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「それは何とかなる、何とかする」

 ナナシとシノンは、転生協会の建物を出て、とある喫茶店にやってきた。

 まだ太陽は高い時間だったが、この町の住人は仕事熱心とは言いがたく、呑気に茶をたしなむ客が多くいた。

 大皿に乗ったミートソースのパスタを二人で分けて食べていると、何度も声をかけられる。

 最初は、新人転生者であるナナシ目当てかと思ったが、実際にはシノンとお近付きになりたいだけのようだ。

 あまりに鬱陶(うっとう)しいのでどうしたものかと考えていたが、何かひらめく前にテンガロンハットを被った男が追い払ってしまった。


「まったく、しつこい男は嫌われるってのに」

 ナナシは思わず、

「誰だあんた?」

「俺はこういうものだ」


 空いてる席に座った男は、一枚の名刺を差し出した。

 受け取ったシノンが読み上げる。


「ジャン・ジャスベル・グロッサム…… さん」

「イエス、情報屋をしている」


 ジャンは帽子を脱いで顔を晒した。

 無精髭の目立つけた伊達男、おそらく三十歳くらいだろう。

 腰には拳銃のようなものをぶら下げている。


「俺はシェンゲンの方に行くんだが、何か調べ物があれば請け負うぜ?」

「営業ですか? 間に合ってます」

「そいつは残念…… まあ良いものも見れたし、満足しておこう」

 ジャンはナナシの事をじっくりと見てそう言った。なにやら品定めされているようで居心地が悪い


「それじゃ、またどこかで」

 そう言い残して店を後にした。


 ナナシは彼の後ろ姿を眺めて、

「なんだったんだ?」

「仕事が欲しかったんでしょう」


 料理を片付け、二人はコーヒーを頼んで食休みをする。

 ナナシはこの町ので出会った人たちのことを思い返す。


「仕事か。さっきの人、物騒なものぶら下げてたけど、転生者って戦わないといけないのか?」

「はい…… あッ! いえ。全員が、という話では無いんです。普通の人のように暮らす人も多いです。ただその…… 命の危険が多いほど、実入(みい)りが多いと言いますか、協会の斡旋はそういう物ばかりと言いますか」

「そうか…… 俺もそうした方が良いかな?」

「無理強いはしません」


 彼女はカップに口を付け黒い液体を飲み込んだ。

 コーヒーだってタダでは無い。シノンにおごって貰っている。金を稼がないと食事も満足に出来ない。

 やるなら早い方が良いだろう。


「俺も転生協会から仕事を貰いたい、おごられてばっかじゃ恥ずかしいしな」


 シノンの表情は真剣なものに変わる。

 ほんの数秒、二人は無言で見つめ合った。


「危ないですよ、辛い事もありますよ」

「それは何とかなる、何とかする」

 ナナシはコーヒーを一気にあおる。口から出てきそうな弱音を、苦い液体と一緒に飲み込んだ。


「本気、みたいですね…… 分かりました、同郷のよしみです。お手伝いしょう。今日から私の事を師匠と思ってださい。どこに出しても恥ずかしく無い転生者に仕立ててみせます。さあ、善は急げ、ですよ」


 シノンは立ち上がり、

「弟子取りなんて初めてです。楽しみ」

「初めて…… あれ? 急に不安になってきた」

「もうッ、イジワル言っちゃいけません」

 彼女は()ねたようで、プイッとそっぽを向いた。

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