他人に自慢できない明かせない人生
ここに集まっている人間達は、店主を始め、皆、およそ他人に自慢できない明かせない人生を送ってきた者達なのは私にも察せられた。
ほとんどは家族もいない。もしくは家族にも見捨てられた者達なんだろうな。
でも、だからこそ、この店に集まって酒を飲んでくだをまいて、癒されるんだ。
そして、店主自身がそう。ここにいる人間達は家族みたいなものなんだろう。
こうして、一ヶ月後、営業中に店主は倒れ、そのまま息を引き取った。常連達に看取られながら。
「じいさん、ゆっくり眠れよ」
「天国で娘に会えるかな?」
「いやあ、どうだろ。娘が病気で苦しんでんのに酒飲みに行って、その間に死んでたんだぜ?」
「ああ、それで女房がブチ切れて家を出てってそれっきりだってんだから、行くのは地獄だろ」
「ま、それで言やぁ俺達だってたぶん地獄行きだし、じじいに先に行っといてもらった方が安心ってもんだな」
「でも、地獄って、そんな簡単に先に行った奴に遭えるほど狭えもんなのか?」
「言われてみたらそうだな。この世の奴の半分が地獄に行くとしても、この世より狭かったらすぐに溢れるだろ」
「確かに。ずっと昔からの奴もいるだろうしな」
「そう考えたら地獄ってのも変なところだよな」
「俺は、地獄で務めを果たしたら虫に生まれ変わるって聞いたぜ? だからどんどん虫に生まれ変わっていなくなってんじゃねえの?」
「虫かあ、それも悪くねえかもな。余計なこと考えなくて済みそうだし」
「でも、虫って酒飲めんのか?」
「酒が飲めねえのは辛えよな」
「俺はじじいと同じで酒の所為で女房子供に逃げられたし、やめられんならそれでいいよ」
なんてことを口々に言いながら、常連の一人が用意してたという棺に店主を収めてた。
そこに役人が来て、店主が死んだことを確認する。
でも、あからさまに面倒そうだった。もし、店主が病じゃなくて誰かに殺されたんだとしても、『病で死んだ』ってことにしそうな様子だった。
それだけ見限られてる者達なんだろう。確かに、医者も診てくれないかもしれない。
だけど、こうやって常連客達に見送ってもらえるだけ、この店主はマシなのかもしれない。野良子なんて、それこそ獣と同じ扱いだから……街の外に捨てられて、他の獣の餌になるだけだから。
そして店主は、私宛に手紙と給金を残してくれていた。こうなることを、店主自身、察していたんだろう。
『こんな老いぼれの店で働いてくれてありがとうな。そんなにもたねえかもしれないが、二ヶ月分の給金は出しとくからよ、受け取ってくれ』
「……」
その手紙と給金を手にして、私は店を出たのだった。




