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ラブレター ~追憶のププリーヌ~  作者: せんのあすむ
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お別れ

しばらく馬車が走ると、前から誰かが近付いてくるのが見えた。男の人と女の人だった。


「レリエラ!」


その二人は声を合わせて女の子の名前を呼んだ。


「お父さん!、お母さん!」


女の子が身を乗り出して答えた。馬車が止まると三人は抱き合ってた。女の子はまた泣いてた。


「良かった、無事で良かった」


男の人が女の子の頭を撫でながらそう言った。女の子は涙を拭きながら私たちの方に振り返った。


「この二人が助けてくれたの。二人とも人買いに捕まって連れてこられてたらしくて逃げる途中なの。今夜だけ泊めてあげていい?」


女の子の言葉に男の人と女の人はすごく喜んだ感じで、


「レリエラの恩人なら私たちの恩人と同じだよ。もちろん大歓迎だ。お礼の宴を開こう!」


そう言って私たちは女の子の家に向かうことになった。でも、その家を見た途端に男の子が、私の耳元で小さな声で言った。


「こいつら、貴族のはずだろ?。なのに普通の家じゃんか。よっぽど貧乏なんだな、この国は」


確かに、お城とかお屋敷とかたくさん見てきた私でも初めて見るくらい、貴族の家にしたら小さいと思った。それでも、さっきの村の家と比べたら立派だけど。


女の子が最初に声を掛けて馬車に乗せてくれたおじさんも私たちと一緒に招かれた。ここまで連れてきてくれたお礼だってことだった。すごく豪華って感じじゃないけどいくつも料理が並べられたテーブルにみんなで着いた。


「いったい、何があったんだい?」


食事を食べながら、男の人が女の子に尋ねた。


「それが分からないの。急に兵隊が押し寄せてきて屋敷に火を放って…。私は人買いに連れてこられてお屋敷に売られそうになったこの子たちと一緒に何とか逃げてきただけだから」


女の子の言葉に男の人も女の人も辛そうな顔になって、でもホッとした顔で、


「とにかくレリエラが無事で良かった。これからのことはまたゆっくり考えよう。今はとにかく休みなさい」


って胸を撫で下ろしてた。


食事が終わると、馬車で私たちを連れてきてくれたおじさんはお金が入ってるらしい小さな袋をもらって帰っていって、私と男の子はお風呂に入らせてもらってお客用の部屋に泊めてもらえることになった。部屋は一緒だったけど、私は人形だから気にしない。


「一時はどうなるかと思ったけど、これでまあ明日にはここもおさらばして仕事でも探すか」


ベッドに横になりながら男の子がそう言った。それから、


「なあ、お前はどうするんだ?」


って私に尋ねてきた。


どうするって言われても、私は別に何も考えてなかった。私はただ静かにぼ~っとしてられたら何でもよかった。人間の騒動に巻き込まれるのが嫌なだけだから。


「分からない。何も考えてない」


そう言った私に、男の子は言ってきた。


「なら、俺と一緒に行くか? お前は何も食べなくても平気だから金もかかんねーし、一緒にいても大丈夫そうだもんな」


男の子がそう言うんなら、別にそれでも良かった。だから「分かった」って応えた。そしたら男の子はすぐに寝てしまったみたいだった。




夜中。寝てなかった私は、部屋のドアがそっと開けられるのに気が付いた。ぼんやり眺めてると、兵隊さんが何人も入ってくるのが分かった。それを見て、「またか」って私は思った。


兵隊さんたちは私を担いで部屋を出た。そしたら別の部屋から女の子が出てきて、


「何してるの!?」


って怒った感じて言った。兵隊さんたちが困ったような顔をしてたらそこへ男の人が現れて女の子に話しかけた。


「レリエラ、これはこの国のためなんだよ。これは『魔女の落とし子』っていう人形で、大公様がお探しになってらっしゃるんだ。見付けた者には大変な褒美が出るんだよ。その褒美があればこの国を潤すこともできる」


やっぱりか。そんなことだと思った。


兵隊さんたちに担がれたまま、私はぼんやりとそんなことを考えてた。だけど女の子は泣きながら怒ってた。


「だからってこんなの酷いよ! ププリーヌが可哀想!」


でも男の人も譲らなかった。


「分かっておくれ、レリエラ。これが一番なんだ。この人形だって大公様のところに行けば大事にしてもらえる。みんなが幸せになれるんだよ」


そう言われても女の子も納得できないみたいだった。ポロポロ涙を流しながら私を見てた。


「私なら大丈夫。ありがとう」


私がそう言うと、女の子は「うわぁ~ん」って声を上げて泣き出した。


それから私は馬車に乗せられてまた運ばれていった。馬車の荷台で横になって星空を眺めてた。するとその時、私は何か思い出しかけた気がした。それは、人の顔だった。だけどはっきりとは思い出せない。たぶん女の人だと思うんだけど、はっきりとした顔も名前も思い出せなかった。ただすごく懐かしい感じがした。


何台かの馬車に兵隊さんたちも乗って、私をどこかへ運んでいく。途中、何度も休憩して御者も交代して、日が暮れても同じようにして進んで、三回、夜と昼が来た。


するとまた、街っぽいところに来た。建物がいっぱいあって人がたくさんいて。賑やかだった。だけど私にはシートが掛けられて、外からは見えないようにされてたみたいだった。私の方からは隙間から少し外の様子が見えてたけど。


森から運び出されて連れて行かれた最初のお城の時を思い出してた。石畳の上を馬車がゆっくりと進むのが分かった。それもしばらく行くと止まって、


「何用か?」


って声が聞こえてきた。たぶん門番とかなんだろうなって思った。


「大公様がお探しの『魔女の落とし子』をお持ちしました」


そしたら急に騒がしくなって人がいっぱいあっちへ行ったりこっちへ行ったりしてる気配がしてた。それからシーツがバッって取られた。何人もの兵隊さんと、兵隊さんとは違うちょっと偉そうな感じの人が私を見てた。


「間違いない、確かに魔女の落とし子だ!」


この光景、何度目だろ。って私は何だかもう慣れてきてる自分を感じてた。どうでもいいやって思って勝手にさせておいた。


また馬車が動き出してお城の中に入って行って、そこで何人もの男の人に担がれて部屋に連れて行かれて、そこで何人もの女の人に着てた服を脱がされて体を拭かれてまた立派なドレスを着せられた。そして鏡の前に座らされて櫛で髪を梳かれて綺麗にされた。


「おお、これが『魔女の落とし子』か?」


王様らしい人の前に連れて行かれて、やっぱりこの感じになるのかっていうのを見せられた。その後は何か学者らしい人たちに連れて行かれて服を脱がされて体中調べられた。


人間みたいに恥ずかしいって気持ちはないけどあんまりいい気分でもなかった。


俯せにされて私の背中に書かれた文字を書き写したりもされた。


もう、好きにして。


私は、そんな風に思ってた。


すると、私の頭の中をあの男の子と女の子の姿がよぎったのだった。


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