ただのじゃれ合い
<セレイネスの王子様>という手掛かりを得たことで、シュクの王立図書館で本を片っ端から読み漁る毎日が始まった私達だったけど、当然、夜は図書館も閉まってしまうから、トーマ達は宿を取り、休憩も睡眠も必要ない私は、また、冒険者ギルドで紹介してもらった酒場の用心棒で金を稼ぎつつジルに食事をあげるという生活になっていた。
「なんか悪いな、プリムラだけ働かせて」
宿の近くで待ち合せてまた王立図書館へ向かう時、トーマがそんなことを言ってきたけど、私は首を横に振った。
「私の方が、トーマ達には返しきれない恩がある。こんなこと、それに比べたらなんてことない…」
本音だった。私がトーマやライアーネの人生を狂わせてしまった。それを思えばこれくらいっていう話なんだ。
その一方で、ジルはすっかり私達の日常に馴染んでた。懐いたりっていうのとは全く違うけど、少なくとも攻撃的だったりひどく狼藉を働くという形ではなかった。だから図書館で本を読んでても、最初は本棚の陰に隠れるようにしてただ私の様子を窺ってるだけだったのが、他にも人間がいることで逆に私と一緒にいる方が安全だと思ったんだろうな。横に座るようになったんだ。そんな中で、彼女も<セレイネス>の文字を見付けてくれた。
それは、当時のそれぞれの国がどういう交易を行ってたかってことに簡単に触れただけのものだったけど、これで、<セレイネス王国>そのものが実在したというさらなる証拠にもなると思う。
ところで、王立図書館に出入りするに当たって、いかにも野良子な格好のままじゃさすがに他の利用者達が変な目で見てきてたから、私が稼いだ金でジルの服も買い揃えてた。さすがに王族の姫らしい身なりとはいかなかったけど、少なくとも冒険者らしい風体にはなったと思う。幼い冒険者だ。もう、一見しただけじゃ野良子には見えない。
しかもこの生活が半月を超える頃には、小さなアーストンに対してもある程度は気を許してるようにも見えた。大人が相手よりは打ち解け易いというのもあるんだろう。だから本を読んでる私達を見てるのに飽きると、図書館の庭に出て、二人で遊んだりしてた。パッと見ではケンカしてるようにも見える取っ組み合いをしてたりもする。
だけど、二人のことを見てきた私達にはそれが本気ではない、ただのじゃれ合いだというのは分かる。こうして遊びながら生きる為の鍛錬を積んでるんだ。相手と組み合った時にどうすれば優位な位置を取れるか、相手の攻撃を制しながら同時に自分が攻撃しやすい態勢を作れるか、それを学び取ってるんだろうな。
いずれ、そういうのではない、相手を思いやって慈しむ術こそが自分や周りを救う世の中になっていくかもしれない。でも今はまだこうやって力を振るうことで守ることが必要な世の中なんだ。




