私が口出しすることじゃない
<グルーベル辺境自治州>に着いて、またあの偏屈な店主の酒場がある地域の冒険者ギルドで仕事を探すと、やっぱりまだあった。
あの酒場の用心棒の依頼。
まあ、あんな偏屈な店主がいちゃ、いつかないよね。
でも、私にとっては別に気にならないから、その仕事を請けた。
そうして例の酒場に行くと、
「おお! また来てくれたのか……!」
店主は、まるで久しぶりに会った孫でも迎えるみたいに歓迎してくれた。その上で、
「そう言えばあん時の野良子はどうした? やっぱりどっかで野垂れ死んだか?」
とも訊いてくる。だけどそれに対しては、
「あなたには関係ない」
と突っぱねさせてもらう。なのに店主は、
「そ、そうか……そうだよな……」
なんだか寂しそうに。それで私も、つい、
「今は他の人に懐いてそっちと一緒にいる……」
って。すると店主は、
「ほ、本当か!? 野良子は人間には懐かねえんじゃないのか…!?」
驚きながらどこか嬉しそうな表情で声を上げたんだ。
『気にしてくれてたのか……』
私はそう感じた。もっとそういうのを素直に表に出せばこの店主ももっと他人との関わり方が上手くなるのにな。とも思う。
でもきっと、私と同じで、分かっててもできないんだろうな。
だから私は、それ以上、余計なことは言わなかった。だけどその時、
「いてて……」
店主が眉をしかめて腹を押さえる。
「どうした……?」
私が尋ねると、店主は、
「いや、最近ちょっと腹が痛くなることが多くてな。たぶん、歳の所為だ。ははは、歳は取りたくないもんだ」
苦笑いを浮かべながら応える。
「医者には診せたのか…?」
改めて尋ねるけど、
「医者なんか、頼りにならねえよ。あいつらは金を持ってる奴しか相手にしねえ」
とも。確かに、そういう医者も少なくないのは私も知ってる。だけどためしに……いや、それは私が口出しすることじゃないか……
そう思い直して、私は以前と同じように淡々と用心棒の仕事を……いや、<用心棒という名の雑用係>の仕事を始めた。そんな私の姿を、店主が目を細めて見てる。本当に孫でも見るような目で。
そして、これまでたくさんの人間の姿を見てきた私には、ある予感があった。それもあって、当分、ここで働こうと思った。
そんな私を、
「お! あんたまた来たんだ! 元気にしてたみたいだな!」
「いやあ、あんたが来てくれてよかったよ! 他の奴じゃじじいの機嫌が悪くて落ち着いて飲んでられないんだ!」
「あんたがいると気前もよくなるしな!」
常連客が口々に私を歓迎してくれる。
だけど、私が酒とつまみを給仕した時、一人の常連客が、顔を寄せてきて、囁くように言ったのだった。
「じじい…もう長くねえんだ。だから、もしあんたさえ良かったらだけどさ、じじいの最後までつきあってやっちゃくれないか……」




