございません。