卑怯者の国
<北の大国>への入国は、拍子抜けするくらいあっさりとできた。
<冒険者>は、冒険者ギルドから発行される手形を持ってればだいたいどこの国でも入国が認められるからね。
冒険者には犯罪者も少なくないけど、逃げるために冒険者になったのもいるけど、逆に、
『悪事を働くのを目的に冒険者になる』
のは、意外なほど少ないって。
なにしろ、冒険者ギルドそのものが、自分達の信頼を守るために、悪事を働いた冒険者には賞金を懸け、それを他の冒険者が捕らえるという仕組みがあるから。
これが徹底されてる上に、冒険者そのものが使い勝手のいい労働力だから、どの国にとっても必要なんだ。戦争の時には傭兵にもなるし。
もちろん忠誠心なんてないとは言っても、戦争で怪我しても後の面倒とか見なくていいから、ある程度、的の戦力を削いでくれたり、敵を撹乱してくれればいいって感じのね。
<北の大国>は特に戦争をしてることが多いこともあって、さらに併合された国がそれぞれ割りと素直に言うこと聞かなかったりで、そういう意味でも冒険者は重宝してて、歓迎されてるっていうのもあるらしい。
そしてアーストンもジルも、見た目はまだまだ小さくても、もう立派な冒険者だ。
私達は、<冒険者家族>という形で入国する。
でも、先にも言ったとおり、北の大国も普通に人間が暮らしてるだけの国だ。入った印象も別にこれまでと変わらない。冒険者ギルドに行けば仕事も紹介してもらえる。
ただ、併合された時にそれまでの文化とか捨てさせられて、本とかも焼かれたりしたのはあって、まず私達が足を踏み入れた地域には、図書館がなかった。本そのものはないこともないけど、それらは北の大国の<本体>とも言うべき国からもたらされたものばかりで、元々の歴史や伝承を本にしたものはない。
それでも、口伝とかいう形で残ってるものはないわけじゃない。
「セレイネス王国? ああ、あの卑怯者の国か……」
早速、冒険者ギルドで紹介してもらった酒場の用心棒の仕事に就いて、聞き込みを始める。すると店主は、忌々しそうにそう言ったんだ。
「卑怯者の国?」
私が聞き返すと、店主は、
「あいつらは、俺達の国を売ったんだ。その代わりに自分達は王国を築いた。って、俺の祖父さんが言ってたよ。祖父さんもそのまた祖父さんから聞いた話だそうだけどな。だから俺は本当の話かどうかは知らん。実際、客の話ではぜんぜん逆だったりするからな。その手の<昔話>ってのは、結局、話す奴が面白おかしく変えちまったりしてるから、どこまで本当かなんて誰にも分かんねえのさ」
肩を竦めながら吐き捨てるように言ったのだった。




